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悠久の魔女の暇つぶし  作者: たれねこ
第三章 その小さな命に手を伸ばして
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その小さな命に手を伸ばして ②

 太ももあたりにほのかな温かさを感じながら、鳥の雛の鳴き声に呼ばれるように意識がゆっくりと覚醒していく。

 雨が降ったからか一層濃くなった緑の香りに包まれながら目を開けると、夕暮れの茜色に輝く世界に東の空からは夜の藍色が混じりだしていた。

 雛は私の膝の上でまだうとうととしているようだった。時折、小声で鳴いているのは少しかわいい。雛を起こさないようにホウキの上で体勢を変え、ふわりと飛びあがった。そのまま静かに空を滑るように家へと向かって飛んだ。

 家に着くころには、仄暗ほのぐらくなり、ホウキの先につけたランプと私の接近にあわせて明かりをつけた玄関脇の外灯だけが淡く光を放っていた。

 雛を優しく胸に抱えながら、家の中に入り、使い古したタオルを巣の代わりにしてそっと雛を置いた。近くにランプを置いて、雛をじっくりと観察する。

 左の羽根は相変わらず力なくだらんとしていて、触ると嫌がるので骨折の可能性が高いように思えた。それ以外には目立った外傷はなく、ホッと胸を撫でおろす。

 怪我が治り、独り立ちできるようになれば自然に返すことが前提なので、怪我の治療などに魔法を使わない方がいいように思えた。過去に読んだ本の中には動物用の医学書もあったので、その記憶を頼りに骨折箇所を硬めの布で羽根を固定するように巻き、羽ばたかせないようにするために翼を畳んでさらに身体に布を巻き付ける。

 このまま安静にして、しっかり食べ物を食べればきっと怪我はすぐに治るだろう。


 夜が明け、雛の食べ物を探すついでに、怪我の治りをよくする薬に必要な薬草も集めることにした。広い森だけあって、探せばだいたいの薬草は自生している。

 家に帰ると、タオルで作った巣から雛は顔をのぞかせながら、えさが欲しいと鳴き声を上げる。そのたくましさと愛らしさに思わず笑みを浮かべてしまう。

 私の手から木の芽や果物、虫を美味しそうに食べていく。


「何の鳥の雛かは分からないけど、なんでも食べるのね」


 私はどちらかと言えば偏食だ。だからか、なんでも美味しそうに食べている様を見ているのはどこか気持ちのいいものだった。


 それからの私の生活はこの小さな生き物を中心に回ることになった。

 雛は餌を自分で取ることができないのだから、いかに引きこもりの面倒くさがりな私も毎日のように家の外に出掛けた。

 雛を拾って半月もすれば、怪我がよくなったのか左の羽根にもしっかりと力が入るようになり、自分で羽根の毛繕いをするようになった。それだけでも一つ大きなヤマを越えた気がした。

 それからは雛はすくすくと成長した。

 羽根が少しずつ生え変わり、さらに半月が経つころには飛ぶこともできるようになった。巣立ちも近いと感じた私は雛と一緒に森に行き、雛に自分で食べ物を取るように訓練させた。

 そうやって毎日のように雛と森に行く日々もひと月が経つころには、すっかりと一人で餌を取れるようになり、それを誇らしげに私に見せに来るようになった。


「そろそろかしらね」


 雛はもう雛とは言えないほどに成長し、もう他の鳥と比べても遜色そんしょくないほどのサイズになり、毛並みや毛艶けづやはとても綺麗なものになった。

 大きくなって分かったが、拾った雛はワシの雛だったようで、まだかわいい顔をしているがずいぶんと精悍せいかんな顔つきになった。


「そういえば、ワシって、四本足だったかしら?」


 遠くを飛んでいるワシを見たことはあっても間近で見たことがなかったので、首をかしげてしまう。しかし、そんな疑問ももう私には関係のないものかもしれない。自然に返してしまえば、疑問に思ったことすら忘れるだろうからだ。


 成長した雛――鳥を抱えて、家の外に出る。


「キミはもう怪我もすっかりよくなったし、立派に成長したわ。だから、森に、自然にお帰り」


 そう言って、空に飛ぶように促すように鳥を放ってやると、鳥は元気に羽ばたいていった。その力強く飛んでいく姿に感慨深いものを感じた。

 情が移っていたのだろうか、別れに対して寂しさを感じていた。

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