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咲け神風のアインヘリア:皇国の防人達よ異界の声を聞け  作者: 神宅 真言
第一章:不機嫌続きのバースディ
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透明な膜と、紅い霧



どうもお久しぶりの更新です。お待たせしてしまい申し訳ありません。

ちょっとお休みを頂いておりましたが、だいぶ調子も出て着たので、そろそろと再開です。




  *


 そして最初に動いたのはやはりカラハだった。


 鈍い銀のコートを翻し大きく跳躍すると一気にコカトリスとの距離を詰め、カラハはその巨体に向かって大胆に槍を振りかぶった。三つ叉の槍の真ん中の刃、両刃の剣の如く突き出したその切っ先に凝った霊力が集中し、強く光を放ち始める。


「まずは──小手調べ、ッてなァ!」


 叫びながら着地と共に振り下ろされた槍から、黒銀の光が迸る。槍の軌跡そのままに描かれた三日月の如き霊気の刃が、クリーチャーの胴体を傷付けるべく駆け抜けた。


 ──ヒギャアン!


 奇妙な音が周囲に響いた。震える空気が圧となって通り過ぎ、顔を上げたカラハの帽子のつばをはためかせ髪の裾を容赦無く乱してゆく。


「おいおい、こりゃア」


 その光景を目の当たりにしたカラハが口許を歪める。


 霊気で出来たカラハの斬撃はコカトリスに到達する瞬間、怪物の身体の周囲に張られた膜によって防がれたのだ。それもただ壁のように弾かれたのではなく、分厚いゼリー状のシートにくしゃりと包まれるかのように取り込まれたのだ。先程響いた奇妙な音は、膜がグシャアと歪む際に立てたものらしい。


「これ、霊力とかの防壁とかじゃないっぽいっすよね。何か別のやつ、もっと特殊な術みたいな……?」


 空中に浮かぶライジンが何度も眼を瞬かせながら呟くと、それに応えるようにナユタもスコープから目を離さぬままに言葉を述べた。その現象を拡大機越しに観察していたナユタは、確証は無いものの思い当たるものがあるらしい。


「もしかしたらだけど。次元障壁っていうのかな、一枚薄い膜状に別の次元を張って自分の所にまで攻撃を届かなくするやつ、そういう感じなのかも」


「そいつァ──厄介だなァ!」


 ナユタの言葉を受け、槍を構え直したカラハが再び鈍い光を振りかぶる。続けざまに二発、斬撃を飛ばしてみるものの先程と同様、敵の本体にダメージが届く様子は無い。


「やっぱ無理か。なら次は物理で試してみるしかねェな」


 また一歩、地を揺るがせながら近付くコカトリスを見上げながら、カラハは脚に霊気を集中させる。革のブーツが鈍く光り始め、カラハは再び大きな跳躍を試みた。


「こいつなら──どうだッ!?」


 足型が着く程に強く床を蹴り跳躍したカラハは、空を滑るように孤を描き、そのまま巨大な怪物の右翼の付け根目掛けて逆手に持ち直した槍を突き出した。鋭利な切っ先はコカトリスの周囲に張られているらしき膜を波紋を立てて突き破り、そのまま勢いと体重を乗せて羽毛に覆われた身体に突き刺さる。


「ギョア? ……ギョエァアアアアァアア!?」


 一瞬の後に怪物がけたたましい悲鳴を上げた。


「思った通りだ、強引にブチ抜いてやりゃア届くってなァ!」


 カラハが笑いながら痛みに暴れるコカトリスの胴体を蹴り、深々と刺さった槍を勢い良く引き抜いた。傷口から噴き出す黒ずんだ血を避けるように怪物を足場にして強く飛びすさる。


 怒った蛇がカラハを追いすがり攻撃を加えようとその身を鞭のようにしならせるが、カラハは電柱程もある太さの蛇を槍の柄を使って受け流し、ひらりと距離を取って着地した。


「──物理は効くんだ」


 その様子を眺めていたイズミがぼそり呟いた。その身体は極限まで霊力を練り上げて陽炎の如く輪郭を揺らめかせ、瞳はまるで熱せられた炭じみて明るく輝き、薄ら光を漏らしている。そして何かを期待するかのように口許を綻ばせ、楽しそうに、心底楽しそうに笑っていた。


