第10話「忠猫」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
忠猫は知りたい欲が強いようで、それが収まるまでサヴィノリアのことを根掘り葉掘り聞かれた。
美貂も同様に興味があったようで、二人が飽きるまで話続けることになった。この国を出たことが無いからこそ、彼らは異国の話に興味津々だったようだ。
その後はシュカがシャンの話を聞く番になり、様々な知識を蓄えることができたのは良い経験だっただろう。
江原の村があるのはシャンの最南端であり、西には大森林が広がっている。
しかし、危険な毒を持った生物が多く、幾つ命があっても足りないため、決して近寄らないという。
東には山脈地帯があり、その先にシャンとは異なる国があるそうだが、わざわざ険しい山道を越えようとするのは商人や旅人くらいなんだとか。
「シュカが乗っている子、もう懐いている。離れたくないって」
美貂がシュカの乗るエクーズの様子を見て驚愕していた。
「懐いて、くれてるのかな? それは別れるのが寂しくなっちゃうかも……。そんなことがわかる美貂はすごいね」
心の底から思ったことをシュカは正直に告げる。
狸淵も感心の眼差しを向けてきていたので、琥獣の民ならそれがわかるのだろう。
「琥獣の民なら、会話もできるし、それくらいわかる」
忠猫がいる後方を見た美貂の顔は少しニヤついているように見えた。
含みを持たせるような言い方に少々違和感がある。
「そうだよ、俺は普通じゃない。どう見たって獣なのに俺は琥獣の民じゃないんだ。それか、前世で獣をいたぶって楽しんでたとかな……」
卑屈になっている忠猫をシュカは励まそうとしたが、俺なんかに構うなと拒絶されてしまった。
「上手く話せなくて、反対に嫌われやすい人もたまにいるんだって。忠猫みたいに」
落ち込んでいる忠猫と対照的に美貂は楽しそうだ。彼女には縁の無い悩みだろう。その代わりに、人見知りという悩みはあるだろうが。
「やっぱりそうなんだ。忠猫が全く近付かないから、何かあるとは思ってたけど……。きっとそんなに大した問題じゃないって」
シュカも薄々は気付いていた。そうでなければ、忠猫を含めた三人で南天に向かい、自分が同行する必要は無いのだから。
忠猫が一切エクーズに近寄ろうとしなかったのも、無闇に暴れさせないよう彼が気を遣っている証拠でもあったのだ。
「俺は何もしてないんだぞ。ただ俺が近付いただけで暴れ出すなんて、さすがにおかしいだろ!」
どこにも怒りをぶつける先が無い忠猫の叫びはむなしく響く。
しかし、シュカには同情することしかできない。
美貂が誰にも教えられることなく乗ることができたのも、自然と心を通わせることができたからだろう。
無意識のうちに何かしているのかもしれないが、忠猫にはそれができないのだ。
本来、琥獣の民なら野生の獣であっても心を通わせることができるおかげで無用な争いをしなくて済むが、突然変異で発生するビスティアは、琥獣の民でもどうしようもないという。
「シュカが倒したべラクイラの野郎、いつか俺が倒すって思ってたのになあ……。先越されちまったぜ」
忠猫が相当悔しそうにしている。
あの時は、何よりも自分の命が最優先でなりふり構っていられなかった。シュカが飛べるからこそ、まともに戦うことができただけだ。
「ビスティアは元の獣よりも凶暴、かつ肉体も発達する。ゲオルキアなら、どこにでも現れるから、忠猫みたいに戦える人がいないと、危険すぎる」
つまり、用心棒を任される忠猫はそれだけ実力を買われているのだろう。
突如、荷台で暢気に揺られているだけだった忠猫が飛び上がった。
荷台から顔を出した彼の顔には笑みがこぼれている。
それはまるで、獲物を見つけた狩人のようだった。
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