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悠久の魔女の暇つぶし  作者: たれねこ
第三章 その小さな命に手を伸ばして
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その小さな命に手を伸ばして ④

 グリフォンを独り立ちさせるために、私は心を鬼にすることにした。

 私が冷たく接すれば、愛想を尽かしたり、嫌気が差して勝手に離れていくだろうと思ったのだ。具体的にグリフォンに対して何をするのかと言えば、まずは餌を取りに行ったタイミングでグリフォンが通れるようにと玄関の扉を広くしてたけど、それを元のサイズに戻した。さらに私以外には扉をひらけないように魔法を仕込んだ。

 突然締め出されてしまったので、グリフォンは困ってしまい、私に助けを求めたり、呼ぶために鳴き声をあげるが、もう一人前なのだからと聞こえないふりをした。

 ミアトー村に出向くために家の外に出たら、グリフォンは駆け寄ってくるが、近づかれる前にホウキに乗って飛び立った。もちろんグリフォンも飛んでついてくるが、速度が違うので次第にグリフォンは遅れていく。さらにグリフォンは、ミアトー村の都市機能を維持する魔法陣の中には入れないので、見えない壁に阻まれてしまう。置いていかないでと鳴き声をあげるが、無視して、村へと急いだ。

 村での用事を済まし、翌日に帰っているとグリフォンは私のことを待っていて、帰りもついてくる。私はグリフォンには一瞥いちべつもくれずに家へと真っ直ぐに飛ばして帰った。グリフォンがついてこれなくても待つこともせずに置いていく。玄関先でグリフォンが寂しそうにうろうろしている足音や気配を感じて、心の奥が痛むけれど、これもグリフォンのためと思えば我慢できる。


 そんな日々を送るもグリフォンは私のそばから離れようとはしなかった。

 グリフォンは毎日私のために果物を玄関先に持ってくるようになった。しかし、私が持ってきた果物に手を付けずにいると、数週間で果物を持ってきても食べないと理解したのか、時間ある限り外から私の姿をただ黙って眺めるようになった。

 雨の日も雪の日も、陽射しが痛く感じる夏の暑い日も、ただそこにいるだけで凍えてしまいそうな冬の寒い日も、一日も欠かすことなくグリフォンは私をじっと見つめていた。

 ミアトー村に行くときも、静かについて来て、森から出ることなく私を見送り、帰るときもそっとついてくる。


 これはもう私が折れるの先か、グリフォンが諦めるのが先かという意地の張り合いで。

 そうやって、季節は移り変わっていき、年月を重ねていく。私にとってはどれほどの歳月が経っても終わりはやってこないし、日常は大きく変わることはない。

 だけど、グリフォンは終わりある命なのに、私にこだわってずっとそばにいようとする。どうして限りあるなかで十年以上の歳月を私に費やすことができるのだろうか。

 この意地の張り合いは私の負けだ。人間ですら離れていくような冷たい対応を取り続けているのに、変わることのないグリフォンの私に対する姿勢が想いが、私の閉ざした心をゆっくりとかしていった。


 私が家の外に出ても、グリフォンは近づくことなく私を見守るように遠くから見つめてくる。きっと長い時間で期待するということを忘れてしまったのかもしれない。それは私の責任で胸の奥がチクリと痛んだ。

 ゆっくりとグリフォンの方に近づいていく。そのことでグリフォンもいつもとは違うということに気付いたのか、おそるおそるといった足どりで私に近づいてきた。

 私がグリフォンに向けて手を差し出すと、グリフォンは駆け寄ってきて私の手に頭と体を擦りつけるように甘えてくる。もう成長しきって大人の姿になったグリフォンは私よりも大きな体をしている。体高たいこうは馬よりも大きいくらいになった。そんなに大きくなったのに雛のころと同じように私に甘える姿に思わず笑みと涙がこぼれた。


「お前はいつまで経っても甘えんぼうだね」


 そっと頭や顔の周りを撫でてやると、グリフォンは嬉しそうに目を細めた。このグリフォンにとっては私の存在は一生を捧げてもいいくらいの大きさを占めているのかもしれない。それなら私もその気持ちに応えなければならない。


「お前は私といたいのかい?」


 グリフォンの目を見つめながら尋ねる。言葉が通じているとは思わない。それなのにグリフォンは私の目を見つめ返し、頷くように首を縦に振り、甘えるように高い声でキューキューと鳴いた。

 それを私は質問に対しての肯定の意志と捉えた。それ以前の行動で私と共にいたいという気持ちは痛切に感じていた。だからこれは、確認のための儀式のようなもので。

 私は久しぶりにグリフォンを抱きしめた。

 ふかふかの毛並みにグリフォンの心の温かさだとも思えるほどに心地いい温もりを感じる。だけど、獣臭さが目立ち思わず鼻をつまみ、体をそっと離した。


「水浴びは毎日した方がいい。私のそばにいたいなら、臭くないようにだけしてくれたらいいよ」


 そうやって笑いながら撫でてやると、グリフォンは言葉を理解しているのか体を震わせてから、困ったように頭を下げた。

 それがかわいくておかしくて、私は数百年ぶりに腹の底から声をあげて笑った。


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