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碧空アルバム ~氷雪の王国編~  作者: 白浪まだら
1章「ゲオルキア」
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第4話「ビスティア」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 無人の小島に立ち寄ったのが昼頃だと考えると、既に半日近くは飛んだということだろうか。

「もう少しで、ゲオルキアに……」


 なかなか近付いているように見えなかったその大陸が、目と鼻の先まで迫っている。かなりの疲労が溜まっているが、この調子なら日が暮れる前には辿り着けるだろう。

 その事実にシュカは安堵する。


 しかし、すっかり油断しきっていたシュカは、急接近してくる存在に気付くのが遅れてしまった。

 ()()が視界に入った瞬間、反射的に身体を一回転させて、間一髪回避に成功する。


「ギリギリ、セーフ……」

 突然襲い掛かってきたのは、シュカよりも一回り大きな体躯を持つ大鷲だった。鋭利な爪を持ち、見るからに獰猛そうな顔つきで目の前の獲物であるシュカに狙いを定めている。


 不意を突かれたシュカは、反撃の態勢を整えようとするが、手元が覚束ない。

 一方の大鷲は既に旋回を終えて、二撃目は決して外さないとでも言うように再接近している。


「くっ、重い! これが()()()()()の力……!」

 シュカはなんとか剣を抜き、二撃目を防ぎ切る。

 だが、大鷲の爪を押さえるだけで精一杯だ。反撃する余裕はない。

 

 今は受け流せたものの、一度その爪で捕らえられてしまえば、ひとたまりもないことを本能で理解する。


 大鷲は甲高い鳴き声を上げながら急旋回した。その速さはシュカの飛行速度を優に超えている。

 ここまでの飛行で疲れ切っているのもあるが、飛んで逃げ延びることは考えないほうが良さそうだ。


 この大鷲はゲオルキアが危険と言われる原因になったビスティアに変化している。彼らは問答無用で人々に襲い掛かり、様々な被害をもたらす猛獣ということだ。ビスティアが発生するその環境こそが、ゲオルキアを危険たらしめている。


 それはかつて温厚だった獣が突然変異した姿であり、基本的にコミュニケーションを取ることは不可能である。


 大鷲が再び接近してきたため、今度は余裕を持って回避した。

 それから大鷲は、縦横無尽に辺りを飛び回り始める。その素早さで、こちらを翻弄しようというのだろうか。


 シュカはいつ攻撃されても対応できるように、警戒を怠らない。

 そしてシュカの想定通り、背後を取った大鷲がその翼を大きく羽ばたかせ、一直線に向かって来た。


 意外にも落ち着いていたシュカは後方に風術を発生させて、自分の身体を少しだけその場から移動させる。


 すれ違いざまに、せめて一撃でも与えられればと思ったのだ。

 しかし、シュカの攻撃は鋭い鉤爪によって防がれてしまった。


「やっぱり、一筋縄ではいかない……」

 とはいえ、大鷲は一度こちらの様子見をすることにしてくれたらしい。すぐに襲い掛かって来る気配は感じられない。


 その様子を見て、シュカはゆっくりと距離を取ろうとする。この下に広がる林の中にさえ逃げ込めば、大きな体躯を持つ大鷲から逃げるチャンスもあるだろう。


 だが、大鷲もジリジリと距離を詰め、逃がさないという強い意志が伝わって来る。

 その鋭い目つきに捉えられ、生きた心地が全くしない。


 おそらく、ここで大鷲に勝たなければ、シュカは生き延びられない可能性が高い。

 先のように大鷲と接近した時が唯一のチャンスになるだろう。つまり、この窮地を切り抜けるためには、一か八かの賭けに出るしかなかった。


 大鷲のほうも準備が整ったのか、また猛スピードで迫って来る。

 

 シュカは冷静になるためにも、ドルナがくれた白石を握り締めた。


 深呼吸をして、自分の心を落ち着かせる。


 心なしか力が漲るような、安心するような、不思議な感覚だ。


「ゲオルキアにまだ着いてないのに……こんな場所で、死ぬわけにはいかないんだ!」


 ここまで飛び続けた疲労感を考えると、今更だが、もう少し砂浜で休んでおけば良かったとも思う。そんな後悔を抱えながらも、シュカは敵の一挙手一投足に全神経を集中させた。


 目前に迫る鉤爪に対して、その身体を捩りながら、かろうじて回避する。

 そして、ずっと防戦一方だったお返しの気持ちも込めて、風を纏った剣の一撃を繰り出した。

「『風一閃っ!』」


 大鷲の肉を斬り裂く確かな手ごたえが伝わってくる。

 その達成感にシュカは左拳を強く握り締めた。


「よしっ!」

 ふと、致命傷を浴びた大鷲を見ると、目の前で確実に事切れており、地上へ向けて落下しているのがわかった。


「……ん? あれ、れ?」

 息の根を止めた大鷲が落下しているはずが、いつまでもその距離が離れない。

 単純に羽ばたくことを忘れていたのだと、シュカは急いで翼に意識を集中させた。


「いたっ!」

 しかし、翼は思い通りに動かなかった。翼は赤く染まっている。大鷲の鉤爪を完全に回避することはできなかったということだろう。


 シュカの努力は虚しく、大鷲と共に落下していくだけ。

 空中で飛べなくなってしまっては、もうどうすることもできなかった。


「こんな死に方は、もっと嫌だああぁぁああ!」

 どうにか落ちないようにと空中で藻掻き続けるが、木々の枝葉で身体中を傷つけられ、無情にも地面に叩きつけられる。


 強い衝撃を受けたシュカは、意識を保ち続けることができなかった。

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