「イズミ先輩。あなたの出番はまだですよ」


「……分かってる。メガネ君が先って分かってる。けど私も早くアレをぶちのめしたい」


「はい、もう少しの辛抱ですから。それと僕はメガネ君じゃなくてアラタ・ナユタです」


 高揚する気分に水を差されたと感じたのか、イズミはナユタの言葉に少し頬を膨らませた。彼女の感じた通り釘を刺す意図で声を掛けたナユタはそんな先輩の仕草に肩をすくめると、再び戦闘の様子に神経を集中させる。


 果敢に本体への攻撃を続けていたカラハは何度も蛇に行動を阻まれ、先にそちらをどうにかすべく蛇に攻撃を仕掛けていた。太さが電柱程もある蛇は鋭く大きな牙と鞭のような体当たりで応戦するがしかし、カラハは上手くかわしながら確実にダメージを与え続け、既に蛇の片眼は潰れ身体は傷だらけになっていた。


 一方ライジンは何も手を出せず、空中でただ成り行きを見守っていた。ライジンの主な武器は錫杖に霊気の刃を生やした霊槍であり、先にカラハによって物理的な武器を伴わない霊的な攻撃が効かないと証明された今、彼に攻撃の手立ては無かったのだ。


 ライジンは歯噛みしつつも、冷静に戦況を俯瞰する。このまま蛇を仕留め、バズーカをぶっ放して済むならば確かにそれに越した事は無い。


 しかしそんな簡単にいくだろうか、そもそも何かを忘れてはいないだろうか? 頭の中で膨らむ違和感が、ヒントを掴むべく過去の記憶を手当たり次第に引き摺り出す。──確か、あれは……。


 瞬間、弾かれたようにライジンは声を上げた。そう、すっかりと忘れていた。何故自分はこんな重要な事をすぐに思い出せなかったのかと拳を握り、苛立ちの成せるままに空を蹴る。


「皆、気を付けるっす! コカトリスには──」


 刹那、ライジンの叫びはキュオオオォオオという奇妙な音に掻き消された。見ると巨大な雄鶏の嘴が大きく開かれ、深呼吸をするかの如く胸がぐっと反らされているのだ。音の正体はその大きな嘴が目一杯空気を吸い込む際に立てられた、しなやかな喉の筋肉が奏でる音。


「カラハっ、危ない!」


 雄鶏の立てる超音波じみた音が止んだ。瞬間、ナユタの叫びが駆けた。


 カラハが力強い斬撃で、蛇の首を落としたと同時。──雄鶏が、思い切り首を突き出し赤黒い霧を吐いた。


 ゴウ、と嵐めいた空気の奔流が渦を巻く。槍を振り下ろした姿勢のまま、カラハは霧の渦に飲み込まれてゆく。


「カラハッ!」


 ライジンが大きく翼を羽ばたかせ、風を起こした。さながらそれは金色の竜巻。冷気を伴った力強い風が、とぐろを巻き塊となって、赤黒い霧を押し戻してゆく。


「──破ッ!」


 胸の前で手を組み、ライジンが大きく雄叫びを上げた。全身から噴出した古美金の燐光が、一層濃く強い風邪を起こす。あたかもその圧は濁流の如く、毒々しい紅い空気を全て跡形も無く、文字通りに霧散させ、コカトリス本体をも怯ませ後退らせた。


「──っ!」


 風が静まり視界が開けた時、その光景にナユタが息を飲んだ。


 そこには、槍を振り下ろしたままのカラハの、躍動感溢れる姿。それが光沢の無い灰色の彫像となって、まるで芸術品のように、ぽつんと存在していたのだ。


 ──そう、カラハはコカトリスの吐いた霧によって、石化されていた。


  *





戦闘シーン突入!

んでいきなりカラハ石化でピンチ!?

これからガンガン更新していく予定ですので、皆様応援よろしくお願いしますです!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ちに待っていた更新です! 待ったかいがあったほどに、戦闘シーンが大きくて勢いがあって、残虐だ! 戦闘での動きでできた空気が流れる感覚が見えるようで、これって凄いなって思います。 [一言]…
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