第5話「代わりばんこ」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
盗人が焦っている様子を見ると、少年なら簡単に逃げられるとでも思っていたのだろうか。
犯人が逃げやすい場所での犯行。
現状、助太刀が一切無いことから、単独犯であることは間違いなさそうだ。
「俺たちだって、さすがに街中だからって手加減してるんだ。本気出したらとっくに捕まえてんだぞー」
「ガキに舐められて、たまるかよっ!」
そうは言うが、屋根に上っても地上に降りたとしても、必ずホムタとシュカのどちらかに追われることは盗人にとって不幸だった。
二人は役割分担をして常に全力を出す必要が無いのに対し、一方の盗人は常に全力で走らなければ追いつかれてしまう。
なかなか盗人が諦めない理由は何だろうか。
一つは確実に逃げられる策を準備していて、そこまで逃げようとしているのだろうか。
もしくは、少年二人くらい簡単に一捻りにできると考えていて、心置きなく戦える場所を探しているのだろうか。
「シュカ、また上だ!」
「了解。でも、あと少しで追い着くよ!」
しかし、シュカの目の前まで迫っていた盗人はシュカが伸ばした手をすり抜け、また屋根から飛び降りた。
「おしい! また下に――」
着地を決めた盗人は、そこでついに立ち止まった。
盗人の奥にはこの街の南門が見える。南天の街の端まで追いかけたということだ。
おそらく、南門から逃げる予定だったのだろう。
程なくホムタも追い着くと、振り返った盗人が短刀を抜いて構える。
盗人も落ち着きを取り戻しており、下卑た笑みを浮かべた。
「結局は、こぶしでケリをつけようってことか。まあ、良い運動になったぜ」
軽く肩を回しているホムタはあれだけ走ったはずが、ほとんど呼吸を乱していない。
早速、腰に差していた鞘から剣を抜く。どうやら戦う気は満々のようだ。
一方のシュカは、自分がこの状況で上手く戦うことができるのか、それだけが不安だった。
ここには江原の村から共にいてくれた忠猫はもういない。
とはいえ、なぜか身体は軽く、心の中では不安と迷い、僅かな希望が入り乱れていた。
「俺が前で戦うけど、シュカは戦えんのか?」
自分の心を見透かされたようなその声に、シュカはビクッとした。
「……強くはない。けど、ホムタの補佐くらいはできるよ!」
言葉ではそう言いつつも、迷いを拭うことはできていない。
「それで十分だ。援護さえしてくれればな。背中合わせて一緒に戦うような状況じゃねえよ」
そう言って盗人に向き合ったホムタは、シュカの躊躇いにも本当は気付いていたのかもしれない。
その背中は腕に覚えがあるのか、自身に満ち溢れていた。
その姿勢がシュカのことも勇気づけてくれる。
「うん、大丈夫。援護で良ければ、任せて!」
「ああ、よろしくな!」
シュカは白石を握り締めて意識を集中した。そして、風術を放って盗人への牽制を開始する。
やはり身体が軽く、今ならできそうという自信が持てた。
風術が放たれたことを合図に盗人との戦闘が始まる。
盗人とホムタの動きは素早く、シュカがその間に入り込む余地は無さそうだ。
だからこそ、盗人への牽制をしながら、いつでも大技を放つことができるように集中を切らさない。
いつ何が起こるかわからない以上、緊急事態に備えておくべきだろう。
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