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疑念の代価と、払う腕



今回は女子寮組の続き、そして後半は男子寮組となります。

様々な思惑が絡むそれぞれの事情。

それではお楽しみ下さい。




  *


「今のは、……何だったのでしょう」


 あやかしの消えた空間を呆然と見詰めたまま、ヒトミが呟いた。既に瘴気は跡形も無く、非常口に浮かんだ陣もただ静かに輝きを放っている。


 あ、と背後から声が上がり振り向くと、正気を取り戻したツクモが投球フォームに入るところであった。


「ヒトミねえさま、避けて下さい! 今から陣、壊しますねっ!」


 ヒトミが無言で壁際へと寄ると目の前を狐火が駆けた。緩い曲線を描き、アンダースローで輝く火球が陣へと命中する。硝子の砕けるような音が響き、非常口はただの扉へと無事戻ったようだった。


「ああ、すっかり忘れてましたわ。ありがとう、ツクモちゃん。……はあ」


 ヒトミは大きく息を吐き、その場へとしゃがみ込んだ。ツクモも傍に寄りぺたんと座り込む。そういえば、と能古に視線を向けると、四つん這いでのろのろとこちらへ寄って来るところであった。


「あ、あ、あれは、なな何だったのでしょうか……? すす、すっごく、怖かったです……」


 噛みながら感想を述べる能古の顔はまだ蒼く、ツクモも怯えた表情で同意する。ヒトミも何が何やら分からず、ただやり過ごせた事だけがせめてもの救いに思えた。


「あれが一体何だったのか、正直わたくしにも分かりません。ただ、あれと戦わずに済んだ事は幸いでしたわ……あれは、とても強いものでしたから」


「その、何かを探しているような感じも受けました。戦っていたら、それとも王でないと答えたら、どうなってたんでしょう」


 ツクモの問いにヒトミはかぶりを振った。怖ろしい未来もチラと脳裏によぎったが、それは口に出さない方が賢明だろう。いたずらに後輩を怖がらせても、何も良い事は無い。


「あ、あれは、何処から、はは入ったんでしょうか。寮って結界が張られてるって、あの先日聞いて、えっと」


「きっと、寮生の誰かに取り憑いて紛れ込んだのでしょうね。もしくは結界を抜けられる程の力があるか。──どちらにせよ、陣や大蛇と関係があると観て間違い無いでしょうね」


 三人は同時に溜息を零した。


 正直、さっきの出来事で随分と気力が削がれてしまったが、寮はまだ暗闇に包まれたままだ。きっと神殿では、あの大蛇がとぐろを巻いていることだろう。


「ずっとこうしてもいられませんわね。……さあツクモちゃんノコノコちゃん、神殿に向かいましょう、平穏を取り戻さなくては」


 声を上げてヒトミが立ち上がる。そうですね、と明るい声でツクモが、そして能古が続いた。


 乙女の園に暗闇は似合わない。しっかりしなくては──ヒトミは自分にそう言い聞かせると、再び胸を張ったのだった。


  *


「……あれ、なんや昨日や一昨日のんと比べて、デカあなってる気がするんやけど」


「多分気のせいじゃないですね。私も同じ事思ったところですから」


 寮生長と宮元の二人は神殿へとやって来ていた。結局来た寮にはそれ以上の人員は見当たらず、そろそろナユタ達も到着している頃だろうと歩みを速めたのだ。


 到着してみるとナユタ達はまだのようで、そっと覗いてみた神殿には大蛇が二度ある事は三度あると言わんばかりにとぐろを巻いている。しかし──これが、昨日や一昨日の大蛇よりも些か大きく見えるのだ。


「私達が気付かなかっただけで、もしかしたら昨日のは一昨日のものよりも少し大きかった、なんて可能性も……」


「それあるかもなあ。ほな明日のはもっと大きゅうなって……」


「──お二人さんよォ、変なフラグ立てンのはやめてくんねェかな」


 神殿の入り口でぼそぼそと囁き合っていた二人の頭上から、不意に声が降ってきた。


 二人が同時に振り向くと、そこには何だか疲れた顔のナユタ達三人が立っていた。不機嫌そうな表情を書くそうともせず、カラハが宮元の頭越しに大蛇を見遣る。


「ああ、でも確かにありゃア、昨日のよりデケェな。嫌な話だぜ、全くよォ」


 ぶつぶつとカラハは悪態をつきながら曲剣を虚空に仕舞い、手慣れた動作でいつもの槍を空中から引き摺り出す。寮生長と宮元が後ろへと下がると、ナユタと鳩座も神殿の中を窺った。


「確かに大きい気はするが……かと言って倍になったという程では無し、今日も前回と同じで大丈夫ではないかな」


「まあ、そうだよね。今まで通り僕が蛇を閉じ込めて、それで二人に倒して貰えれば──」


 鳩座とナユタがそれぞれに今日の計画を語り合っていると、低く唸るような声が二人の頭上に落ちた。


「どけ」


 見上げると──カラハが槍を担いで立っていた。声色からは苛立ちが滲み出しており、その表情に浮かぶ不機嫌さを隠す素振りも無い。


「え、カラハ。どけって、一体……」


 慌ててナユタがカラハの腕を掴もうとしたが、自然な動作でその手は払い除けられた。ショックに立ち尽くすナユタの横から鳩座が手を伸ばし、カラハの進行を阻もうと引き戸の前に立ち塞がった。


「マシバ・カラハ、どういう事だ。よもや僕達に疑われたのを根に持って、」


 寮生長と宮元は事情が飲み込めずに戸惑うばかりで、睨む鳩座とおろおろするナユタが煩わしくて、カラハは大きく舌打ちをすると全員をぐるり睨み付けた。


「ぐだぐだ面倒な事言ってンじゃねェよッ、俺ァ今すこぶる機嫌が悪りィんだ! オラ鳩座そこどけよッ、あんなデケェだけの蛇如き、俺が一人で片付けてやらァ!」


 カラハの全身から鈍銀の燐光が噴き出す。たじろいだ鳩座がよろけながら横に身体をずらすと、カラハは凄絶な笑みを浮かべてナユタを見下ろした。


「おいナユタ、そっからしっかり観てろ。俺が一人でアレ倒して、俺が何も関係無ェってさ、疑いを綺麗さっぱり失くしてやるからなッ」


 カラハの言葉にナユタは目を見開いて驚き、そして泣きそうな顔になる。慌ててナユタはカラハの腕に取りすがった。


「やめてカラハ、危険だから! 一人でなんて危ないよ! 僕もう疑ってなんてないから、疑った事謝るから!」


 カラハはすがるナユタの腕をそっと剥がすと、ふっと柔らかな笑みを浮かべる。しかしその笑顔はどこか歪つで、少し悲しそうにナユタには思えた。


「違ェんだ、ナユタ」


「……え?」


「これは、お前に疑わせちまった俺の責任なんだ。だからキッチリ、ケジメ付けさせてくれよ」


 肩をポンと叩かれナユタは息を飲む。


 ──そして止める間も無く、カラハは引き戸を開け放ち、神殿へと一人で躍り込んだ。


  *





女子寮組は三人しかいないので大変です。ヒトミさんは凄く頑張っているので、ツクモちゃんにもっと強くなってもらわないと、ですね。


そして合流した男子寮組。

しかし何やら妙な事に……。カラハはどうやらナユタの心の不安を察し、不安にさせてしまった自分が悪いのだと、その疑念を取り除こうと、大蛇に一人で挑むつもりのようです。

さてどうなることか。是非次回も乞うご期待、です!



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