第13話「束の間」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
夜の山越えは危険なため、山に入るのは翌日にしようという話になり、シュカたちは山の手前で見つけた少し開けた土地で野営の準備を進めていた。
すると、少し首が長くてエクーズよりも立派な巨体を誇る獣の群れが目に入った。
もし、その長い首を振るって攻撃をされたら、シュカはひとたまりもないだろう。
ゆったりと余裕を持って歩いている彼らの様子を見ていると、危険な生物ではないと思ってしまいそうだが、先ほど失敗した経験から何が起こるかわからないと警戒を緩めないようにした。
「だからさあ、そんな肩に力を入れんなって言っただろ」
いつの間にか背後に立っていた忠猫が両肩を掴んできた。
緊張して凝り固まっていた肩がほぐされる。
「でも、きっと危険な獣なんだよね。そうやって僕を騙そうとしてるんでしょ? 忠猫だって一歩も近付こうとしないじゃないか!」
シュカは忠猫がふざけていて、自分を引っ掛けようとしていると思い込み、信じないつもりだった。
「ギラフィス(キリンとオカピが混ざったような獣)は大丈夫」
「……え?」
全く近付こうとしない二人をよそ目に、恐れを知らない美貂がギラフィスの群れに近付いていく。
美貂が近付くと、身長の低い彼女のためにその長い首を地表近くまで下げてくれる。
彼女は慣れた様子でその首筋を撫で、さらにはこっそり餌まで与えていた。
どうやら本当に安全な獣だったようだ。
「この大陸に危険な獣が多いというのは間違ってないさ。たまにはこうやって触れ合える獣もいるんだから、捨てたもんじゃないだろ。ほら、シュカも行って来いよ」
と勧めてくる忠猫は、その場から一歩も動こうとしない。
「え、忠猫は、行かなくていいの?」
「俺もか? 蹴とばされても良いなら、行く――」
「あ、ごめん……」
シュカはすぐに謝罪する。忠猫だって本当は触れ合いたいだろうに、それ以上言うのはやめておこう。
忠猫をその場に残して、シュカもギラフィスたちのもとへ向かった。
美貂はやや小柄なギラフィスの背中に乗せてもらっている。
彼女を乗せているギラフィスも心なしか楽しそうだ。
シュカも別のギラフィスに乗せてもらうことにした。
乗り手を気遣ってくれているのか、ゆっくりと駆けてくれる。
その後は、美貂が乗るギラフィスとどちらが早いか競争したり、この辺りを巡ってのんびりしたり、一行は暫しの休息を楽しんだ。
「シュカ、この野草をあげると、とても喜ぶ」
美貂から受け取った野草をシュカが差し出すと、ギラフィスの口から長い舌が現れた。
そして、シュカが持つ野草の束をその舌で巻き取って、咀嚼している。
「うん、美味しそうに食べてる」
ギラフィスの背中の上がとても心地良く、ずっとそうしていたかったが、すっかり夢中になっているうちに暗くなってきてしまったため、束の間の触れ合いはお開きになった。
「じゃ、晩御飯にしよう」
シュカと同様にギラフィスと戯れていたはずの美貂は先に切り上げていたようだ。
そして、狸淵や忠猫と協力して晩御飯の支度を済ませていたらしい。
翌朝はシュカも手伝おう。
旅の途中で豪勢な食事は期待できないが、先日の蜥蜴肉や道中林の中で採取した木の実等を駆使して、美貂が調理をしてくれた。
限られた食材の中で、栄養面を気にした料理を作ってもらえるのは本当に有り難い。
とはいえ、蜥蜴の肉はどんな味がするのだろうか。
シュカはこんがりと焼かれたその肉を恐る恐る口に含んだ。
「……! 案外いけるんだ! 食感もそうなんだけど、なんだかこの味もクセになりそう……」
蜥蜴肉の意外な美味しさをシュカは知った。ただ、元の騎士の姿は思い出さないようにしよう。
「それは美貂のおかげだぞ。本来はマズくて食えたもんじゃないんだ。他に食べるものがあるなら、あいつらを食うなんてあり得ないからな」
そう言いながらも忠猫は、蜥蜴の肉を次々と頬張っている。
文句は言いつつも、まんざらではないようだ。
「忠猫のおかげで、たくさん手に入ってしまったからしょうがない」
料理した本人である美貂もまた、蜥蜴肉を味わっている。
「そういうことだ。俺にちゃんと感謝して食うんだな」
ずいぶん偉そうな態度だったが、忠猫のおかげである事実は変えられない。
「そういえば、明日中には間違いなく南天に着く。今日は早く寝るんだぞ。朝はいつもより早めに出発するからな」
食事をさっさと終えた忠猫は、すぐに寝る支度を始めるのだった。
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