第1話「別れ」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
もしもシュカが怪我をせずに飛べていたとしたら、江原の村から南天まで一日もかからないくらいの距離だっただろうか。そこまで遠いという印象を受けなかった。
江原の村を出て馬車を走らせて三日ほど経過し、ようやく南天の街に辿り着いた。
そして、十分に翼を休めることができたおかげで傷も癒えた。彼らとの出会いには感謝してもしきれないだろう。
「長かった……」
狸淵と交代しながらではあったものの、二頭のエクーズを操り、四人の食事担当もこなしていた美貂はかなりお疲れの様子だ。
だが、彼らの目的は南天に到着して達成されたわけではない。彼らは農産物などを売るために来たのだ。
南天に入ったシュカたちは中央通りを歩いていた。今は荷を買い取ってくれる商人がいるという商館を目指している。商人はいつも同じ相手で、それ以外の商人は何も買ってくれないそうだ。
南天の街はサヴィノリアの王都よりも大きいだろうか。
東西の交易路の中心に位置し、氷都に向かうには必ず南天を通る。恵まれた立地により、自然と街が発展したようだ。
この街には石造りの施設が目立ち、見る建物のほとんどが石を用いて作られている。
つまり、この辺りには石資源が豊富に存在するということだろう。
道中でたまに目にした木造の民家の面影はなくなっていた。寒冷地における木材は貴重で、その多くは氷都に持って行かれるのだという。むしろ、豊富に存在する石材を使った家のほうが安く仕上がるのだとか。
南天の街まで来ると、さすがに寒さが厳しくなっているようにシュカは感じた。自身の肌を擦る機会が増えた。
今来ている服ではこれ以上の寒さに耐えることができないだろう。厚手の防寒具が必要なのは明らかだった。
慣れない寒さに身体を震わせるシュカに対し、街中を歩く人々は全く寒そうにしていない。
彼らが皙氷の民と呼ばれる人々だろう。肌は青白く、涼し気な顔をしている。自分よりもさらに薄着の彼らを見ていると、こちらが風邪をひいてしまいそうだ。
これは内緒にしていたわけではないそうだが、美貂は皙氷の民と琥獣の民の混合人種だったらしい。これくらいの寒さは特に気にならないという。
忠猫も多少寒がっていたが、琥獣の民自体も元々寒さには強く、南天の寒さくらいなら耐えられるようだった。
通りすがる皙氷の民の視線が厳しいように感じるのは気のせいではなさそうだ。
忠猫や美貂はそのことには全く触れようとしないが、どことなく気まずそうな雰囲気が漂っていた。
無言で街中を歩く時間がしばらく続き、目的地に辿り着く。
皙氷の民の商人の男は無事すべての積み荷を買ってくれた。
彼は琥獣の民も相手にしてくれる稀有な商人だが、特段優しいというわけではない。利益のためなら取引相手には頓着しない割り切った性格というだけだった。
それでも美貂たちにとっては、相手にしてもらえるだけ有難いだろう。
「これでシュカともお別れか。寂しくなるなあ……」
確かに忠猫や狸淵とは、この三日間だけしか一緒にいることがなかった。短い時間にも関わらず、別れを惜しんでくれているのはなんだか嬉しい。
そう言われると、なんだかシュカも寂しくなってきた。
しかし、氷魂草を持ち帰るという目的がある以上、一緒に戻ることはできない。
帰りのことを考えれば、江原の村に立ち寄る機会はあるかもしれないし、今生の別れというわけでもないだろう。
「シュカ……。また、会えるよね?」
シュカの返事も待たずに抱きついてきた美貂は、上目遣いでシュカを見つめて目を潤ませている。
出会った頃の彼女からは想像もできない表情だった。
「うん、きっとまた会えるよ。絶対に」
「……本当?」
「うん、本当だよ」
「わかった、信じてあげる。……そうだっ!」
ふと何かを思い出した様子の美貂は服の中を漁り出し、内ポケットから取り出した物を差し出してきた。
「これ、お父さんとお母さんがくれた御守りを真似して作ったの。琥獣の民に古くから伝わるおまじないで、また会いたいと思った人に大切な物を渡してね、それを目印にして再会しようって想いを込める」
美貂が作ったというブレスレットを受け取ったシュカは、さっそくその手につける。
木の繊維や実を組み合わせて作ったというこの御守りは、ドルナがくれた白石と共にシュカの背中を押してくれそうな温かみを感じた。
「大切にさせてもらうね。必ずまた美貂に会いに行くから」
「ん、約束」
彼女は出会って以来、最高の晴れやかな笑顔を浮かべていた。
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