6 最初の侵入者
俺達は侵入者を討ちに森を進む。
ダンジョンの支配領域は円形状で4k㎡もある。
元俺の自宅だった場所であり今はダンジョンコアの部屋がある地点は支配領域の中心部だ。
ダンジョンコアの部屋から支配領域の端まで約1kmある。
防衛設備のあるダンジョンコアの部屋付近で待ち受けるという方法もあるがそんなことはしない。
侵入者を素早く倒す程に俺は早く強くなれるわけだし、魔王自身特化の【肉体】上昇を選んだ時点で安全策なんて考える必要は無い。
幸いにもまだこの世界が始まってまだ10分も経過してない。
人類も女神とかスマホのチュートリアルがあったはずだ。
侵入者が人類でもモンスターでもレベルは俺と同じ1のはず。
頭数が4対3で勝っているのだから勝機はある。
そうこう考えてる内に侵入者の近くへと到着した。
距離的に侵入者の集団まで60mぐらいだ。
侵入者はペースを乱さず真っ直ぐダンジョンコアの部屋を目指している。
何らかの方法でダンジョンコアの部屋の位置がバレてるんだろうな。
人類のスマホに表示されてる可能性が高い。
しかしこのペースだと俺達の位置は掴めてない様子だ。
もし分かってるなら俺達を警戒するかこちらに方向転換するなり何らかのリアクションがあるはず。
モンスターの居場所は分かって無いらしいな。
対して俺達は侵入者の位置が常に丸わかり。
これは奇襲のチャンスだ。
この緊張感満載の状況で笑みが零れる。
おっ、見えたぞ。
侵入者の姿が肉眼で確認出来た。
野球のユニフォームに上着を着ただけの恰好をした青年達だった。
手には金属バットを持って居る。
野球部員かよ。
まぁ誰であろうと関係ない。
お前等は俺達の敵だ。
「…3体で正面からあの侵入者達を襲って全滅させろ、ブラウニーはスライムとワームの後ろから魔法で攻撃するんだ…」
侵入者に聞こえないように小声で配下に指示を出す。
配下が動き出したのを確認してから、俺は背を低くして回り込むように移動する。
俺のスキル【隠密】が発動しているからか、10mぐらいまで接近しても気付かれた様子は無い。
ここまで接近すると、侵入者の声を拾うことが出来た。
「全然モンスター居ないじゃん!」
背の低い野球部員が先頭で詰まら無さそうにしている。
「せやな、魔王も俺らと一緒でやり始めたばっかってことやな」
恰幅の良い野球部員が答える。
「今の内に家の貴重品を回収しとかないとなぁ」
一番後ろを歩く背の高い野球部員がキョロキョロと周囲を警戒しながら目的を口にした。
なるほど、この野球部員達は俺の支配領域に自宅があったのか。
元ここの住民達からしたら無一文で外に放り出された状況だから家の金ぐらい回収しに来るか。
まさか火事場泥棒ではないだろう。
「うわっ!!おいあれ見ろって!」
「スライムやんっ!!」
「デカいイモムシも居るっ」
配下と野球部員達が出くわしたみたいだな。
「いくぞ!バットで殴り殺せ!!」
野球部員達がバットで配下に襲い掛かる。
「うわぁっ!!?」
スライムが背の低い野球部員の顔面目掛けて透明な溶解液を射出した。
「かっつん大丈夫かっ!?」
「あがっ!あぐぅぅぅう」
顔面に溶解液を浴びた背の低い野球部員の顔が溶けている。
「くっそがぁあ!かっつんをやりやがってこの野郎!!」
恰幅の良い野球部員がスライムをバットで殴る。
ビタンッ
スライムにバットがヒットするも、スキル【物理耐性(小)】のおかげかあまり効いてる様子はない。
恨みに任せてスライムを殴り続ける恰幅の良い野球部員にワームの鋭い顎が襲い掛かる。
「イモムシがっ!!」
背の高い野球部員がカバーに入り、ワームに殴りかかるが体勢がグラつき空振りに終わる。
「はっ!?なんで!?」
足元を見ると、ブラウニーの魔法【マッドフォール】で地面が泥に変わり背の高い野球部員の足が沈んでいた。
「あ゛あ゛あっ!!!」
恰幅の良い野球部員の横腹をワームが噛みつきユニフォームが真っ赤に染まる。
「ヤマダぁあーっ!!」
背の高い野球部員がヘルプに向かおうとするが、まだ泥から抜け出せずもがく。
ガンッ
「ーっ!???」
すかさずブラウニーの魔法【ストーンバレット】の石礫が背の高い野球部員に何発も被弾する。
俺も出よう。
木陰から飛び出し、背の高い野球部員の首目掛けて石斧を振り落とす。
ブシュゥゥウッッ
肉や骨の抵抗を一切感じずアッサリ首が飛び血が噴出す。
返り血を浴びつつ、間髪入れずに恰幅の良い野球部員の首を切り落とした。
またも血が舞う中、地面をのたうち回っている顔を溶かされた背の低い野球部員の首を石斧で切断した。
「はぁ、はぁ…」
心臓の鼓動が煩い。
ショッキングな光景だが、人を殺したことに罪悪感や後悔は全く無い。
俺が人間を辞めてしまった証拠だ。
俺はモンスター。
そして魔王だ。
心臓がバクバクしているのは残酷な行為に対して動揺しているわけじゃない。
初めての戦闘で緊張していたからだ。
俺にとって重要なのは倫理や道徳じゃなく勝利と強さなんだと実感した。
人類相手に勝利したんだ。
俺はやれる、この小さな勝利を積み重ねていけばいずれ大きな勝利を掴むことが出来ると思う。
勝利の余韻に浸っていると、身体の異変に気が付いた。
身体に温かいエネルギーが入り込んでくる感覚がある。
もしかするとこれが経験値というヤツだろうか。
そうだ、経験値と言えばワームのスキル【暴食】だった。
「ワーム、この死体を全部喰え」
ワームはギチギチという鳴き声を上げて、嬉しそうに野球部員の亡骸を貪る。
中々に衝撃的だったので俺はワームから目を逸らした。
すると野球部員が持ってた金属バットに目が留まる。
石斧の方が使い易いしどうしようかな。
ピロロロロッ
金属バットの始末に悩んでいると、またスマホが鳴りだしたのだった。