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擦れ違う心と、力の名



前回の戦闘シーンから変わって、今度は男子寮組の話です。

カラハの真意と、ナユタの、そして皆の思いがぶつかり合います。




  *


 カラハは今日起こった事の経緯をかいつまんで説明する。その口調は淡々としていてその顔は感情を押し殺しているような表情で、ナユタはそのカラハの様子に唇を噛んで拳を握り締める。


「だから、一人で飛び出してったのは俺の独断で、感情に任せた行動だった。ナユタや鳩座には何の責任も無ェ。悪かった、謝る」


 そう言って頭を下げるカラハに、ふむ、と寮生長は溜息を漏らす。


「……カラハ君。君には一人でも勝てるという勝算があったと?」


「むしろ昨日までの方法が通用しねェ可能性もあった。足手まといとは言わねェが──万一ナユタや鳩座に攻撃が及べばタダじゃ済まないと思ったんだ」


 それを聞いてナユタがカラハに掴み掛かろうとする。慌てて鳩座がナユタを押さえるも、ナユタは尚も手を伸ばし怒りを露わに声を上げる。


「だからって! カラハ、君一人で戦おうなんて、カラハが怪我でもしたら、僕らは何の為に……っ!」


「だから、──悪かった」


 目を逸らして謝罪だけを重ねるカラハをナユタは睨み付ける。そんなナユタの肩を抱いて座らせつつ、鳩座もまた鋭い視線をカラハに向ける。


「マシバ・カラハ、僕達が君の強さに遠く及ばない事は自覚している。しかしそれでも、一人で戦う以外にも選択肢はあった筈だ」


 黙り込むカラハと怒りを抑え切れない二人を交互に見遣り、それまで黙っていた宮元がいつになく真面目な顔で呟いた。


「なあカラハ。お前は言葉が足りん過ぎや。この二人が何で怒っとんのか分からんお前やないやろ。そんでも二人をないがしろにしてまで一人で戦う理由が、お前にはあったんか」


 それでも黙って視線をさ迷わせるカラハに、鳩座の制止を振り切ったナユタが掴み掛った。ナユタはカラハの胸倉を掴み、押し倒さんばかりの勢いでまくし立てる。


「カラハっ、僕は自分の身ぐらい自分で守れる! 鳩座君だってそうだ! そんなに仲間が信用出来ないのか、僕らが頼りないって言うのか! 一人で全部背負おうと何でするのさ!? こっち向けよ、目反らすなよ……!」


 カラハがようやく、ナユタの瞳を真正面から見据えた。その眼はいつにも増して黒く深淵めいて、ナユタは一瞬言葉を失う。


「……俺は、お前らが大事だから、一人で戦ったんだ。お前らを巻き込みたくなかった」


 カラハの服を掴んだナユタの手に大きなカラハの手が重ねられる。その手の平は熱く、しかしカラハの言葉にナユタは全身を震わせた。


「じゃあ、僕はカラハにとって何なのさ。──そんなに僕は頼りないのか。相棒、だろ……?」


 ほろほろとナユタの瞳から涙が零れた。カラハはふうと大きく溜息をつくと、引き剥がしたナユタの手を握り、そっとナユタの震える肩を抱いた。漏れる嗚咽に重ねて、悪かった、と呟く。


「マシバ・カラハ。いっそ全部話してくれないか。君が僕達の事を信用していない訳ではないと言うのならば、理由は君自身にあるのだろう?」


 重苦しい空気の中、鳩座が静かに告げる。次いで眉根を寄せ様子を伺っていた寮生長が口を開いた。


「私の推測ですが。──カラハ君、君の力はとても強大なものなんでしょう? もしかしてその辺に理由があるのではないですか。例えば、力の暴走を恐れているとか、制御し切れない可能性があるのでは?」


 寮生長の言葉を受けて、カラハは顔を上げた。皆の顔をゆっくりと見回す。その表情にはまだ迷いがあり、引き結んだ唇は少し震えている。


 その時、だんっ! と音が響いた。皆が一斉に視線を向けると、──いつもへらっとした明るい表情ばかりの宮元が、怒りに顔を赤く染めて立ち上がっていた。拳を握り、足を踏み鳴らして唾を飛ばさんばかりの勢いで宮元がわめく。


「ああっ、イライラする! 何で仲間同士でこんなギスギスせなアカンのや!? 言いたい事があるならハッキリ言うたらエエやろ!? 隠し事せんとズバッと言うたらどうや! 全部話してスッキリしたらエエやんか! 腹の探り合いみたいなんが一番ワイは嫌いなんやっ!」


 呆気に取られて皆が宮元を見詰める。泣いていたナユタまでもが顔を上げ、宮元の怒気にぽかんと目を見張った。注目されて恥ずかしくなったのか、宮元は顔を赤らめて居心地悪そうにすとんと座り直した。


「……口悪うてすまん。でもな、腹になんか抱えたまんまでとか、アカンと思うんや。その、これからも強い敵が出てこんとも限らんやろ、ギクシャクしたまんまでとか、ワイ、一番嫌なんや」


 頭を掻きながら続ける宮元に、ははは、とカラハが笑いを零す。


「そうだな、悪かった。俺の独りよがりで皆を不安にさせちまった。悪りィ」


 表情を崩し、カラハがナユタの頬を伝う涙をそっと拭った。ナユタは今更ながら恥ずかしそうに俯き、鳩座が貸し手くれたタオルハンカチでごしごしと乱暴に涙を拭く。鳩座と寮生長は少し緩んだ空気にほっと安堵の息を吐いた。


「あァ、そうだな。ずっと隠して来たけど、ここらが潮時か。──明日もテストだしな、手短に話すわ」


 何から話せばいいんだっけな、とカラハは呟きながら足を組み替える。皆もつられて座り直し、カラハの言葉を待った。


「俺の力。俺の中に在るのは──シヴァ神だ。ヒンドゥーの強大な破壊の神だ。世界を再生する為に世界を全て破壊する力、それが俺の力の正体だ」


 その言葉に、皆が揃って息を飲んだ。


  *





引っ張って引っ張ってすみません、ようやく明かされました、カラハの力の秘密。

気付いてる方はいらしたかもですが、そうですシヴァ神だったのです。

インド神話における最も重要な神の内の一柱です。世界を作り替える時に今ある世界を破壊し尽くす力を持っています。カラハが力を使う時に現れる第三の眼はシヴァの象徴です。

ちなみにカラハがいつも使っている槍はトリシューラと言い、シヴァのシンボルの一つでもあります。またシヴァは首に蛇を巻いた姿をしていますが、カラハがカゲトラの首輪代わりに使った蛇はこれです。カゲトラ自体も、シヴァが倒して毛皮を奪ったとされる虎のオマージュです。


力の源が分かったところで、しかしまだカラハの話は続きます。次回も乞うご期待、なのです。



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