第15話「猫の本気」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
目を開いたシュカが見たのは、金色に輝く忠猫の身体だった。
聞こえたのは、その身体がヘネラの強靭な爪を弾き返した時の音だったのだ。
忠猫の雰囲気が明らかに変わったことで危険を察知したのか、ヘネラも距離を取る。
「え……あれが、忠猫?」
シュカは忠猫の急変に呆けることしかできない。
「余所者には見せるなって、きつく言われてたんだけどなあ……。ま、シュカならいっか。そんじゃあ、ティグルちゃんよお、こっからが本当の勝負だ!」
忠猫が頭を搔いて後悔しているように見えたが、気を取り直してティグルに向き直る。
「私も初めて見た時は驚いた。忠猫は捨て子で、しかも琥獣の民ではありえない特別な力を持ってる。誰も聞いたことない『金』を操る力。でも、琥獣の民であることは間違いない。それに残念だけど、時間が経つと砂になっちゃう……」
美貂が冷静に――しかし、金が残らないことは心底悔しそうに――教えてくれた。
「すぐ決着つけてやる」
すると、忠猫が持っている槍も金色に光り輝いた。
そのまま様子を窺っているヘネラは、若干怖気づいているようにも見える。
そんな様子を知ってか知らずか、忠猫がヘネラに迫っていく。
「いくぜ! 『大漁、千金!』」
忠猫は槍を一度振るっただけなのに、その穂先から金色の刃が無数に放たれ、ヘネラに向かって飛んで行く。
防ぐ術を持っていなかったヘネラが身体を丸めて攻撃を受ける。
金色の刃がヘネラの硬質の皮膚さえも斬り裂き、辺りに血が舞った。
しかし、ヘネラは全ての攻撃を防ぎ切り、致命傷というには程遠かった。
自身が想定していたよりも軽傷だったことに気付いたようで、みるみる戦意を取り戻していく。
「お、やるねえ。そんじゃあ、こいつはどうだ?」
ヘネラの頭上目掛けて、忠猫が飛び上がった。
「『藤滝』」
忠猫が円を描くように振るった槍から、金色の塊が放たれる。
それはまさに、金色に煌めく藤の花が滝の如く落下しているようだ。
黄金色の刃の集合体が、ヘネラの頭上に向けて真っ逆さまに落ちていく。
ヘネラは咄嗟に頭を守るので精一杯のようだ。
一瞬のうちに金塊に覆われる。
「忠猫って、こんなに強かったんだ……」
「んー、飛べない相手なら?」
辛辣な言葉で現実を突き付ける美貂だが、忠猫の実力を信頼しているのか、怯える様子はほとんど見せない。
彼女は既に似たような状況を経験したことがあるのだろうか。
「あいつだけはこりごりだ」
忠猫はヘネラから注意を逸らさず、会話にまざってくる。
ヘネラを覆った金の刃塊が無くなると、そこに現れたのは皮膚がボロボロになるまで切り裂かれたヘネラだった。
その頭を抱えたままの状態で静止している。
「やった……?」
微動だにしていなかったヘネラを見て、美貂がその言葉を発した途端、固まっていた身体がピクリと動いた。
「いや、まだ……だよなあ?」
動き出したヘネラは、傷だらけの身体でもう瀕死の状態に見える。
野生の本能で、自分に死が訪れることを察していてもおかしくないだろう。
それでも、忠猫に対して一矢報いてやろうとでも思っているのか、最後の足掻きを見せようとする。
もしかすると、既にヘネラの意識は無かったのかもしれない。意識の有無とは関係なく、まだ忠猫に襲い掛かろうと、ゆっくりと動き出す。
「今、楽にしてやるからな……」
落ち着いた声で言った忠猫は一段と深く腰を落とし、槍を構える。
「『巨龍の戯れ、修羅が生ず』」
勢いよく忠猫が放った一突きは、煌々と輝く金龍の爪のように見えた。
金の爪がヘネラの身体を深々と抉る。
既に瀕死だったヘネラは、そこでついに絶命したのだろう。
豪快な音を立てて、正面から倒れ込んだ。
激戦における緊張の糸が切れたのか、その場に忠猫も寝転がった。
そこへ美貂と狸淵が駆け寄っていく。
忠猫のおかげで危機が去ったことに安堵を覚えるシュカだが、今の自分では間違いなくあのヘネラには勝てないこと、ゲオルキアにはこれだけ格の違うビスティアがいること、自分はもっと強くならなければ大切な人を守れないこと、様々な想いが心の中で燻るのだった。
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