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咲け神風のアインヘリア:皇国の防人達よ異界の声を聞け  作者: 神宅 真言
第一章:不機嫌続きのバースディ
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金色鴉と、浮かぶドア


  *


 ライジンが翼を羽ばたかせると茶金の煌めきがあたかも羽毛の如く散り、ふわりその身体は高く舞い上がった。


 その翼はとても大きく、今までナユタやカラハが見たことのあるどの鳥のあやかしよりも堂々と力強い。本来は闇に溶ける漆黒の色は今は燐光を帯び、ラメを乗せたかのように重厚な古美金に染まる。


 艶やかな黒地に金の刺繍の入った戦闘装束は和洋折衷めいた不思議なデザインをしており、基本は乗馬服めいていながら袖や襟などに和服のテイストが盛り込まれていた。袖から流れるたもとは優雅に空を切り、腰から伸びる上着の裾が尾羽のように長く靡いた。


「でも本当に一人で大丈夫なのか? 危なくねェか。もし見張りが居たら──」


 心配げにカラハは声を漏らすが、そんなカラハのコートの袖がくいくいと軽く引かれる。不思議に思ってそちらに目を遣ると、自信ありげな表情でイズミが袖を握っていた。


「あのね、ライジンはね」


 空を見上げるイズミの口から一所懸命な言葉が零れる。その黒い瞳はライジンの羽毛の煌めきを映し、星空のように輝いている。


「小さい時はずっと弱くて術もろくに使えなくて、私が護ってやってたんだ。でもいつの間にか背も伸びておっきくなって、今は鴉の里の中で誰よりも大きな翼を持ってる。誰も追い付けないぐらい速く飛べて、誰よりもたくさんの霊力を使えるんだ。だからライジンを信用してくれ、ナッツの人」


「……あァ、分かったっスよイズミ先輩。ちなみに俺の名前はマシバ・カラハなんスけどねェ」


 ナッツの人呼ばわりに釈然としない物を感じつつも、カラハは取り敢えず気にしないことにした。それよりも今は陣をどうにかするのが先だ。ライジンが二号館の屋上に近付くのを目で追いながら、カラハはナユタに話し掛ける。


「屋上ってどっかから昇れたっけか? 中から通じる階段って無かったよなァ?」


「確か無いね。四号館や教授棟にも屋上に出られる扉は無かったように思うから、昇りたいなら外からしか駄目かな」


「渡り廊下のトコからよじ登るのが一番手っ取り早えェかなァ……見張りが居るかとか陣がどうなってるか次第だな」


 ナユタの答えを聞いてカラハは更に唸った。場所が分かったところで辿り着けないのでは手の出しようが無い。


 そうこうしている内に屋上の様子を確認したライジンが降りてきた。その顔には緊張が走り、心なしか落ち着かなげな様子だ。


「どうでした、先輩」


 ナユタの問いにライジンは首を振った。横目で屋上を見遣りながらも言葉を紡ぐ。


「見張りなんかは全然居なかったけど、それは多分もうすぐ術が発動するからかなって。光が強くなって扉っぽい形がもう出来てるんだ」


「マズいな。陣を壊したりして停めらンねェのか」


「そこまで進んでたなら無理だろうね、暴走しかねないよ。一旦扉が開いて術が完成した後に閉めるのが一番無難なやり方かな」


 その時、皆の言葉を黙って聞いていたイズミが顔を上げる。


「ゴチャゴチャうるさい。まずは上に行こう、何するにしても行かなきゃどうにもならない」


 言い切るイズミの声に、皆は黙って頷き合った。


  *


 結局、イズミはライジンが直接屋上まで背に乗せて運び、ナユタとカラハは外階段で三階の渡り廊下まで登ってからライジンに引き上げて貰う、という方法で事無きを得た。


 ライジンの飛翔には見た目以上に安定感があった。それは翼の大きさだけによるものではなく、普段のチャラい外見に反してかなりの鍛錬を積んでいるだろう事を伺わせるものだ。


 そして四人全員が無事、屋上に至る。──その異様な光景を目にした四人は、皆それぞれに表情を曇らせた。


「これは……凄いな」


 ナユタは驚きに顔を引きつらせる。思ったよりも広い屋上の上、その床一面に血のような紅い塗料で複雑奇怪な陣が描かれていた。紋様や線は濃赤に光り、妖しい力に満ち満ちている。


「あのデケェの、あれが扉ってか!」


 カラハの指さした先に浮かぶのは、陣と同じ紅い光で空間に映し出された一枚のドアだ。それは陣の真ん中でワイヤーフレームで描き出されたように存在し、その線は脈打つかのように明滅を繰り返している。闇に描かれ比較する物も無いが故に正確な大きさは測れないが、少なく見積もっても扉の長辺は恐らく五メートルを優に越しているだろう。


「あれが開いたら何が出て来るんすかね」


 顔をしかめたライジンの呟きに、イズミが静かに応えた。


「何が出て来ても、私がぶっ飛ばす」


「いやそれはちょっと短絡的っすよイズミちゃん先輩」


「ライジンはうるさいな。あれがどこに繋がってたってどうせろくでもない物が出て来るに決まってる」


「そりゃア間違い無ェな」


 カラハがイズミの言葉に同意してニヤリ笑むと、イズミも同士を得たと言わんばかりに特異顔でアピールした。そんな二人にナユタとライジンは顔を見合わせて溜息を零し、しかし彼らの言う事にも一理有ると肩をすくめた、その時。


『──こちら司令代行、タカサキです。皆さん気を付けて下さい。異様なエネルギーの高まりを感じます、警戒を最大限に。迎撃態勢を整えて下さい』


 寮生長からの通信に、全員に緊張が走った。


 最初に動いたのはカラハだった。よどみない手付きで空中に描いた線から三つ叉の槍を実体化させると、残りの三人を護るように全身から霊気を放出しつつ一歩前に進み出る。


「ナユタ、一番デケェ奴出せよ。あんなバカみてェなドアから出て来る奴だ、きっとバカみてェにデケェかバカみてェに大量かのどっちかだぜ」


「バカバカ言い過ぎだよ、馬鹿」


 カラハの言葉に苦笑で返しながら、ナユタも自らの武器を取り出すべく大きく浄衣の袖を振る。ゴトリ、とそれまでとは明らかに違う重い金属音にカラハが思わず振り返ると、ナユタは巨大な筒を抱え、片膝を突いたところだった。


「……お前、ホンっトにイカれてんな」


「デカいの出せって言ったの、君だろ?」


 ナユタはニヤリ笑むと、慣れた手付きで長大な砲のセッティングを続ける。筒全体にびっしりと紋様や術式が刻まれた真鍮色の砲身は余りにも凶悪で、装束のまま低い姿勢で設置を続けるナユタの姿に、カラハは牙を鳴らして楽しそうに笑った。


  *





ライジン先輩は元寮生ですが、三回生だし国史学科だしで普段はラフでオサレなチャラい格好してます。

イズミちゃん先輩は神道学科なのでいつも黒スーツです。本人としてはスーツの方が考えなくていいから楽なのだとか。でもちっこいので一回生によく間違われます。


今回ナユタが取り出したのはいわゆるバズーカ砲的なやつですね。流石に担いで撃つとかは無理なので、地面にスタンド立てて使います。





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― 新着の感想 ―
[一言] 十九話からの展開にただただ驚きと圧倒を受け、そして、一気に追いつきました。 陰陽師スタイルでロケランにバズーカは、そしてライフルと、完全にナユタに魅せられてしまいました。 ナユタとカラハの掛…
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