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乙女の園と、黒き蛇


  *


 ──同じ頃。


 真宮皇道館大學のもう一つの寮である女子寮『貞華寮』でも、同様の事象が起こっていた。


「はわわっ、ヒトミねえさま、これは……!?」


 自室で仲良くテスト勉強をしていたヒトミとツクモは、突然の暗転に驚き、周囲の様子を伺う。停電かと一旦は落ち着いたものの、耳を澄ましても物音一つ聞こえない異常な状況に、ヒトミは優美な眉をひそめた。


「これはどうやら、ただの停電では無さそうですわね。ツクモちゃん、落ち着いて。わたくしたちが解決しなければならない事象かも知れないわ」


「そ、それって、あやかしか何かですか!?」


「いいえ、まだ何かは分からないわ。……取り合えず様子を探ってみましょう」


 二人はそっと扉を開ける。非常灯すら点いていない廊下は闇に包まれて、純粋な黒だけが空間を塗り潰している。


「本当に真っ暗……これでは何も視えないですわね」


「じゃああたしの狐火で照らしてみますね」


「お願いね、ツクモちゃん」


 ツクモが腕を振ると、ぽ、ぽ、ぽぽぽん、と明るいオレンジ色の火の玉が幾つか出現する。温かみのある光に照らされて、普段と変わりない廊下の様子に二人はほっと息をついた。


 しかしヒトミが他の部屋をノックしても一向に返事は無い。どころか、試しにノブを捻ってみても扉を開ける事は出来なかった。


「どうやら、別の次元に移されてしまったようですわね。それとも建物丸ごと異界となっているのかも……? どちらにせよ、断言するにはまだ手掛かりが無さすぎですわね」


「それじゃ、どうします? どこかに行ってみます?」


 首を傾げるツクモに、同じく首を傾げながらうーんとヒトミは指を口許に当てる。少し悩んでから、そうですわね、と倒していた首を元に戻した。


「取り敢えず、寮内をぐるっと回ってみましょう。もしかしたらわたくしたちの他にも『こちら側』に来ている人がいるかも知れませんし」


「なるほど、分かりました!」


 ツクモも首を戻してぱっと表情をほころばせる。


 そして二人は、慎重に廊下を進み始めた。


  *


 男子寮と女子寮の最大の違い。それは、建物の数である。


 南寮と北寮の二つの建物から成る誠道寮とは異なり、女子寮である貞華寮の建物は一つ。それは所属する学生の数が、女子寮生が男子寮生の半分以下であるからだった。


 女子寮の建物は三階建てで、居室の数は違えど、備えられた施設は男子寮と大差は無い。一つ大きな違いがあるとすれば、男子寮は食堂とは別に神殿が設けられているのに対し、女子寮の神殿は食堂を兼ねているあたりであろうか。


 他に、規則だ何だで言えば門限だの当番制度など大きく異なる点もあるのだが、今の状況には取り敢えず関係の無い事である。


 何にせよ、カラハ達が玄関を目指したのに対し、ヒトミ達が寮内を回る事を選択したのは、ひとえに施設の物理的な広さが影響しているであろう事は間違い無かった。


「どうします、ヒトミねえさま。ここから上に上がりますか? それとも玄関の方まで行ってみます?」


 廊下の丁度真ん中辺り、談話室の手前の中央階段でツクモが振り返った。


 一つの階には二つ、階段があった。廊下のほぼ中央付近に設置された物と、玄関ホールを抜けてすぐに設置されている東階段である。


「ツクモちゃん、その狐火、どれくらいの距離を操作出来ます? 廊下の端まで可能ですの?」


 ヒトミの発した言葉に、成る程、といった様子でツクモが顔を輝かせた。


「詳しく試したことは無いんですけど、多分ここからあの端くらいまでなら大丈夫だと思いますっ。そうですね、火で照らせば無理に自分が動かなくてもいいですもんね、ヒトミねえさま凄い! 賢いです!」


「褒めすぎよ、ツクモちゃん。……あくまで簡易的にですけど、取り敢えずの確認にはなりますから。お願い出来る?」


「もっちろんです!」


 言うが早いか、ツクモは狐火を操り周囲を照らしながら、ゆっくりと光源を廊下の突き当たりまで移動させてゆく。


「……特に何も無さそうですわね」


「そうですね、見た限りでは何にも。……火、戻しますね。では上に行ってみます?」


「そうね、上がってみましょう」


 音の無い空間を、二人は注意深く登ってゆく。


 ──不意に、その静寂が破られた。


「だだだ誰か、誰かいない!? 助けて! たたた助けてえええ!」


 叫び声が遠くから響いた。パタパタと走るスリッパの音を伴って、誰かの助けを呼ぶ声が聞こえる。


「……っ! 誰か『こちら側』に居るのね!?」


「急ぎましょう、ヒトミねえさま!」


 二人は階段を駆け上がる。声の遠さからして、恐らく声の主は三階に居る筈だ。


 三階まで一気に昇りきり、廊下に飛び出した瞬間、誰かが走り寄って来るのが見えた。


「はわわわわ! 助けてええ! だだ、誰でもいいから! 助けてー!」


 眼鏡にロングヘアの少女がパタパタと、ヒトミに縋るように駆け寄って来たのだ。


「何がありましたの?」


 ヒトミの問いに、ぶるぶると震えながら眼鏡の少女は振り返り、自分が逃げて来た方向を指さした。


「ああああれ、あれがっ! 大きな、おおお大きな蛇が! へび、へびいいいっ!!」


 ツクモが狐火で照らし浮かび上がったのは、巨大な蛇の姿。


 のそり、と這いずる音を響かせながらゆっくりと姿を現すそれは、太さが人間の胴体程もある巨大なもの。


「あんなものが。一体、どこから……」


「こっ、ここコピー機使ってたら! 突然停電して! そそそそれで誰かいないか神殿を覗いたら、ああああれが居て! 眼が合ったら! 合ったら追い掛けてきてえええ!」


「事情は分かりましたわ。……危ないからあなたは少し、下がっていて。──ツクモちゃん、いけます?」


「大丈夫です、ヒトミねえさま! 準備バッチリです!」


 ツクモは既に霊気を発しながら狐火の数を増やしている。淡いオレンジの霊気と光が満ち、廊下を明るく照らし出す。


 ヒトミは頷くと、握った両の拳を揃えて突き出し、霊気を放ちながらゆっくりと、真横に開いてゆく。


 拳の間から真っ白な光が放たれる。それは細く長く光の千のように伸び──やがて握った手の中に現れたのは、白く輝く二振りの剣。


 純白の燐光を零すその剣は細く真っ直ぐに、まるで軍刀のサーベルのような形をしていた。紅い房飾りの付いた美しい装飾の剣を両手に構え、ヒトミは桜色の唇をほころばせ笑む。


「乙女の園を穢す狼藉、許せませんわ。その罪、命で償って下さいませね」


  *





一方その頃、て展開。やっと出ました、女子寮!


ツクモちゃんの能力は新歓コンパ編でちょろっと出ましたが、ヒトミさんは発ですね。

そう、サーベル(フェンシングのではなく英国の軍刀みたいな細い直刀)で二刀流なのです。まさかの前衛アタッカー。


さてさて、二つの寮で同じ現象が起き、同じような敵が。どうなっていくのか、今後の展開をご期待下さい。



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