１８ 2人目の眷属
沼地は上空からみると遮蔽物が無いから見やすい。
モンスターを探すも見当たらなかった。
俺のダンジョンを攻めて来たロブスター達はランクＤかＣぐらいはあったと思うからモンスターの軍団が巡回していてもおかしくないと思ったが違ったようだ。
高ランクのモンスターはコストが高くて量産出来なかったとも考えられるが、そんなことは【効率】の能力を伸ばせば解決するはずだ。
とはいえステータスに【効率】の能力が存在するぐらいだからＤＰ収支は辛いバランスになってると推測できる。
ＤＰの獲得手段が自然回復かダンジョン内で討伐、魔王の眷属化、それとクエスト達成に限られているから、普通はＤＰを稼ごうと思ったらダンジョンで敵を待ち受けるスタイルになる。
ゲームじゃあるまいし、ダンジョンが実際に危険なモンスターの巣だと人間が把握したら才能のある部隊しか侵入してこなくなり出入りが激減していくと思う。
柵の無い動物園を人が気楽に利用するのかって話だ。
新しい世界が始まって１時間程度の最序盤であれば、システムを良く分かって無い帰宅目的の連中やゲーム感覚で腕試しに来るアホな連中も侵入して来るだろうが、すぐに人類は学習し安全でかつ効果的な行動しかしなくなるはずだ。
俺のダンジョンも最近は人間の出入りが減った。
まあ俺への復讐なのか突撃してくる人間も居るが。
侵入者が少ないと【創造】を伸ばしてる魔王はＤＰと経験値を稼げなくなる。
なのに沼地の魔王が高ランクのモンスターを所有しているということはかなり優秀だと思う。
俺は沼地の魔王に対して警戒心を上げつつ、スマホのダンジョンマップで地下への入口を確認した。
沼地へと降り立ち地下へ侵入する。
通路を進むと、落とし穴があった。
飛べる俺にとって何も意味を成さない罠だ。
落とし穴を飛び越えて更に先へと進むと、水浸しの部屋に入った。
俺が部屋に入った瞬間に奥の人魚っぽいモンスターが水の弾丸を連射してくる。
同時に俺を取り囲むように待ち構えていたモンスターの内、灰色の巨大なカエルが大砲みたいな泥弾を集中砲火してきた。
ブリンク！！
人魚の背後へと瞬間移動するとすかさず魔法を放つ。
スタンショック！！
ビリビリと黒い稲妻が人魚に流れ感電させた。
このコンボは実に優秀だ。
クエスト報酬は大事だな。
緑の髪をした女の人魚に魔王の剣を突き付ける。
「大人しく降伏しろ！」
恐らくこの人魚が魔王だ。
ピアス付けてるし、白いシャツにライダースジャケットを着ているからな。
眷属の魔王ということも考えられるが高ランクのモンスターにＤＰコストが掛かるから上限値までコストが必要な眷属化をする余裕がないはず。
「わ、わかった…降伏する…」
この魔王もコウヤと同じく随分物分かりが良いな。
人魚の眼を見ると怯えていた。
この部屋には人魚の他に６体しかモンスターが居ない。
俺のダンジョンで５体失った時点で不安だったんだろうな。
俺の悪魔姿に引いてるだけかもしれないが。
魔王の剣を人魚の首に突き付けたまま、片手でスマホを操作し【眷属化】をタップして４００ＤＰを消費した。
コウヤの時と同様、足元に複雑な文字の羅列が浮かび上がりサークルを形成する。
「進化してるなら分かるだろう、眷属化ってヤツだ」
「見るのは初めて…」
「安心しろ、痛みは無い」
あ、めちゃくちゃ胡散臭そうな眼で俺を睨んで来てる。
前世の先入観で悪魔の言う事なんて信用出来ないよな。
コウヤの時に痛みが無かったらしいというのは本当だぞ。
「早くして…」
「いいだろう、では…お前は俺の眷属となることを受け入れるか？」
「………………受け入れる」
大分間があったな。
まあ普通に考えるとこんな初めて会った悪魔に脅迫されて眷属化するなんて受け入れられるわけないよな。
嫌々に決まってるが、それでも無駄な抵抗をせずに受け入れてくれたのは有難い。
足元のサークルから光が迸り、人魚に吸い込まれていく。
完全に吸い込まれるとサークルは消え去った。
コウヤの時と違い、人魚は呆けることも無く俺に深くお辞儀する。
「ナギ様、本日から宜しくお願いします」
教えても無い俺の名前を知っているのであれば、眷属化は成功したな。
スマホを操作し、人魚のステータスをチェックする。
名前：アヤ
種族：水族 （マーメイド）
ＬＶ：５
肉体：Ｇ
魔法：Ｇ
速度：Ｇ
魅力：Ｇ
効率：Ｅ
情報：Ｇ
状態：眷属
スキル：ウォーターショット
まだレベルは５か。
もっとレベルが高いかと思っていたが案外そうでもなかったな。
【創造】を上げてる魔王は予想よりも経験値を稼ぐスピードが遅いのかもしれない。
レベル５でＡＰは合計２５手に入るから【効率】に８ＡＰ使ってランクＥまで上げているとなると【創造】はランクＤまで上げていたことになる。
ランクＤにしては結構タフだったな。
ステータス画面でアヤの元配下達を確認した。
ロブスターマンが２体、タンクフロッグが３体、パワークラブが３体、ハンマークラブが３体の合計１１体が俺の配下へと加わっていた。
ステータスの能力を見ると、ハンマークラブだけランクＥ相当の能力で他はランクＤ相当のモンスターだった。
ロブスターマンがタフだったのは肉体の硬度を上げる硬化というスキルの効果だった。
周囲のモンスター達を見ると丁度１１体全員居る。
外に遠征させていたのは俺が倒した５体だろう。
「アヤ、ここから東の森ダンジョンに５体の配下を送り込んだよな？」
アヤがビクリと身体を震わせ目線を逸らす。
「ご、ごめんなさい、人間達がナギ様を怖がってダンジョンに来なくなったからつい…」
「そうだったのか、大丈夫だ気にするな」
俺のせいでアヤのダンジョンに人間が来なくなったから、人間を安心させてまたダンジョンに来させるために俺を討伐しようとしたということか。
人間が来なくなったのは学習して賢くなったからというのもあると思うが、まあ７割俺のせいだわな。
それと赤大路の森が俺のダンジョンだとアヤは知っていたようだ。
スマホの掲示板とかツウィターで知ったんだろうよ。
魔王達にも俺の事は知られていると思った方が良いな。
強者が近くにいるなら狙って来るかもな。
アヤのダンジョンは放って置けばまた人間がやって来る。
俺のダンジョンに防衛の戦力が欲しいからこの沼地のダンジョンを守る余裕が無い。
コウヤのダンジョンも同じだな。
戦力は俺の森ダンジョンに集中させよう。
「全員ついて来い」
アヤたちを引き連れて沼地のダンジョンコアの前まで行く。
俺のダンジョンを防衛して貰うこととコウヤの事を説明した。
１体ずつダンジョンコアに触れて貰って俺のダンジョンへと移動させた。
最後にアイテム収納袋を沼地のダンジョンコアに被せるようにして回収した。
俺は沼地のダンジョンから出て飛翔し、ダンジョンの周りにある人が密集している施設を襲って行くのだった。
