7 侵入者と連戦
スマホを確認すると、『侵入者を検知しました!』とメッセージが表示されていた。
またか。
連戦になるが幸い俺達は負傷していない。
スライムが殴られた分若干疲弊しているかもしれないが、スキル【物理耐性 (小)】のおかげで負傷とまでは至らなかった。
ダンジョンコアの部屋を防衛している配下と入れ替える必要が無さそうだ。
ダンジョンマップを見ると、北から赤く塗りつぶされた円が4つ侵入して来ていた。
4対4か…。
侵入者は恐らくまだ戦闘経験も無い人間だろう。
今回も同じ作戦で多分大丈夫だ。
確かDPの説明に敵を倒しても回復すると書いてあったと思うから今追加で配下を創造出来るはず。
急いでスマホを操作して現在のDPを確認すると、19DPあった。
自然回復を差し引くと、人間1人あたり5DP回復する計算になる。
Gランクモンスターの創造コストに比べて半分だ。
もし相打ちなんてしたらDP的に損だな。
おっと、余計な事を考えてる場合じゃなかった。
急いで【配下創造】からスライムを創造する。
先程の戦闘内容を考えると、何故か人類は魔法を使って来なかったのでスライムの前衛を追加するべきだと判断した。
「今から侵入者と連戦する!ついて来い!」
俺は4体の配下を引き連れて侵入者が居る北へと進み始めた。
森の地形が移動速度を低下させるが、直線距離にして約300m進むと侵入者の一行が見えた。
先程と同じく配下に正面から襲うよう小声で命令し、ブラウニーはスライムとワームの後ろから攻撃する様に指示しておく。
俺は回り込んで侵入者一行に接近しておく。
「何が起きるか分かりませんから、私から離れないようにお願いしますね」
先頭の警察官が後ろの連中に注意を促す。
警官に付いて来ているのは全て30代~50代の成人男性だ。
くそっ、警官か…。
しっかり腰に銃を携帯している。
自称邪神が銃は無力化されると言っていたが、本当なんだろうな。
「いやいや、家に帰るだけですから心配要りませんよ」
太った50代の男が警察官に意見する。
「前田さん何を仰っているんですか、住宅街にこんな森ありませんよ、だから私が同行してるんです」
警察官が厳しい声で反論した。
「そうですよ、これは本当に異常事態ですよ」
40代の色黒男が警察官に賛同する。
「前田さんも女神とかいうの聞こえたでしょ」
30代のメガネをかけた男も女神の言った事が気になってるみたいで、この森を警戒しているらしい。
「まぁ、そうですけど…この歳で剣と魔法って言われてもねぇ」
前田と呼ばれた男はまだ懐疑的で一連の事件を軽く考えている様子だ。
やはりこの一行も俺のダンジョン領域内にあった家へ帰宅する事が目的か。
それにこの世界のシステムを受け入れきれてないみたいだ。
全員戦闘経験の無い初期レベルの可能性が高い。
あの警官さえ先に殺せば何とかなるだろう。
警官以外全員丸腰だし。
侵入者達の会話に耳を傾けていると、配下達が侵入者一行と遭遇した。
「なっ!?皆さん下がってください!!」
警官が素早く拳銃を構えて先頭のスライムに銃口を向ける。
ドゥゥウウンッ!!!
いきなり警官が拳銃の引き金を引いた。
おいおい、まだ配下は襲ってないだろ。
気の早い警官に一瞬焦ったが、撃たれたスライムは何事も無かったかのようにケロッとしている。
良かった、自称邪神の言ってた通り銃は無力化されていると考えて良さそうだ。
スライムにはスキル【物理耐性(小)】があるが、もし銃が効くなら無事では済まないはず。
スライムはダメージを負っている様子も無く反撃とばかりに溶解液を警官に噴く。
「う゛う゛っ!?」
不意を突かれた攻撃だったのか、警官は避け切れず銃を構えていた手に溶解液が掛かり悶絶する。
「古吉巡査っ!!?」
警官に引率されていた連中が動揺している。
今だ!!
俺はスキル【隠密】を活かすように低姿勢で後ろから急接近し、悶絶する警察官の首目掛けて思い切り石斧を振り落とす。
ブシュゥゥウッッ
警官の首が簡単に落ち、血飛沫が噴き出る。
「うわっ!こ、殺しだっ!殺人鬼だ!」
目の前で殺人が起きた事に残された侵入者達は激しく動揺し逃走しようとするが、恐怖で一瞬身体が硬直してうまく走り出せていない。
逃すかよっ!!
侵入者の中で一番若い30代のメガネ男に襲い掛かり、石斧で首を刎ねた。
「に、逃げっ…うわぁあ゛あ゛っ!!?」
ようやく走り出そうとした40代の色黒男にスライムの溶解液が降りかかり、ワームが腹を引き裂いた。
「う、動けないっ!?た、助けて!助けてくれーっ!!」
ブラウニーの魔法【マッドフォール】で出現した泥沼に下半身が沈んでしまった前田は身動きが取れず俺に命乞いする。
俺は迷わず前田へと接近し、石斧を振りかぶった。
ブシュゥゥウッッ
前田の身体は肩から胴まで斜めに骨ごと切断され、切断された上半身がボトリと泥沼に落ちた。
最後にワームの攻撃で腹を食い破られた40代の色黒男へ止めの一撃を振り下ろし、首を刎ねた。
「や、やったっ」
警官相手に勝てた。
こんな簡単に一掃できたのは相手がシステムと状況を理解してなかったからだ。
序盤ならではの幸運だったな。
そう考えると今が一番の稼ぎ時なのかもしれない。
この序盤の討伐数や侵略面積が後に大きく影響することは間違いないだろう。
レベルの概念がある世界では経験値が一番大事だ。
「ワーム、死体を全部食べろ」
ワームの食事から目を逸らしていると、自分の身体から高揚感が溢れていることに気が付いた。
侵入者に何かされたかなと思いスマホでステータスをチェックしてみると、レベルが上がっていたのだった。