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3日目 ペットボトルロケットってなんか卑猥

 蘭子負けないっ!!


 地球滅亡の予知夢を見た桐屋蘭子、康太ことこーちゃん、愛しのこーちゃん、可愛い弟のこーちゃん、マイこーちゃんの為に世界を救う。

 日本政府もNASAも宇宙万理研究会も私の話を聞いてくれなかったので、もう自分で何とかすることにします。


 世界を救うスーパー中学生……これ、映画化しちゃうかもね。




 1月3日。正月も一区切りというその日、私は寒空の下神社の裏山に居た…


「……寒い」


 そしてこの女、美堂陽菜も居た。


「私気づいちゃったんだ……」

「……明日から学校ってことに?」

「予知夢で見た隕石落下の瞬間……あの時この高台公園からこの町を見てた……そう。あの時夢に出てきた光景はここからの景色だったんだ……」

「蘭子…目を覚まして……」


 つまり隕石はこの町に落ちてくる……

 だから時空のおじさんは私に予知夢を見せたんだ……

 つまり私はあと98日後、ここで隕石を迎え撃つ。そういうことです。


 ……どうやって?


「蘭子、考えました」

「……どうでもいいけどどうして私早朝から呼び出されたの…?」

「宇宙からの飛来物をミサイルで迎撃する研究があるらしい」


 駄菓子屋のおばちゃんが言ってた。


「つまり隕石なんて飛来する前に撃ち落とせばいいのよ」

「蘭子、ミサイルなんて持ってるの?」

「まだ時間はある……今日から隕石迎撃用ミサイルの開発に着手する。陽菜を研究主任に任命するね」

「今日限りで辞任します」


 さて。とはいえ資金力のない中学生…お年玉はお賽銭で消えたわけだし…金のかかるミサイルは作れない。

 ので、私は考えた。


「……ペットボトルロケットだぁ」

「蘭子…もう受験が秒読みってタイミングでなにがペットボトルロケットよ…現実見て?もっと考えること、あるよね?」

「ペットボトルロケットならペットボトルと水があれば作れる。あとは宇宙まで飛ばすだけ」

「蘭子本当に15歳?」

「ペットボトルロケットってどうやって作るん?研究主任」


 真夏の方程式の映画でやってるの見ただけで、作り方が分からない。


「ペットボトルロケットは水と圧縮空気を使ってペットボトルを飛ばすものよ……ペットボトルと空気入れが必要だね」

「ふぅん……用意して」

「……は?」



 簡単!ペットボトルロケットの作り方!

 1、ペットボトルを用意します。

 2、ペットボトルに羽をつけます。よく飛びます。

 3、お水を入れます。

 4、空気を入れます。

 5、飛びます。


「お母さぁぁん!空気入れ貸して!」

「おばさん……蘭子が狂ってる…」

「空気入れ?何に使うの?」

「ペットボトルロケット!」

「……蘭子ったら可愛い遊びするのね。この寒いのに…」


 自転車用の空気入れをいそいそと持ち出してると厚いダウンジャケットを着たこーちゃんが目をキラキラさせながら玄関に現れた。


「おねぇちゃん……こーちゃんも、ろけっととばしたい」

「こーちゃん……これは遊びじゃないんだよ?でも、こーちゃんの気持ちは嬉しいよ。分かった。お姉ちゃんと世界を救おう」

「やったぁ」

「…………蘭子」


 *******************


 こーちゃんと陽菜こと赤黒く変色してきたマグロの短冊を連れて再び裏山へ…脇に抱えるのは2リットルのペットボトル(コラ・コーラ)、牛乳パックで作った羽、コルク栓、自転車用の空気入れ、土台になるレンガブロック(松浦さん家の)、水、以上。

