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悠久の魔女の暇つぶし  作者: たれねこ
第三章 その小さな命に手を伸ばして
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その小さな命に手を伸ばして ③

 私が別れを惜しんで感傷に浸っていた時間は数時間も経たないうちに無駄なものになった。

 飛び立ってもう帰ってくることのないと思っていた鳥は、私の家を帰る場所だと認識しているのか、餌を取って普通に帰ってきたのだ。

 しかし、私はもうこの鳥に対してなんらかの世話をするつもりもなかった。


「キミは自由にどこへでも羽ばたいていけるのだから、早く巣立ってくれないかしら?」


 思わずそんな愚痴も出てしまう。鳥は私に懐いてしまったのか、さらには恩を感じているのか、私から離れようとはしなかった。

 日中は自分の食事のついでに果物を持って帰ってくるのが日課になりつつあった。日が暮れれば私が読書する近くで時に寄り添うように静かにただただたたずんでいた。

 鳥はとても賢いのか、私の読書を邪魔することはなかった。

 本を読んでいる合間や気が向いたときに撫でたりするくらいなら、手間もかからないし、邪魔にもならないのでそばにいられても全く苦ではなかった。


 鳥はいっこうに独り立ちする気配もなく時間ばかりが過ぎていった。

 一日にふれあう時間は短くとも、それも積み重ねていけば、愛着も増していき、鳥のことがかわいく思えてくるから不思議だ。

 最近は羽根を撫でてる時間に癒しまで感じてしまっている。触り心地のいい毛並みにほどよく温かい鳥の体温が癖になるのだ。


 時が経つにつれ、鳥はさらに大きく育っていった。普通の鳥ではありえないほどに大きくなった。

 一年が経つ頃には、拾ったころは手の平サイズだったはずなのに、今では大型犬と同じくらいのサイズ感だ。さすがにこの成長速度と大きさは普通ではない。

 そして、明らかな四足歩行に向いた体つきに鳥とは違う長めの尾の形状。


「ねえ、キミは本当に鳥なの?」


 私のそんな疑問を鳥にしても無駄なのは分かっている。しかし、理由もわからないし、鳥以外の生物だとしてそれが何なのかもわからない。もしかすると自分から漏れ出る魔力に影響されて、変異を起こしたという可能性すらありえる。もし私の魔力のせいなら、一刻も早く離れて欲しいところだが、この鳥は私のことを相当慕っているのか、独り立ちする気配は全くなかった。

 だけど、餌は自分で取ってくるし、トイレも外でしてくるしで本当に手間がかからないのだ。面倒くさがりな私でも飼えるペットという点ではこれ以上ない生き物と言ってもよかった。


 私が拾った生き物の正体が分かったのは、拾ってから五年の月日が経つ頃だった。

 大きさは大型の肉食獣と同等まで成長した。それでもまだおそらく成長途上だろうことは種族が分かった今では理解している。

 私が拾ったのは、ワシの頭と翼と前足、獅子ししの胴体を持つ獣、グリフォンだったのだ。


 グリフォンだったと分かれば、色々と合点がいくことばかりだった。

 成長速度も体の大きさも、四本足なのもワシと勘違いしたのも。

 グリフォンは群れで活動するが、群れでの移動の途中にいなくなった仲間を探すことも追うこともないとされている。それは群れを抜けたグリフォンが自分にとって都合のいい場所を見つけたからだとか、元の群れからすれば必要な食料の量が減って効率的だからだとか色々と説があるのだと、後になって本で調べて知った。

 そういう性質をかんがみれば、私が拾った時に周りにグリフォンがいなくても不思議ではないし、群れで暮らす種族だからこそ私もその集団の一人と認識され、離れようとしなかったことをはじめ行動に説明がつく。


 しかし、私とグリフォンでも生きる時間は違うし、グリフォンのことを考えれば自然に帰って暮らす方がいいように思えてしまう。

 仲間を探して、同じ種族同士、一緒に暮らす方が幸せな一生を送れるのではないかと。

 自分のことを棚に上げて、グリフォンに自分の価値観を押し付けるというのは間違っているかもしれない。

 だけど、私といてもただ日々を無為むいに過ごすだけで、時間だけが過ぎ去っていくだけだ。最後は私が看取って終わる。分かりきっている当然の結末。

 それだけの一生なんて、かわいそうだと思ってしまうのは私のエゴなのかもしれない。

 それでも私は拾ったグリフォンがよりよい一生を送れるように独り立ちを促そうと決めた。

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