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悠久の魔女の暇つぶし  作者: たれねこ
第八章 後悔と嫉妬のベルクワイア

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後悔と嫉妬のベルクワイア ②

 その日、ストベリク市に起こった地震は大きな混乱をもたらした。

 今までに感じたことのない強い揺れに、座り込んでしまう者、とにかく逃げるために走り出す者、神に助けを請う者もいた。

 多くの建物の壁に亀裂が入り、店先に吊るされた看板や民家の棚から食器が落ちたりもした。死者こそいなかったが怪我人も少なからず出て、悲鳴や悲嘆にくれる声がそこかしこから聞こえてきたりと、悲惨な光景が広がった。

 地震が収まると、二人の魔法師に向けられる視線は明らかに変わっていた。地震という災害の予知をし、その警告が正しかったのだと証明してみせたのだから当然のことなのかもしれない。

 そんな空気の変化を感じ取ったエリクは、コンラッドにさらに歩み寄り、くるりと反転して民衆に向け、


「今の地揺れは本来ならば、この都市を壊滅せしめるほどの規模だった。それを私たちが都市機能を強化することによって、今の程度までに抑えたのだ!」


 と、弁舌べんぜつを振るった。その言葉に民衆から小さな拍手が起き、それが広がっていき、喝采する大歓声が空気を震わせた。そして、状況を理解したコンラッドたち議員もそれなりの対応をしなくてはならない。


「魔法師様、民に代わり感謝の言葉を言わせていただきたい。我らがストベリク市を救っていただきありがとうございます。何かお礼をさせていただきたいのですが」


 コンラッドの言葉にエリクは頷き、


「では、そのお礼とストベリク市の今後についての話を落ち着いてしましょう」


 と、冷静に答えながら、手を差し出した。コンラッドはエリクと握手を交わし、エリクの要求に応えると態度で示した。手を離したエリクの横に、エレナがそっと寄ってきて二人は顔を見合わせて、口の端をわずかにあげた。


 議事堂にある一室で急遽きゅうきょ、ストベリク市と二人組の魔法師との間で会談が開かれることになり、コンラッドを始めとした議員と、議事堂前で起こっていた一部始終を議事堂内から見ていた宰相のティアヒム・ルットマンがストベリク市の代表として席に着いた。


「それでは魔法師のエリク・クーセラ様、エレナ・クーセラ様、以後はクーセラ様と呼ばせていただきます。クーセラ様とストベリク市との会談を始めたいと思います」


 進行役の役人が口を開くと、場の緊張感がぐっと高まった。役人が手に持った紙に目を落としながら再度感謝の言葉を述べた後、本題へと入っていく。


「それではまずは今回のことに対するストベリク市がクーセラ様に対する謝礼に関してですが、クーセラ様は何かご希望はありますでしょうか?」


 エリクとエレナは顔を見合わせ、頷き合う。そして、エリクが代表して口を開いた。


「それでは今回助けたことに対する対価は、後腐れを残さぬように金品を要求したい」

「分かった。それでどれくらいの額を希望するのだ?」


 宰相のティアヒムの問いにエリクは安くない金額を提示する。しかし、命を救われた代金として考えれば、ストベリク市からすれば安いもので提示された金額を値切ることなく受け入れることにした。

 エリクはストベリク市がすんなりと頷くと思っていなかったので、驚きつつも自分たちの計画を進めるには都合がいいと思った。

 謝礼と金銭の話がひと段落したところで、コンラッドが「エリク氏は私に今後の話をしたいと言っておられましたが、それはどういうことでしょうか?」と切り出してきた。エリクからしてみればタイミングをはかっていたので、追い風が吹いていると感じ、内心でほくそ笑んでしまう。


「それでは私たちがストベリク市に来た本当の理由を話すことにしましょう。私たちはとある魔法師の組織に属しています。それは周辺諸国の都市機能を維持している魔法師も同様です。そして、各国間の情報を魔法師を介して共有し、トラブルを事前に防いだり、安全保障や技術革新を進めています。もちろんその都市にしかない核心技術など秘匿したいことは公開することはありません。そうして、平和と秩序と発展を支えております。ストベリク市にもそれに加わってほしいのです」


 エリクは事前に用意していた台詞せりふを口にする。ストベリク市に加わってほしいという部分のみ作り話で、ストベリク市が話に乗ってきた場合はそのまま自分たちよりも上の立場の人間に丸投げするか、上手く誤魔化して逃げ切ればいいだけだった。断られてもすでに謝礼としての大金を得ているのでプラスしかない。

 エリクの発言に議員や宰相は渋い表情に変わり、言葉を交わし意見のすり合わせをしているようだった。

 悩んでいるという状況がすでにエリクからすれば想定以上のことだった。だから、あとは背中を押すような発言をするだけだった。


「もちろん我々は今後の都市機能の維持も保障します。当面は私たち自身が責任を持って維持管理しましょう。そして、私たちが命果てた後でも、優秀な魔法師が多くいますので、ストベリク市のように多くの魔力が必要な都市であっても、複数人で魔力供給をすれば問題なく維持できるかと思います」

「それは現状維持はできるが、将来的に拡大する可能性はないということでしょうか?」


 ティアヒムが落ち着いた声と表情で確認するように尋ねてくる。


「将来的には分かりませんが、まずは引き継いで安定させるところから始めるので時間は掛かるかと思います」

「そうですか。我々は魔女シェリア様に対して、数百年レベルの長い付き合いの中で深い信頼と同時に、市民全員が多大な恩義を感じております。シェリア様は少ない対価で都市機能を維持し続け、さらには柔軟な対応をし、場合によっては都市機能の適用範囲を広げるなどしてきました。それをくつがえすにはシェリア様以上の条件を出していただけねば、首を縦に振ることはございません。そもそもストベリク市は防衛力や技術力、経済力にいたるほぼ全ての面で他国との間にかなりの差があります。これはうぬぼれではなく純然たる事実です。そして、我々は他国との情報共有や協力ということも常々していて、友好関係も築いています。そのうえであなた方にしかできないこととはなんでしょうか?」


 エリクは背中に嫌な汗が流れるのを感じる。まさかここまで理詰めで反論されるとは思っていなかったのだ。しかし、ここで黙っているばかりでは何も得ることはできない。


「では、魔女シェリアと結んでいる条件を全て飲みましょう。さらに追加で緊急時以外でも隔年かくねんで巡回し、都市機能の魔法陣の点検整備をします。また都市計画や今後の私たちとの契約についても、その都度話し合い、更改していくというのはどうでしょうか?」


 エリクの提示した条件を聞き、ティアヒムたちは一度別室で話し合いたいと出ていった。そのことで気が抜けて椅子に座り込んでしまう。


 ストベリク市は魔女シェリアのことを信頼し、信用していている。そして、魔女シェリアはとても優秀な魔法師であり、過度に内政干渉をすることもなく都市の発展にも協力してきた。


 それがエリクたちがいた組織の見解だった。

 しかし、エリクはそれを信じられなかった。一人で大都市をそれも数百年単位で維持管理し続けるなんて現実的には不可能で、それが可能な魔法師の存在を一人しか知らなかった。


 だから、魔女シェリアという存在の本性を暴き、さらにはその地位を乗っ取ることこそがエリクとエレナが長年計画し、ストベリク市に来た本当の目的だった。

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