 こんなに簡単に地球が救えるなんて……


「おねぇちゃん。ぺっとぼとるでうちゅういけるの?」

「行くよ。お姉ちゃんはやる」

「蘭子…寒いよ……今からでも遅くない…コタツに入ってみかんでベイブレードしよ?」


 研究主任のやる気がないのでお給料は出せません。


 研究主任が雪だるまみたいに丸くなってる横で私とこーちゃんでレンガブロックをコの字型に並べます。

 次にペットボトルに4分の1くらい水を入れます。


「……2リットルの4分の1って何ミリリットル?わからん」

「蘭子…あなた今年受験よ?」

「1リットルが1000ミリリットルでしょ?てことは2リットルで2000……2000割る4…」

「わくわく…」

「500ミリだっ!!」

「…………小学生レベルの計算で喜んでる……」

「500ミリリットルとか分からん。適当に入れよう」

「わくわく!」


 尿意を催す「じょぼぼぼ」って音と共にペットボトルに水が満ちていく。大体4分の1でしょ。

 んで、蓋にコルク栓を突っ込む。


「えいやっ!」「えいやー!」


 こーちゃん渾身の正拳突きにより深く挿入されたコルク栓に空気入れの針をぶち込む。


「死に晒せ…仁義外れ(隕石)がぁぁっ!!」

「おねぇちゃんかっこいい!」

「姉御……」


 ぶすっ!


 ケツ穴掘ったペットボトルを逆さに土台にセットして牛乳パックの羽をつけたら……


「完成!イーグル蘭子号初号機!!」

「かんせい!」

「名前がだせぇよぉ……」


 あとは空気入れで空気をぶち込むだけです。


「わくわく。おねぇちゃん、早くとばそう。そらのかなたまで…」

「これはあくまで試作機…まずはペットボトルロケットのポテンシャルを確かめて、隕石迎撃に足るかどうかを判断する」

「宇宙まで飛んでったら私が宝くじ券6枚買ってあげるよ…蘭子、水噴かさないでね?」


 いざ…イーグル蘭子号初号機!


「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」

「わくわく」

「…………ひぃぃ」

「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」


 ねぇ、なんで自転車用の空気入れってこんなに疲れるの?どうして?コンビニのレジは自動化するのにどうして自転車用の空気入れは電動化しないの?



 ぶぼんっ!!


「うわぎゃっ!?」「うわぁ!」「ひぃぃぃぃっ!?」


 ある程度空気を入れたらコルク栓だけ弾け飛んで地味に水が噴射した。で、ほんの少しだけペットボトルロケットが上にぴょんって跳ねた…

 終わり……


「………………?」「………………?」「…コルク栓が緩かったのと水が少なかったんじゃない?」


 と、研究主任。


「…………え?寂し。イーグル蘭子号初号機これで終わり?」




 --次っ!!


「試作ゼロ号機の反省を活かしてコルク栓をより深く入れてお水を3分の1くらいに増やしました!」

「ぱちぱち」

「蘭子……さっきの初号機じゃ……」

「只今より、イーグル蘭子初号機の試運転を開始します!!」

「きゃーー!」

「……蘭子、二号機よ?」


 では、気を取り直して……


「桐屋蘭子!地球存亡をかけた希望のロケットを……人類の未来をかけた希望の翼をいざ!天空へ!!」

「おねぇちゃんかっこいい!!」


 ぷすっぷすっぷすっ


「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」


 ぷすっぷすっぷすっ


「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」


 ……ねぇ、どうして自転車用の空気入れってこんな力込めて上下させないといけないの?どうして自動車には自動ブレーキが搭載されたのに自転車用の空気入れは電ど--



 ばしゅーーーーっ!!!!


「うわぁぁっ!!」「うぉーっ!!」「ぎゃあああああああっ!?」


 何回か上下運動してたら突然!ロケットから水が噴射!透明な汁を周囲に撒き散らしなが昇天!!

