表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/96

新たな誓いと、鳴る電話



お待たせしました、前回に引き続き、男子寮組の話し合いの続きとなります。

腹を割って話し合うカラハ達。交差する視線、揺れる思惑……。

どうぞお楽しみ下さい。




  *


「シヴァって、あのシヴァかいな。目が三つあって、蛇首に巻いて、虎の毛皮身に着けとる、黒い肌の……あっ」


 宮元が思わず零した自身の言葉に、驚きの声を上げる。──そう、今言ったシヴァ神の特徴が、カラハにそっくりそのまま当て嵌まる事に気付いたのだ。


「虎はカゲトラの事で、小さな蛇も使役してる。確かシヴァの主な武器は三つ又の槍だ。確かにそうだ、何で気付かなかったんだろう。全てがカラハと合致してる」


 ナユタがはあっと深い溜息をつく。思い起こせばヒントは今までの中に全て散りばめられていたのだ。何より三つの目を持つ神など、そう多くはいない。ナユタに続いて寮生長も深い息を吐く。


「カラハ君の出自から、てっきり仏教のいずれかの存在だと思い込んでいました。ヒンドゥーは仏教の元となった神話です。サンスクリット語を使うのも、印を結ぶのも──全て合点がいきますね」


 皆の言葉に、あァ、とカラハは軽く頷いた。そして自嘲するような笑みを浮かべ、瞳を伏せて言葉を紡ぐ。


「俺の中の力は強大過ぎる、俺はまだその力の全てを把握し切れていねェんだ。さっき寮生長が言った通りだ、俺は昔一度力の暴走を起こしてる。どこまで制御可能なのか、どこまでなら暴走せずに使えるのか、まだまだ手探りの状態なんだ」


「──大体の事情は把握した、マシバ・カラハ。なら尚更、僕達を信用しては貰えないだろうか」


 静かな鳩座の声が響く。はっと瞳を上げたカラハの視線と、鳩座の強い眼差しが絡み合う。


「君が自身の力の制御に強い懸念を抱いている事は理解した。ならばその事を知った上で──僕達に君をサポートさせてはくれまいか。僕もそれなりの力を有している、アラタ・ナユタは多彩な術と踏んで来た場数でフォローが可能な筈だ」


 カラハが鳩座の言葉に釣られるようにナユタを見た。ナユタもカラハを見詰めていた。その眼はどこまでも真っ直ぐに、カラハを射抜く。


「カラハ、君が君自身の力を不安に思うなら──僕は君の盾に、引き金に、枷になる。君がもし暴走したならば、僕は全力で君を引き戻す。僕が君の──理性になる」


 ナユタの瞳には強い意志の光が宿っていた。カラハはその灰色の瞳に、正面からカラハの心に立ち向かうナユタの芯の強さに、いたたまれなくなりそっと瞼を伏せる。


「く、……っくくく、は、ははははッ! ナユタ、お前が、俺を停められるってのか。俺自身ですら御し切れない俺を、お前は律しようってのか」


「笑われようと、馬鹿にされようと、僕はこの意志を曲げるつもりはないよ、カラハ。僕が君を御する。──僕の術を舐めるなよ、カラハ。僕は君の隣に立つって誓ったんだ、決して君を一人でなんて戦わせやしないよ」


 いつになくきっぱりと言い切るナユタの強い口調に、カラハはまた大きく溜息をついた。ふっとその表情が柔らかいものに変わる。がりがりと頭を掻くと、カラハははは、と笑みを零してナユタへと視線を上げる。


「あァ、分かったよ、ナユタ。そうだな、お前は俺の相棒だったな。……疑うような事を言って悪かった。誓わァ、もう二度と一人で戦ったりしねェ。お前らを頼る事にする」


 カラハがすっと大きな手を伸ばす。見返すナユタに、カラハはニヤリと牙を見せて笑った。ナユタも白く華奢な手をおずおずと差し出し、そして二人はがっしりと握手を交わした。


 ふう、と誰ともなく安堵の息が漏れた。これで一件落着かいな、と足を崩す宮元を尻目に、寮生長が少し眉根を寄せて口を開く。


「カラハ君、互いを心配しているのは誰もが同じですから。もう金輪際、あんな無茶な真似はやめて下さいね」


「分かった、分かったよ寮生長。もう一人で飛び出したりしねェから。お小言は無しにしてくれよ、な?」


 カラハの少しおどけた口調に皆の態度が和らいだ。もうすっかり元通りかな、と鳩座が密かに胸を撫で下ろす。


 さて、と寮生長がよっこいしょと立ち上がり、肩をほぐすように大きく腕を回した。オッサン臭いがな、とツッコむ宮元に、寮生長が苦笑を漏らす。


「それでは、結論が出たところで今日は解散としましょう。明日もテストですしね。今日の報告はまた明日の夕方に部室で、という事で」


 寮生長の合図で皆も各々立ち上がる。鳩座が神殿の戸締りを確認しようと窓に近寄り、ナユタが貼っておいた結界の符を剥がそうと歩き出した、そんな時。


 不意に寮生長のポケットから古い特撮主題歌の着信音が流れ出した。携帯電話を取り出し画面に映し出された名前を確認すると、寮成長はおやっと軽く驚きつつ電話を取る。


「──もしもし、タカサキです。はい、男子寮の寮生長ですよ。どうしましたツクモさん。……え、はい? 今、何と……ええ、ええ!? ヒトミさんが……!?」


 寮生長が上げた珍しく素っ頓狂な声に皆が振り向いた。ばらばらと散っていた四人が慌てて寮生長の元へと集まって来る。


「どうしたよ、女子寮の方で何かあったのか?」


「ヒトミさんがどうしたって?」


 皆が心配そうに見守る中、寮生長は幾つかの短い指示をツクモに告げ、そして通話を切った。ふう、と大きく溜息をつき、寮生長は携帯をポケットに戻す。


「女子寮でもこちらと同じように大蛇との戦闘があったのですが、その際に──ヒトミさんが倒れたそうです」


「倒れた……!?」


 寮生長の言葉に、皆が驚きの声を上げた。


  *





より結束を固めたナユタ達。これで一安心です。

一方、女子寮からは不穏な電話が……。

という事で次回は女子寮側のお話です。明日更新の予定です。乞うご期待、です!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