第3話「羽休め」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
砂浜に降り立ち、シュカはまず島を歩き回った。この島に人がいれば、飲み水を分けてもらうことができるかもしれないと思ったのだ。
しかし、シュカがこの島を一通り見て回っても、人の足跡すら見つけることはできなかった。
シュカが降り立った砂浜に戻って来た時、ちょうど空腹を我慢できなくなった。
「そろそろ、お昼かな」
シュカはドルナが作ってくれた携帯食のアグロフ(小麦粉にヨーグルトを練り込み、酵母菌を自然発酵させてから窯で焼き、後から入れる切り込みに様々な具材を挟んだもの)を食べることにした。
野菜や肉などの具材が内部に挟まれて、そのパン生地からすべて手作りしているようだ。彼女はよくカーシェに料理を教わっているため、シュカ好みの味付けを知っており、とても有り難い差し入れだったが、一つだけ足りないものがあった。
シュカのお腹を満たすことはできても、乾いた喉を潤すことができない。むしろ、さらに水分が欲しくなってしまったのだ。
目の前には広大な海が広がり、豊富な水が存在しているというのに、それができないのはわかっている。その代わりとして、島の中を巡った際に飲み物になりそうなものがないか目星をつけていた。
それほど大きくないこの島では、幹が細くて背の高い木が特に印象的だった。その木には四角い果実が実っている。
これは幼い頃カロムに教えてもらったシャロマ(ヤシの実のような果実)という果実のはずだ。
極めて硬い外殻を持つが、その中に液体が詰まっており、栄養満点の果実水が疲れた身体を癒してくれるという。
シュカは迷わずその果実を取った。
試しに振ってみると、中に液体が詰まっていることが感じ取れたが、どうやって中身に辿り着けば良いのか、方法が思いつかなかった。
「当面の問題は、どうすればこの外殻を貫くことができるか……かな」
果実を覆う外殻が硬すぎるのだ。目の前に水分があるというのに、それを飲むことができず、虚しさだけがシュカの心の中を支配する。
近くに落ちていた流木で叩いてみたり、木に投げてぶつけてみたり、この島でやれそうなことはひたすら試したが、びくともしない。怒りに任せて頭突きをしたこともあったが、ただ自分の頭を痛めただけだった。
だが、シュカはそこで諦めなかった。
こんなに硬い外殻で覆っているくらいだから、中身もさぞかし美味しいに違いない。妄想を膨らませることで一度頭を整理し、今何が一番必要か、改めて考え直した。
「果実を覆う外殻は木で叩いても、ぶつけても全く効果が無い……。外殻よりも、さらに硬いものといえば……」
そんなものがすぐに見つかっていれば、水分補給のためにここまで苦労などしていない。外殻よりも硬く、先端が尖った物なら穴を開けることができそうなのだが。
シュカは腰に手を当てて、最適な物をこの島で調達できないか考えている時、ようやくあることに気付く。
「あ……」
辿り着くべき答えは、自分の最も身近な所にあったのだ。腰に手を当てた時に手に当たったもの。ダンシュの剣の存在をすっかり失念していた。
剣が武器であるという固定概念が招いた過ちだった。
貸してくれた父への後ろめたさを感じながらも、剣先を利用して地道に硬い外殻を削り始める。借りた剣を初めて使うのが、果実に穴を空けるためだったなんて、誰にも言えないだろう。
そして、最初は苦戦していた削り作業に慣れて来た時、ついに果実から飛沫が上がった。
とにかく今は、その果汁をこぼさないように注意して、溢れ出る液体を口に含む。
「ごくっ、ごくっ、ぷはああ。うげえ! 全然美味しくないんだけど……」
正直なことを言えば、努力の成果に見合うほどの美味しさとは言えないが、せっかく硬い外殻に穴を開けるコツを掴んだため、この果汁で喉を潤すことにした。背に腹は代えられない。
カロムが言っていた通り、果汁には栄養分が豊富だったようで、少しだけ疲労感が和らいだように感じる。
島に来てから、まだきちんと休めていなかったので、その後は砂浜に軽く寝転がり、身体を落ち着かせた。
静かな空間にさざ波の音だけが聞こえる。
しかし、砂浜で休んでいても、ジュナのことを考えずにはいられなかった。
今頃体調が急変してはいないだろうか、さらに苦しんでいないだろうか。
一旦彼女の心配をしてしまうと、それは留まることを知らない。
「……僕がすべきことは、氷魂草を手に入れること!」
シュカは飛び起きた。
休めたかどうか、一抹の不安はあったが、暗くなってからゲオルキアに到着するのは危険すぎる。
再び大空へと戻ったシュカは、すぐそこまで見えている目的地を目指して、その白い翼を羽ばたかせて飛んで行く。
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