 その勢いといったら遥か後方に構えていた研究主任の陽菜にまで液がぶっかかりペットボトル本体は一気に裏山の高台公園を飛び出し大空へ吸い込まれていく……


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


 こーちゃん大興奮。

 蘭子びしょびしょ。

 陽菜もびしょびしょ。


「いっ…いっっけぇぇぇぇっ!!イーグル蘭子号初号機ぃっ!!」


 ………………しかし、悲しかな絶頂とは一瞬。私は視界の中で直ぐに失速し町に向かって降下…もとい落下していくイーグル蘭子号初号機を見て醒めていく…


 大気圏も超えないじゃん……


「おねぇちゃん!すごかったねっ!!もっかいっ!!もっかいっ!!」

「…………推進力に大きな課題があるよ。研究主任……これじゃ宇宙まで届かない…」

「届くか(怒)…寒い」

「あと思ったんだけど、ただのペットボトルロケットじゃ隕石破壊できないね」

「当たり前だ(怒)」


 実験は第2フェーズへ移行する。


 *******************


「お母さぁぁん!お金頂戴!!」

「ちょうだい!!」

「……シャワーを貸してください」

「なぁに3人ともびしょびしょで…何に使うの?」


 何に使うの?と言いつつ500円玉を4枚もくれるお母さんは人の親になるべくしてなった人だと私は思う。


「爆竹買ってくる!!」

「ちょっと待ちなさい蘭子。蘭子!!」




 第2フェーズ、爆竹ロケット。


 もう疲れちゃったこーちゃんを背負い、体に霜が降りてきた陽菜を連れて再び裏山へ…

 第2フェーズではペットボトルに加えこの箱買いした爆竹を使用する。


 爆竹とは火をつけたらバチバチするやつである。本当は花火の方が綺麗だと思ったけど花火は時期的に売ってないかなと思ったんで爆竹で妥協。


「…凍える…真冬に水浴び……死ぬ……」

「大丈夫だって!これから暖かくなるから…爆竹で……」

「いい加減にしなよクソダサヘアピン。そんな大量の火薬担いで高台登って…もうテロリストじゃん…ていうかテロじゃん。私に対する。私居る?これ…」

「黙れ」


 第2フェーズではペットボトルロケットの先端に爆竹を付ける。そして推進力向上の為に従来の水と空気を使った発射方法を廃止。爆竹をペットボトルに詰めることで火薬の威力を用いて吹き飛ばす。


「もうペットボトルロケットじゃないじゃん。ただのペットボトル爆弾じゃん…」

「パッと光って咲いた〜♪」

「打ち上げ花火でもないんよ」


 今回は試作機なので爆竹は1キロ分使用する。


「まず、土台にペットボトルをセットします。そして、爆竹を1キロ入れます」

「…こーちゃん君逃げよう」「くかー…すぴー…」

「あれ?入り切らないよ?…仕方ない、余った分は周りに敷き詰めて起爆剤にしよう」

「蘭子……もう何言ってるのか全然分からない…何がしたいのかも分からない…蘭子昨日からおかしいよ……」


 その時陽菜が見せたのは雪解け水のような透明な雫…陽菜の腐った魚の目からこぼれるこの世で最も透明なそれは…そう、友の涙。


 ……でも今時大気汚染で雪も汚いもんね。雪解け水も汚いに違いない。


「……陽菜、ばっちい」

「ころすぞ?」


 ペットボトルロケットに羽をつけて、あとは爆竹の導火線に着火するだけ!


「この試作機が大気圏超えたら本番では爆竹5トン用意するんだ…地球は私が守る」


 --この時爆竹に着火する様子を見た陽菜は後日「狂ってらっしゃった」と述べている。



 ジジジジジ……



「行けっ!!私達の未来の為にっ!!イーグル蘭子号ニュー初号--」



 ………………その時、私の目の前で閃光のような火花が迸っていた。


 間近で炸裂する純白の火花は連鎖的に拡大し熱と共に私の網膜を焼き、想定していたより高火力、そして広範囲に撒き散らされるそれを前に私は悟る……



 …………あっ…爆竹って危ないんだ…


 地球が吹き飛ぶまであと97日……




『本日正午頃市内の中学生が約1キロの爆竹を使用し危うく大惨事となる事件が発生しました。爆竹を使用した女子中学生は警察に対し「地球を救いたかった」などと供述しており……』

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