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壊れる陣と、蛇の群れ


  *


 鎌首をもたげた蛇達に囲まれ、二人は背中合わせに周囲を見遣る。


「ヤベェな。あれが発動するまでには無理かも知ンねェ」


「出来るだけ僕が惹き付けるから、マシバ・カラハは隙が出来たら気にせず行ってくれ。それが今一番マシな方法だと思う」


「同意だ。すまねェが、頼まァ」


 返事の代わりに鳩座は腰を低くし、刀の柄を握り直し構えの姿勢を取る。それを確認しながら、カラハも己の武器を空中から呼び出そうとして、一瞬その手を止めた。


「ヤベ、狭すぎて槍じゃ役に立たねェ。ああ、刀とか苦手なんだがなァ」


 ぼやきながらカラハは空中に、いつもの長い直線ではなく短い孤を描いた。その三日月の如き軌跡は黒い炎を上げて燃え上がり、カラハがその一端を掴むと炎を纏った曲刀が姿を現した。


「うっし、サクサクいくぜェッ!」


「──参るっ!」


 カラハと鳩座が気炎を発すると同時、蛇達も一斉に襲い掛かる。


 黒い蛇は大きく口を開け、飛び上がってから空中を滑るように迫り来る。その紅い口内には二本の大きな牙が、そこだけ輝いているかのように白く浮き上がって見えた。よく見ると牙の表面には黒い液体が筋となって伝い、先端からそれが雫となって飛び散っている。


「こいつら毒持ってンぜ、気ィ着けろッ!」


「触れられなければ、どうという事は無いっ!」


 鳩座の紅い斬撃が飛ぶ。それは眼前に迫った蛇の身体を縦に真っ二つに貫いた。自分が斬られた事に気付かない蛇がいよいよ鳩座に噛み付こうとした瞬間、その蛇の身体は二つに分かれ、瞬時に光の粒子となって消えて行った。


 危なげなく最初の蛇を倒した鳩座は、気を緩める事無く二匹目、三匹目と着実に斬撃を当て、敵の数を減らしてゆく。


 カラハもまた鳩座に負けじと曲刀を振るう。逆手に剣を握る右腕に左手を添えた奇妙な構えで、炎纏う剣を大きく振り上げて踊るように蛇を斬り裂いてゆく。その刃を受けた蛇は黒い炎に灼かれ、身悶えながら息絶えて光と化し消えてゆく。


 そうして蛇の数が半分程に減った時、鳩座が斬撃を飛ばしながらカラハに叫んだ。


「後は引き受ける。行け、マシバ・カラハっ!」


「おうよ、そいつらは任せたッ!」


 叫びながら、正面から飛び掛かって来た蛇を切り伏せて、勢いそのままにカラハは走った。邪魔をする敵はもうおらず、目の前にホワイトボードで輝く術式が見える。


 発動までの猶予はあと幾らも残ってはいないだろう。カラハは強く床を蹴って跳躍すると、ホワイトボード目掛けて曲刀を斬り下ろした。


 ──ビキン。


 カラハの霊気による斬撃が到達した瞬間、小さく、何かが割れるような音が響いた。


「──やったか……!?」


 床に膝を突いて着地したカラハがホワイトボードを振り仰いだ。そこには光を帯びていた術式陣に罅が入り、まるでそれが硝子ででも出来ていたかのように細かく砕け、光の粒子を零しながら壊れていく幻想的な光景が繰り広げられていた。


 大きく息をつきカラハが立ち上がると、ゆっくりと鳩座が近付いて来た。どうやら無事、蛇を全部片付けられたようだ。


「お疲れさん。お陰で発動は阻止出来たみてェだ」


「お疲れ様。こっちも片付いたし、後は……」


 言いながら鳩座がぐるり周囲を見渡した。


 眼前の脅威は片付けたものの、未だ世界は闇に包まれていた。どうやら解決はまだ先のようだ。


 二人は顔を見合わせると肩を竦めた。


「では、玄関にでも行ってみようか」


 鳩座の言葉にカラハも頷き、二人は慎重に歩みを進めた。


  *


 ホワイトボードの設置してある場所から、玄関は直ぐそこだ。二人は曲がり角からそっと顔を出し、玄関ホールの様子を伺う。


 とは言えかなりドタバタと暴れていたし声も上げていたので、今更という気もしないでもないが。


二人が覗いた先、玄関ホールには誰の姿も無かった。広い空間は他と同様にやはり黒い闇に閉ざされ、外に通じている筈の硝子扉の向こうも見渡せないままだ。


「……どうするよ?」


 何も無いと判断してそろそろとホールに出た二人は、手掛かりを探して闇の中を探ってはみるものの、何も見付けられないでいた。気が長いとは言えないカラハが音を上げ、苛立たしげに硝子扉を叩く。


「どうすると言っても、このままじゃどうしようも無いしね。他に何か鍵になりそうな場所はあるかな」


「玄関が駄目なら、そうだなァ、後は食堂とか神殿とかぐらいじゃね?」


「だったら行ってみるしか無さそうだね。取り敢えず何かありそうな神殿から行ってみようか」


 開き直ったのか、どこかわくわくとした様子の鳩座の発言に、げんなりしながらもカラハも従わざるをえない。


 二人は警戒しながらも階段を登り、南寮三階にある神殿へとやって来た。


 神殿は畳張りの大きな部屋である。部屋の前面には立派な神棚が設置され、普段ならば清廉な空気が満ちている場所だ。


 ところが、今その場所には招かれざる客の姿があった。


「──ビンゴ、だな」


 こっそりと覗くカラハが呟いた。同じく部屋の中を覗き込んでいた鳩座も頷く。


 そこには一匹の巨大な、胴体の太さが人間の胴ほどもある蛇が、大きくとぐろを巻いて部屋の中央に鎮座していたのであった。


  *





鳩座君、戦闘能力は高いんですよね。流石居合道部の次期エース。

そしてカラハの新たな武器。廊下みたいな狭いトコで槍振り回すのは無理って事で。炎纏う曲刀です。

章の初っ端からガンガン戦闘やって、ジャンル:アクション の面目躍如です。

取り敢えず謎が解けないまま戦ってるんで、サクサクいきますです。サクサク。



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― 新着の感想 ―
[一言] 炎纏う曲刀! かっこいいですね。
[一言] 再開、そして二部開始ありがとうございますと読んでおります。 序章で度肝をぬかれて一部へ引っ張られたように、戦いから始まっていく二部は、ぐいぐいと引き込まれます。 何もわからず敵があれば倒す、…
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