ドヤ顔鴉と、炎の舞
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更新が本当に久し振りになってしまい申し訳ありません。
やっとこさ、戦闘の続きです。
今回は男子寮の合流、そして女子寮組の話。
ライジン先輩に続き、女子寮で活躍するのは……。
どうぞお楽しみ下さい。
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「『雷花繚乱<ライカリョウラン>』──っ!」
報せを受けて南寮から走って来たナユタとカラハが廊下に現れた瞬間、その眼前で──ライジンの雄叫びと閃光が、弾けた。
闇を白金一色に塗り替える程の光と空気を震わせるビリビリとした衝撃波、そして風と熱が辺りを覆い尽くす。ナユタとカラハ、そして鳩座と宮元は咄嗟に腕で顔を庇い、しかし術の生み出した膨大な雷撃の余波に耐えながらも踏み留まり、今起こっている事を見極めようと光の中心へと目を遣った。
それはまさに、雷火の花園。
あたかも花火の如く閃光を撒き散らす雷の花が数多に連なり、レース編みの如く繊細な紋様を浮かび上がらせ弾け続けていた。濁流のように溢れていた蛇達はその美しくも激しい網に覆われ、絡み付かれ、次々と消し炭すら残さず蒸発し光る粒子へと姿を変えてゆく。
──掛かったのは数秒か、数十秒か。
ライジンの錫杖がしゃらん、と音を立てた。構えを解いたライジンの目の前で、溢れていた光と熱が蛇を殲滅した後に残ったのは、何事も無かったかのような静寂。雷光の残滓が僅かに弾け消え、空気が急速に冷えてゆく。
「一丁上がり、ってね」
自信たっぷりな顔で振り向くライジンの背後で、硝子の割れるような音を立てて陣が砕け散った。
ライジンのそんな様子に、皆がはあと溜息を漏らす中、宮元がへなへなと腰を抜かしたように床にへたり込む。
「先輩、こらちぃとやりすぎやで……」
「別にいいっしょ。どうせオマケ扱いなんだったら、ここらでいいとこ見せとかないと、活躍する機会がなくなるっての! それにホラ、俺っちの一撃で全部片付いたのは間違い無い訳だし?」
どうだ、と言わんばかりのドヤ顔を見せるライジンに、皆は再度深い溜息をついた。
実力は間違い無いのに、この態度が無ければなあ……、とナユタはとても残念な心地になる。他の面々も同じ事を感じたらしく、皆一様に首を捻ったり肩を竦めたりと何とも言えない空気が漂う。
そんな微妙な雰囲気の中、A班最後の一人がひょっこりと姿を現した。
「ライジン先輩、そろそろその辺でやめた方がいいですよ。自画自賛が過ぎると、残念感が半端無いですから」
「パパっちまで!? みんな酷いっしょ!?」
そう、微笑を湛えてやって来たのは、パパこと寮生長タカサキ・ワタルであった。宮元からの報せを受けてナユタとカラハを送り出した後、戦闘に参加出来ない自分が急いでも邪魔になるだけだと、慌てずゆっくりと歩いて来たのだ。
「まあまあ先輩落ち着いて下さい。……しかしまあ、あの量を一撃で葬るとは恐れ入りましたよ。流石と言わざるを得ませんね」
皆にいじられるライジンを不憫に思ったのか、鳩座がフォローを入れる。上下関係の厳しい武道部系部活に所属しているだけあって、『先輩』の扱いはお手のものだ。そんな鳩座にライジンはキラキラした眼を向けて微笑んだ。
「さっすが鳩座っち! 俺っちの凄さ、分かってくれてるんだな! いやあイイ後輩を持ったなあ俺っちは! そうだカラハっち、カラハっちもそう思うよね?」
「……ああ。えっと、技は凄ェと思いますよ、技は」
「何その奥歯に物が挟まったみたいな言い方!?」
「他意は無ェっスよ、他意は」
「絶対嘘だろ!?」
ぎゃいのぎゃいのと騒ぐライジンに半笑いを返すカラハを横目に、さて、と寮生長は他の面々に笑顔を向けた。座り込んでいた宮元もよっこらしょっこらと立ち上がり、鳩座やナユタと顔を見合わせる。
「無事ここも片付いた事ですし、早速神殿へと向かいましょうか。ラスボスもきっとお待ちかねですよ」
「ああ、うん。今日で終わりって事だし、さくっと片付けようか」
