第3話「幼馴染と妹」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
「シュカ、お疲れ様」
背後から突然明るい声が聞こえてきた。
シュカにはよく聞き慣れた声だ。
振り返った先にいたのは、幼馴染のドルナだった。
「ああ、ドルナ……」
シュカは忸怩たる思いを隠し切れないまま、彼女の名前を呟いた。
彼女の翼は桜の花びらのように優しそうな桃色で、可憐な花と例えられることもある。
誰が見ても美人だと認める容姿を持ち、すれ違った男女を問わずに見惚れさせてしまい、初めて見た男は間違いなく言い寄ってくる。
だが、付き合いの長いシュカは、彼女の気難しい性格を知っている。
彼女にとって都合の悪いことは当たり前のようにシュカのせいにされ、時には八つ当たりをされ、これまで散々振り回されてきた。
見た目からは想像できないような予測不能な行動を取り、気に入らない相手とはすぐに壁を作って孤立する。
悪い意味で目が離せない。
なぜかいつも傍にいて、問題事ばかり押し付けてくる彼女は、シュカにとって頭が上がらない天敵とも言えるだろう。
ドルナはシュカにとっての伯母さんの一人娘、つまり従姉だ。
だからこそ、二人は幼い頃から一緒にいることが多かった。
周りからはいつも羨ましがられたが、代わってくれるものなら誰かに代わってほしかった。
彼女がシュカの妹であるジュナと仲良しというのも原因だったのだろう。
二人が和気藹々としている様子をいつも見せつけられるのだ。
普段は何でも言うことを聞かせようとしてくる理不尽な姉のように思っていた。
「今はきっとひどい顔をしてるから、キミには見られたく、なかった……」
「そんなこと言わないで。顔がひどいのは否定しないけど、シュカが誰よりも努力していたこと、私は知っているわ。何かきっかけが必要なのよ、たぶん。ね、ジュナちゃん？」
もっとけなされるとばかり思っていたが、予想に反して優しい言葉をかけられたことに驚いた。
それだけ今の自分から悲壮感が漂っていたのかもしれない。
「シュカ兄、カッコよくない」
ドルナの陰に隠れて、辛辣な言葉をぶつけてきたのは妹のジュナだ。
どうやらドルナと一緒にここまで来たらしい。
その率直な言葉がシュカの胸に突き刺さるが、そう素直に言ってもらえたおかげで、幾分か気分も楽だった。
「そうね、今のシュカは弱くてカッコ悪いけど、自分を変えたくて必死に頑張っている。努力している人を馬鹿にするほうがカッコ悪いことよ。だからね、私と一緒に応援しましょう」
「ルーちゃんが言うなら、べつに応援してあげてもいいよ」
そう言ってからプイッとそっぽを向いてしまったジュナは、蜜柑のように温かな印象を与える橙色の翼の持ち主だ。
彼女は年相応に内気で、恥ずかしがり屋な少女だった。
時々、その声が聞き取れなくて聞き返すと、彼女の機嫌を損ねてしまうため、取り扱いには細心の注意が必要だ。
妹贔屓になってしまうが、幼い頃から顔立ちが整っており、大人になった時はドルナよりも絶世の美女になると思っている。
「それで、二人揃って何しに来たの？」
他のことを考えることでようやく気を紛らせたシュカは、二人の来客にその理由を尋ねた。
「そうだ、忘れていたわ。買い物に付き合ってもらおうと思ってたの」
当然のことだが、シュカに拒否権は無かった。
そうして三人は、王都の出店が並ぶ市場の辺りまでやって来た。
王都は白を基調とした街並みが印象的で、昼間はシャヘル（太陽）の輝きを反射し、いっそう街の白さを際立たせ、夜間はシャレム（月）と街灯がほどよい明るさをもたらし、昼間とは趣の異なる街並みを浮かび上がらせる。
ここサヴィノリアは碧空を飛ぶことのできる者だけが訪れることのできる場所だ。
そのために碧空の民は他種族からの侵攻を受けることなく、戦争の無い平和な国を築き上げた。
平和なこの国では、常に笑顔が溢れ、多くの民がのどかな日常を謳歌している。
目的地の市場は王都の入り口からも近く、王都を訪れた人は必ずこの活気に溢れた市場を見ることになる。
基本的にその活気は暗くなるまで続くのだ。
そして市場の南側の一角には、誰もが圧倒されるほど巨大な石像が立っている。
それは救国の英雄シヴォンの像だ。
彼の翼は純白だと伝えられており、剣を空高く掲げるその雄々しき姿は碧空の民すべての憧れである。
男であれば誰もが彼のように国を救える存在になりたいと願い、強くなろうと考える。
とはいえ、そもそもこの国では争いが起こらないので、その強さを示す機会もほとんど無いのだが。
そんな英雄と同じ白い翼を持っていること、その唯一の共通点がシュカにとって最大の自慢なのだ。
三人はシヴォンの石像を横切って、その先にある市場へと向かった。
「白のおじさん、寒くないの？」
立ち止まってシヴォンの石像を見上げていたジュナが呟いた。
「大丈夫よ。あのおじさんはね、百年以上も前にこの国を救った人で、シュカとは比べ物にならないくらい強い人だから、ぜーんぜん寒くないのよ」
「おじさんって、すごい人なんだぁ！」
英雄の話を聞いていたジュナが珍しく興奮している。
自分も同じくらいの歳の頃、シヴォンに憧れていたことを覚えている。
「そうそう。あのおじさんのことを馬鹿にすると、バチが当たっちゃうから気をつけてね」
「えー、それはやだー」
そうやってまた仲良く歩き出した二人は心底楽しそうにしている。
その様子を見ているだけで、シュカの気も紛れるのだった。
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