遺産は時を超えて ⑤
議事堂の空中庭園から飛び立ち、魔導プラント跡に辿り着いたときは建物内で戦闘が行われている様子に驚いた。しかも、中にはミレラアとクライブがいるのはすぐに気づいた。
戦闘となるとミレラアが一人で戦っているのだろうと考え、ミレラアの感覚を共有することにした。そこで霧の中で防戦を強いられて焦っているのが伝わってきた。
「すいません。シェリー様……」
そんな泣き言まで聞こえてきたが、私が突入するまでよく耐えたと褒めてあげたい気分だった。
相手がまさか魔導文明時代の主要兵器である魔導アーマーだったことには驚いたが、本来の力は発揮できていないようで制圧は簡単だった。
それからクライブの背中に腰かけ、プラント跡を根城にしていた賊のリーダーから話を聞くことにした。
「それじゃあ、まずはあの機械――“魔導アーマー”をあなたたちはどこで手に入れたのかしら?」
「ひと月くらい前に、ここの近くの山で崩落があったんだ。その崩落でむき出しになった山肌に竪穴が見つかって、そこにあれがあったんだ」
「なるほど。でも、あれは魔力で動く機械よ。そこはどうしたの?」
「あの機械と一緒にいくつかの箱があったんだ。ほとんどは朽ちた缶詰だったが、その中に機械の背中辺りの部品と同じものがあったんだ。それをそのまま取り換えたら動き出したんだ。それからは色々と試しただけだ。俺が知っているのはこれくらいだ」
「それで調子に乗って、人を襲って金品などを巻き上げてたのね」
「ああ。お前たちにはわからないだろうが、生きるためには俺たちにはこれくらいしかできないからな」
賊の言い訳は正直どうでもよかった。問題は魔導アーマーの存在だった。賊が換えたという部品は背部にある魔力が充填されているバッテリーパックのことだろう。本来は魔法師の魔力で動かしていたが、魔力のない一般の兵士が使うことを想定して改良が加えられた。賊が見つけたものは、戦う相手が同じ魔導兵器を使う人類から魔物へと変わった魔導文明崩壊後の混乱期の終盤のものだろう。
魔法による遠距離攻撃という脅威がなくなり、魔物と近接戦闘をすることが多くなったことで装甲を厚くし、近中距離戦闘を想定してカスタマイズされたモデルだというのは見れば分かる。
なぜなら、私はその時代に戦線の最前線にいて、実際に魔導アーマーに乗ったこともあるからだ。
しかし、時の流れと共に様々な機能が壊れていてよかったと心底思った。賊が使っていたのは煙幕代わりに霧を発生させるもので、魔導アーマーには魔力を収束させてレーザーとして射出する強力な武装もあり、それが使えていたらストベリク市は抵抗すらできず火の海にされていた可能性すらあったのだ。それでなくともミレラアが苦戦し、追い込まれていたことを考えると、ストベリク市が相当危険な状態であったことは確かで、緊急用の連絡魔法で私を呼び出したのはいい判断だったと賞賛すべきものだろう。
「事情と経緯はだいたい理解できたわ。しかし、困ったわ。これからどうしましょうか?」
「シェリア様、魔導アーマーなるものを完全に破壊して、その危険性を知るこの者たちは一生喋ることができないくらいに痛めつけて口封じしてみては?」
私が考えごとを始めると同時にミレラアが対外用の皮を被って、妥当とも思える案を提示してきた。しかし、それは私が賊と交わした約束とは、ずれたものであることは確かで「素直に話せば助けてくれるって、約束だっただろう?」と賊のリーダーは約束の順守を求めてくる。
「命があれば、廃人になろうが瀕死だろうが同じでしょう?」
「だましたのか!?」
「お前たちは賊なのだろう? そんな輩との約束をバカ正直に守る方がどうかしていると思わない?」
「やめなさい、ミレラア! それ以上は私の顔に泥を塗るということを分かっての発言かしら?」
私がミレラアを睨みつけると、ミレラアは「すいません、シェリア様。ですぎたことをしました」と膝をついて深々と頭を下げた。
「ミレラアの言う通り、賊と交わした約束を守る義理はたしかにないわ。それはあなたたちがこれまでしたことを考えれば仕方のないことよね?」
賊のリーダーは奥歯を噛みしめ、ただ私を黙って睨み返す。
「しかし、私は命の保障をすることを前提に情報を手に入れた」
今回の件に魔法師が絡んでいなかったというこというのは大きな収穫で、さらには鹵獲した魔導アーマーを使えば、面白いことができそうだと思いついたこともあった。
「それで魔女様は俺たちを結局のところはどうしたいんだ?」
「そうね。ストベリク市で一生拘束されて肉体労働に従事して死んだ方がマシだったかもしれないと思いながら生きるのと、心を入れ替え、仕事を手にして生き直すという選択肢くらいは選ばせてあげるわ」
リーダー格の男をはじめ、賊たちは私の言葉に全員が目を丸くする。ミレラアすらも私の真意が分からないのか何度もまばたきをしながら思考を巡らせているようだった。そのなかでクライブだけが興味なさそうにのん気にあくびをしていた。
賊たちは顔を見合わせ、リーダーの男が賊の意見を代表して震える声で話し出した。
「生き直す以外の選択肢がないじゃないか……しかし、そんなことできるのか? 俺たちはストベリク市に入ることすら拒まれ、帰る場所もなく賊に落ちぶれるしかなかったそんな人間の集まりなんだぞ」
「ええ、今はまだ絶対とは言わない。だけど、ちゃんと心を入れ替え、私に従い協力するというのであれば、そんな未来も開けるかもしれないわ」
「それはお前も俺たちを拘束すると言っているのではないか?」
「仕事をするということはそこにある程度は縛られるものでしょう? もちろん嫌なら出ていけばいい。しかし、今の時代、どこに行ってもお前たちは賊になるか野垂れ死ぬくらいしかないでしょうね」
リーダーの男は反論する言葉もないのか、ただただ私を見つめてくるだけだった。
「……分かった。完全に受け入れたわけではないが、それが一番まともな選択ということになるのだろう。お前の言葉が正しければだが」
「ええ。後悔はさせない。その判断が間違ったものではなかったと実感できる日が来たら、感謝しにくるといいわ」
リーダーの男はふっと笑みをこぼした。
「それでは私はストベリク市と話をつけてきましょう。もし私が戻ってくる前に逃げたり抵抗した場合は約束はなかったことになることだけ覚えておくことね。そのときはミレラア――」
「はい。そのときは遠慮なく殺します」
ミレラアの言葉に頷き、ストベリク市の議事堂に戻るためにクライブから降り、ホウキに乗り換えた。そして、魔導プラント跡から勢いよく飛び出し、空へと飛び上がった。