寮生長の言葉にナユタも頷き、鳩座や宮元と共に歩き出す。それに気付いたカラハも、投げやりにライジンに声を掛けた。
「ほらライジン先輩、行くっスよ。出番が済んだからって、まだこっちの用事は終わってないんスから。後始末までがあやかし退治っスよ」
「遠足みたいに言うなってば!?」
かくして合流した六人は、最後の大蛇を倒すべく、いざ神殿へと歩みを進めるのだった。
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一方女子寮では今まさに、一階洗面室の窓に浮かんだ陣から湧き出す蛇の大群を、ツクモが大炎狐で殲滅せんと術を発動させた所だった。
「最大出力っ! 行けっ! 『猛狐炎舞・炎浄<モウコエンブ・エンジョウ>』っ!」
陣を覆い尽くす程に大きな六尾の炎狐が、洪水の如く雪崩れ落ちる蛇達を燃やし尽くしながら、陣へと疾駆する。明るいオレンジ色に輝く炎が、洗面室の左右に設置された壁幅一杯の鏡とステンレスの流し台に映り込んだ。まるで幾つものスポットライトに照らされたが如く部屋中が眩しく輝く。
大狐が進むにつれ、轟と唸る火焔が蛇の洪水を焼き滅ぼし、炎と共に光の粒子が火の粉の如く舞い乱れる。そして火焔の渦と化した狐が陣の煌めく窓硝子を突き破り──陣の壊れる音が、高らかに響いた。
砕けた硝子細工のように散る陣の破片、舞い踊る焔、光の粒子が入り乱れ乱反射し、幻想的な光景が浮かび上がる。その美しさに思わず、後ろ手見守っていたヒトミ、能古、そしてイズミの三人は揃ってほうと溜息をついた。
「ふう、こんなものですかね……上手くいって良かったです」
程無くして炎狐は溶けるように姿を消し、陣の名残も光の粒子も全てが何事も無かったかのように消え失せる。ツクモが張っていた気をふうと溜息と共に吐き出すと、洗面室は既に元通りの静寂を取り戻していた。
さて、と皆の方を向こうとしたツクモに、待ちかねたようにヒトミが駆け寄りその手を勢い良くきゅっと掴んだ。その笑顔はとても誇らしげで、そして涙まで薄らと浮かべている。
「わわ、わわわわっ!? ヒ、ヒトミねえさまっ!?」
「凄いわ流石だわツクモちゃん! 蛇さんのみならず、一回の攻撃で陣まで破壊してしまうなんて! もうっ、いつの間にこんな頼もしく……わたくし、感激してしまいましたわっ!」
「ヒ、ヒヒヒ、ヒトミねえさま……!? そそそんなに褒められたら恥ずか死んでしまいます……!」
「あ、あらあらら、それは困りますわね……」!
興奮のままに握られた手をぶんぶんと振られ、ツクモははわわわわと慌てふためいた。キャッキャと騒ぐヒトミと目を白黒させるツクモを見かね、少し呆れたようにイズミが声を掛ける。
「キツネちゃん、ご苦労様だ。無事ここも片付いた事だし、そろそろ本命を倒しに行こうじゃないか」
威厳或る四回生の言葉に、ヒトミとツクモもはっとしていずまいを正した。能古もその隣に並び立ち、何故かビシッと敬礼をする。
「よし、皆、神殿に向かうぞ!」
「「「はいっ!」」」
元気良く揃った声が、廊下に響き渡った。
いざ、大蛇退治へ──夜はまだ、始まったばかりなのである。
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すっかりいじられキャラなライジン先輩と、堂々たる態度のイズミ先輩、この落差たるや……。
そんな訳で男子女子共に大量の蛇は撃破。さて次は……いよいよ大蛇との対決!
次回も乞うご期待、なのです!
今までは更新がかなり間が空いてしまいましたが、何とかこれからはさくさく更新していきたい所存です。
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また、同じ世界観での作品を色々書いております。
なろうでは、短編『酔いどれ迷子のグリムリーパー』。アインヘリアの数年後にあたるお話です。
またノクターンやムーンライトなどでも複数のお話を掲載しております。大人なお友達の方は是非作者名で検索してみて下さい。
それでは今後とも是非是非宜しく、なのです!
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