ネオンの街の借金男
「いや〜、すいません。まだ用意できなくて……それにしても今日の前川さんは一段とイケてますね。へへっ、女共が発情してますよ」
「ったく調子のいい野郎だなあオメェは。まあいいや、利子はキッチリ付けとく。テメェの首締めんのはテメェだからな」
「いやさすが前川さん、器が大きい。利子も特別割引ってな訳で、いつも助かってます」
「お前には借りがあるからな」
「へへっ、じゃあそういうことで」
「ああ」
俺は今日もネオンの街、ポータムシティをふらついている。
俺の家であり、俺を縛りつける牢獄でもある。
この街は夜だ。
夜しかない。
朝も昼も夕方もない。
ずっと夜だ。
ネオンの灯りが街をきらびやかに、そして哀しく照らしてる。
鼻を通るにおいは、紫煙と色欲。
喉を通るのは、酒と嘘。
目に映るものは全て、脆く儚い。
こんな街であり、この街である。
「あら家無し名無しの金無しさんじゃない。何も無いあなたが唯一持ってるツケはいつになったら無くなるのかしら?」
「いや〜どうも由利さん、へへっ。それにしても、ああ……今日も綺麗だ……世界中の女性があなたであったのならどれだけ幸せか」
「まったく、そんな事言ってまたはぐらかすんだから。まあいいわ、早く仕事見つけなさいよ?」
「いやすいません、早いとこ見つけますんで、へへっ。それじゃ」
「身体には気をつけなさいよ」
俺はこの街で返しきれない程の借金を抱えている。
俺はバカさ。ろくでなしとも言えるし、クズとも言える。
この街に俺を知らない奴はいない。色んな連中に金を借りてるからな。
この街の癌だ。
それでも誰もが俺を見捨てない。
俺は皆の不安を取り除ける。
俺という人間が居る限り、この街の人間は底辺に落ちぶれる事がない。
俺は下だ。
下という概念は、俺なんだ。