第11話「思い出の剣」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
それから自宅に戻ったシュカは、荷物の最終確認を終えた。
空が暗くなり始める頃にはもう暇になってしまい、ゲオルキアへ向かう前に思い残すことはなくなった。
あとは明日の早朝に出発するだけだ。
普段よりかなり早めの夕飯を済ませた後、シュカはダンシュの部屋に呼ばれた。
ノックをして、父の部屋に入る。
「何かな、父さん」
ダンシュと二人で顔を合わせるのは、決闘以来だ。
椅子に腰かけているダンシュの目の前には、見覚えのある剣が置かれていた。
それはダンシュが決闘で使っていた剣だ。
ダンシュは座ったまま話し始めた。
「シュカ。お前にこの剣を預けようと思ってな」
「……え? 父さんが大切にしている剣じゃないの?」
ダンシュが毎日のように磨いていて、錆ができていないか丁寧に確認していた記憶がある。
そこまで大切にしていた剣をシュカに持って行けと言うとは思ってもいなかった。
「ああ、これは俺がドゥスートラをした時に使っていた剣だ。俺の命を何度も救ってくれたこいつは、必ずお前の力にもなってくれるに違いない。だから、お前が持って行け」
シュカは差し出されたダンシュの剣を受け取った。
剣本来の重みだけでなく、ダンシュの想いが詰まっているのか、ずっしりとした重みを感じた。
試しに鞘から抜いてみると、銀色に輝く両刃の剣が姿を現した。
一目見ただけで、長いこと欠かさず手入れされた立派な剣だとわかった。
「こんなに上等な剣、本当にいいの?」
「俺の代わりとして行ってもらうからには、これくらい当然だろう。それにこれも用意しておいた」
十分に貨幣が詰まった布袋が机上に置かれた。
剣の重みを含めて、飛行の妨げにならないよう考えてくれているようだ。
「俺がゲオルキアに行ったのは、二十年も前の話。今は環境も変わっているかもしれない。あそこでは本当に何が起こるかわからない。たとえ何があっても、必ず自分の命を最優先にすると約束してくれ」
熱のこもった眼差しがシュカを捉えていた。
正直なことを言ってしまえば、父の想いに応えられるかどうか、不安がないというと嘘になってしまうだろう。
「うん、約束する。……でも、この剣を駄目にしちゃったら、その時はごめん」
もしもの時を考えて、かつ自分の不安を隠すために、シュカは冗談交じりで言ったつもりだった。
さすがに本音で父と向き合うのは、少し気恥ずかしかったのだ。
しかし、その言葉を聞いたダンシュの顔が固まってしまった。
これは確実に勘違いしている反応だ。
「その時は頼むから弁償してくれ。このとおりだ。その剣はゲオルキアで作ってもらって、かなり高かったんだ。いいや、正直言ってそれは些細なこと。母さんとの大切な思い出が詰まっている大事な剣が、もしも折れるなんてことがあったら……。お、俺は、母さんになんて言えばいいんだ……?」
ダンシュはいきなり顔色を青ざめさせると、目の前に跪いて縋りついてきた。
シュカはそんな父に冷ややかな視線を向けることしかできない。
さすがにカーシェも今回の事情はわかっているので、たとえ剣を失くしてしまうことがあったとしても、激怒することはないと思うが、気をつけるに越したことはないだろう。
涙と鼻水を垂れ流す大人気ない父の姿に、シュカは言葉を失ったままだった。
それから何度冗談だと言い聞かせても、離れようとしない父にうんざりして、母を呼んで二人で父を引っ張った。
それでも父は離れようとせず、我慢の限界を迎えた母の拳骨を数回受けて、シュカから離れてくれた。
結局は怒られることになるなら、すぐに離れればいいのに。
そういうところが頑固だと言われているのではないだろうか。
決闘でお互いに認め合ったはずだったが、シュカの中で父の評価は奈落の底に落ちて行くのだった。
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