第9話「出発」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
翌日、江原の村を出発する準備を終えたシュカたちは、村の入り口に集まった。
南天へと向かう商隊のメンバーは、御者として同行することになった美貂、墜落したシュカを見つけたという番兵の男忠猫、そしてエクーズ乗りの青年狸淵。
そこにシュカを含めた四人での旅路となる。
一行が村民たちに見送られて林道に出ると、早速忠猫が口を開いた。
シュカと話がしたかったのか、村を出る前からずっとそわそわしていたのだ。
「やあっと聞けるな。シュカの故郷のサヴィノリア? ってどこにある国なんだ? そんな国は初めて聞いたぞ」
少々堅気な人物を想像していたので、非常に軽い調子で聞かれたのは意外だった。
「サヴィノリアは南にあるんだ。空高くに浮かぶ島だから、知らなくても仕方ないよ」
シュカは南の方角を指差す。だが、今は雲に隠れているのか、サヴィノリアを見つけることはできなかった。
たとえ雲に隠れていなかったとしても、大陸に比べて遥かに小さな浮島を見つけるのは難しいかもしれない。
「へ? 空に浮かぶ島って、お前どんだけ遠くから来たんだよ。どうりで知らないわけだ」
村を出た途端、堰を切ったように騒がしくなった忠猫とは裏腹に、美貂は静かに二頭のエクーズを巧みに操っている。
美貂が操る二頭が農産物を積んだ荷台を引いており、南天で売るために連れて行く二頭にはシュカと狸淵がそれぞれ乗っていた。
そもそも忠猫がエクーズに乗れば、シュカはいなくて良かったではとも思ったが、忠猫は道中の用心棒としていつでも動けるほうが良いと言われ、その時は納得した。
その忠猫はというと、完全に脱力し切っていて、馬車の振動に身を任せていた。
村の周囲の林道を抜けると、少し開けた道が見えて来た。
そこには、広大な土地を活かすように作られた田園地帯が広がっている。吹き付けてくるそよ風がとても心地良い。
見渡す限りの田畑にシュカは言葉を失った。
辺りを見回すと、今抜けて来たような小さな林があちらこちらに見えており、そこには江原の村のような小さな集落があるのかもしれない。
大規模な畑作をしていて、周囲に全く住居が見受けられないのは、おそらくそういうことだろう。
そうしてしばらくの間変わらない田園風景をのんびり眺めていると、その田園地帯の水源となっているだろう大河が姿を現した。
「えっ! こんなに大きな川があるの!?」
シュカが指差したのは、水を引き入れているために作られた水路の先にある大河だ。シュカはサヴィノリアに存在する小さな川しか見たことがなかった。
「あー、なんだっけ。シャンでも一、二を争う大河って話だ。どっちのほうが大きかったかは忘れちまったなあ」
忠猫が暢気に教えてくれる。
大きな川があることはカロムにも聞いたことはあったが、ここまで大きいとは思ってもいなかった。王都がすっぽり埋まってしまいそうだ。
「そんなに驚くことか。俺はどこにでもあるもんだと思ってたけどなあ。そうじゃなきゃ、皆が飯食っていけないだろ? 確か、遥か遠い山地から流れて来てるんだってさ。そこに神様でもいるんかねえ」
「私たちの村も少し離れてるけど、この川のおかげで、野菜は育つし、川魚も食べられる」
珍しく美貂も会話に混ざってくる。彼女は野菜や魚が好きなのだろうか。
「これだけ大きいほうが、ゲオルキアには合ってるんだろうね」
それぞれその土地に適した自然があるのだと、シュカは思う。
「つっても、この国で川の付近に住めるのは、皙氷の民だけなんだ。だから俺たちの村も川から少し距離がある。まあ、近すぎても川が人間に牙を剥くこともあるし、これぐらいの距離感がちょうど良いんだ。水を巡る争いなんて、もってのほかだしなあ……」
しみじみと語る忠猫には悲壮感が漂っているように感じた。まるで水を巡る争いを実際に経験したかのように。
もしくは、かつてこの地で起こった争いの話を、嫌というほど聞かされていたのかもしれない。
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