第3話「取り合い」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
その色には見覚えがある。街中で見かけた赤髪の少年の肌が同じ色をしていた。
手の持ち主の予想はできているが、念のため顔を確認する。
「「あ……」」
やはり、あの時に見た少年だ。二人はまた見つめ合う。
シュカは最初に何を言えば良いのかわからずに黙っていると、先にその沈黙を破ったのは、赤髪の少年の方だった。
「なんだよ、お前……。ってその白い翼! さっき外で見た奴じゃんか!」
少年は興奮気味に、シュカの白い翼を指差した。
「やっぱり僕のこと、見てたんだ」
自分よりも背が低いその少年が――先ほどは遠くて見えなかったが――その首から提げている首飾りに目が留まった。
その首飾りは、ジュナの翼のような橙色の大きな石が中央に嵌められ、その存在を激しく主張している。
「俺がこのコートを買うんだ。これ、決定な? だから邪魔すんな」
少年は飾られていたコートをさっと手に取り、これはもう自分の物になったと主張する。
その言い方にシュカはカチンときた。
「いやいやいや、それは僕のほうが一瞬先に買おうと思ってたけどね!」
シュカはつい声を荒げてしまった。普段ならこれほど早く熱くなることはないのだが。その勢いのまま、少年からコートを奪った。
「いーや、違うね。甘い、甘い、甘すぎる。俺のほうが一咫だけな、早かったんだよっ!」
少年がシュカに取られたコートをまた奪い返し、一切引こうとせずに語気を強める。徹底抗戦のつもりだろう。
「ちょ、ちょっと、お客様方……」
二人の言い争う声が聞こえたのか、店主が様子を見に来た。
しかし、シュカは止まらない。
「はあ!? 咫は、長さの単位だから!! もうこのままじゃ埒が明かないよ。ねえ、店主のおじさん!」
「は、はい! なんでしょうか!?」
シュカもまた手を伸ばしてコートを掴むが、必死になった少年も簡単には手放さず、両者でコートを引っ張り合う形になっている。
店主はその間に入り込めず、あたふたするだけだ。
「「どっちが早かった!?」」
さらに熱くなった二人は、声を揃えて店主に対して言い寄る。
「え、えーと、どちらが早かったかって聞かれましても……。ああ、ウチの商品をそんなに引っ張らないで~」
店主は頭を抱えている。
二人が店主の判断を待っていると、その二人の前を一人の男が通り過ぎて行った。
「兄ちゃんたち、ちょいとごめんよ……」
わざわざこの狭い場所を通らなくても良いだろうとシュカは苛立つ。だが、その男の行動に不自然さを感じたのか、自然と目で追いかけていた。
さらに、男がホムタの前を通りすがる時、不審な動きを見せる。
「……っておい、やりやがったな、この野郎っ! それは俺のだ! 待ちやがれ!」
少年がその男に向かって叫ぶ。
しかし、その男は立ち止まらない。店内の狭い通路をスルスルと抜けて、颯爽と店を出ていった。
どうやら少年の首飾りが盗まれてしまったらしい。その価値はシュカにはわからなかったが、少年にとっては大切な物なのだろう。
そこでシュカは自分が走り出していたことに驚いた。
思考するよりも早く、身体の方が先に動いていたのだ。
「人の物を盗んで、良いわけがないっ!」
少年のために首飾りを返したいと思ったわけではない。
少年に恩を着せようと思ったわけでもない。
単純に人から物を盗むという悪事をした男のことが許せなかった。
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