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碧空アルバム ~氷雪の王国編~  作者: 白浪まだら
1章「ゲオルキア」
20/102

第8話「小さな師」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 そして、挑戦の回数を数えることを止め、それから幾度と挑戦したシュカは、ようやく何かを悟る。


「ひょいっと!」

 そこでついに、シュカの身体が宙に舞った。今まで身体が上がらなかったことが嘘のように、エクーズの背中にすっぽりと収まる。


「こ、こういうことだったんだ! やった! できたよ、めい――」

 すると、突然シュカが乗っているエクーズが走り出してしまった。

 シュカは美貂が言っていた「ひょいっと」をようやく理解できた喜びのあまり、エクーズ上ではしゃいでしまったのだ。 


 エクーズに乗った後にどうすれば良いのか何も教わっていなかったシュカは、前後左右に強く揺られる中でかろうじてバランスを取り、振り落とされないようにしがみつくだけで精一杯だった。


 混乱しているシュカは、どうしたらエクーズが止まるかを考えることもできない。

 そんなシュカを無視して、エクーズが辺りを走り回る。


 シュカが必死に耐え続けていると、慌てて別のエクーズに乗った美貂が近付いて来た。

「ブロ、ブロ、落ち着いて、ね、大丈夫。シュカが慌てなければ、この子も止まってくれる」


 美貂の言葉を聞いてシュカが落ち着きを取り戻すと、彼女が言った通りエクーズも自然に走る速度を落とし始める。

 そして、徐々に常歩に変わり、最後は立ち止まってくれた。


 そこへ先にエクーズから降りていた美貂がやって来て、彼女に支えてもらいながら、シュカは地に降り立った。久し振りに自分の足で立てる安心感を味わい、そのことに今日ほど感謝したことは無いだろう。


 一朝一夕で本当に乗れるようになるのか、シュカの心を不安が支配する。

 そのためには、今のやり方を変えるべきだ。


「やっぱり、いきなり実践するのは早かったと思うんだ。美貂の感覚だけじゃなくて、僕が理解できるように説明してもらえないかな」

「……ごめん、頑張る!」


 美貂もやる気はあるようだ。その仕草から強い意気込みを感じる。

 まだ何とも言えない不安はありつつも、教えを乞うシュカの努力次第でもなんとかなるかもしれない。


 早速仕切り直して、美貂にエクーズの基礎から教わることになった。

 彼女の感覚的な言葉に対して、実際にどのような感覚なのかをシュカがしつこく聞いて、理解できるまでそのやり取りを繰り返す。


 時には絵を描いて、どの部位のことを言っているのか(つまび)らかに聞く。

 美貂も知り得る限りの言葉を捻り出して、不器用ではありつつも真摯(しんし)に教えてくれた。


 先ほどエクーズに『ブロ、ブロ』と言っていたのは、名前を呼んでいたのではなく、落ち着かせるための掛け声だったらしい。


「エクーズに乗る人が慌てると、この子たちも、興奮して一緒に暴れる。だから、シュカも冷静にならないと、ダメ」


「突然走り始めちゃって、なかなか止まってくれなかったのは、そういうわけだったんだ」

 小柄な師である美貂のことを稀に妹のジュナと重ねながらも、シュカは純粋な気持ちで教わる。


 シュカは美貂と一緒の時間を過ごすうちに、彼女が徐々に心を開いてくれたように感じていた。たどたどしい話し方もだいぶ滑らかになっている。


 シュカとたくさん言葉を交わすことで、慣れてきたのだろうか。無表情だったことが多かった彼女の顔にも、微笑みが見えてきたような気がする。


 その後は一日中美貂に付きっ切りで教えてもらったおかげで、シュカは自信を持ってエクーズに乗れるようにまでなっていた。


 柔鼬にもエクーズに乗れるようになったことを見届けてもらい、南天に向かう商隊に同行する許可も得ることができた。


 村長である柔鼬は村に残るらしい。ご老体に長旅は厳しいだろうし、村長が村を離れることも、特別な事情がある時くらいのようだ。




 夕食を済ませた後、シュカの翼を見ながら柔鼬が話しかけて来た。

「シュカ殿の翼は、見事な純白をしているのう」


「白というのは、何色にも染まりやすい色だとか。自分を持たない臆病者の色だなんて、よく馬鹿にされてましたけどね」


 褒められたことはシュカも純粋に嬉しかった。

 サヴィノリアでは、英雄シヴォンと同じ翼の色というのは本来誇らしいことだ。周りもそれを妬んでいたからこそ、馬鹿にしていたのかもしれない。


 しかし、英雄に対する気負いは、シュカが自分に自信を持てない理由の一つでもあった。


「その白き翼は、シュカ殿が清らかな心の持ち主という証じゃ。輝いているようにも見える綺麗な白色はその分目立ち、悪い者にも狙われやすいじゃろう。道中、くれぐれも用心しなされ」


「はい、ありがとうございます」

 シュカは柔鼬の言葉を、しかと心に刻みつけた。

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