第1話「旅立ち」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
シャヘル(太陽)が現れるにはまだ早い頃合い、シュカは目を覚ました。
外に出ると、空は暗く、静寂が王都を支配していた。
稀に動く影が見えるのは、夜間警備兵が街中を見回りしている証だ。
普段ならまだ寝ているはずの時間であり、彼らの働く姿を見れるのは珍しいと言える。
シュカは疲労を考慮した結果、金銭と最低限の荷物を小柄な鞄に詰め込み、腰に下げることにした。
今着ている服はカーシェとドルナの二人が、旅用に破れにくい頑丈な織物を使って、急いで用意してくれたものだ。
多少寒さにも耐えられるようで、シャンの寒さに耐えられるかは未知数だが、普段着と異なる肌触りでありつつも、妙にしっくりきた。
シュカの見送りには、ジュナを除く家族全員とドルナやテムも来てくれた。
そこはテムと何度も特訓した草原地帯だ。
テムは深夜まで仕事をしていたのか、随分と眠たそうにしていたが、いざ出発となると、眠気をどこかに吹き飛ばしたかのようにいつもの明るい調子に戻っていた。
「急いで帰ろうとして、無茶はしなくて良い。シュカが無事に帰って来ることを家族皆が願ってる。王宮にはカロムを通じて派兵の嘆願をしてもらってるが、まだダメらしい……」
思い通りにならない憤りを押し殺すようにダンシュが言った。
「僕は大丈夫だよ。父さんの剣もあるからね。……それじゃあ、行ってきます」
皆に見送られながら、シュカは白い翼をはためかせて大空へと飛び上がった。
王宮の状況は仕方がない。
国が危機的状況と認めるまでに時間がかかってしまうのは当然だ。
とはいえ、ジュナの命が懸かっているというのに、それを呑気に待っていることはできない。
もしも自分に何かあった時、国のほうは兄がなんとかしてくれると信じるだけだ。
シュカが後ろを振り返ると、みるみるうちに皆の姿が小さくなっていく。
すぐに誰がそこにいるのか、わからなくなってしまうだろう。
だいぶ離れた今でもまだ手を振ってくれているのは、おそらくテムだろうか。
それだけはなんとなくわかった。
シュカはサヴィノリアの碧空に別れを告げ、ゲオルキア大陸がある北方に向かって勢いよく羽ばたいた。
――シュカ、頑張れよ。
テムの声が聞こえたような気がして、思わずシュカは振り返ったが、既にサヴィノリアの様子を窺えるような距離ではなかった。
さすがに気のせいだと思うことにした。
それでも、その言葉がシュカのやる気を向上させたことには変わりなかった。
シュカはゲオルキアに行くことをずっと心待ちにしていた。
今回大陸に行く理由は決して喜ばしいことではないが、これからするであろう初めての経験に期待が膨らんでいく。
そんなことを考えているだけで、あっという間に時間が経過する。
もう既に自分一人では飛んだことのない辺りまで来ていた。
まだビスティアが出るような区域には到達していないが、大陸が近づけばそれは時間の問題である。
濃くて分厚い雲が遠くに見え、付近には薄い雲が漂い、そんな景色を楽しみながらも無数の雲を潜り抜けていく。
そして、周りの雲よりも一回り大きな雲海を抜けると、全貌が計り知れない巨大な陸地が見えてきた。
これがゲオルキア大陸だ。
サヴィノリアからも見えてはいたが、距離が近づいたことで、その大きさをさらに痛感する。
この大陸の北方、シャンという国に妹を救う氷魂草があるという。
しかし、ゲオルキアは簡単に命を落としかねない危険な場所である。
油断は死を招くだろう。
楽しみという感情を昂らせつつも、シュカ気を引き締め直し、少しずつゲオルキア大陸へと近づくことにした。
出発してからしばらくすると、徐々に空が明るくなってきた。
今日もシャヘルが顔を出そうとしているのだ。
いつも明るい光をもたらしてくれるシャヘルにお祈りしておこうと思う。
「無事サヴィノリアに戻って来れるように、どうか見守っていてください」
東の空からゆっくりとその姿を現したシャヘルが、世界にキラキラと輝きをもたらしていく。
温かいシャヘルの光に見守られながら、シュカはさらに北へと飛んだ。
このまま飛行していると、ゲオルキアの遥か上空に着いてしまうことだろう。
シュカは一度その羽ばたきの数を減らして滑空することにして、高度を落とすのだった――。
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