リス系女子と、金の羽根
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ナユタがたまたま持っていたチョコレートを渡すとイズミは無事目を覚まし、もきゅもきゅと幸せそうにチョコを頬張っている。まるでリスみたいだ、と他の三人全員が思ったが、敢えて口に出す者は誰もいなかった。
「ええ、コホン。じゃあ改めて。先輩方はどこまで情報聞いてますか?」
咳払いをして話し始めるナユタに、ライジンが腕組みをしながら答える。
「一回生が誘拐されたってのと、鳥のあやかしが、ってのは聞いたっけ。目的が大規模な術っぽいっては言ってたけど、何か分かった?」
「誘拐の件は横に置いといて貰って大丈夫です。今はその大規模な術用の陣を探してるんですが、見付からなくて。どうやら異界との次元を繋げてしまうゲートを作る術らしいんですけど」
「うわ、何それヤバいじゃん! でもそんな大掛かりなやつなら、エネルギー量感知で引っ掛かってきそうだけど……」
「それが駄目なんですよ。時間をかけてゆっくり作動するよう巧妙に練られてて、いざ起動の最終段階に入るまで感知出来ないようになってるって。敵さんに自慢されました」
そりゃ参ったね、と呟くライジンにナユタは頷き、食べ終わってまた眠そうにしているイズミを見る。隣で煙草を吸っているカラハとの身長差は五十センチ近くで、どっちが先輩なのか分からない画になっている。
カラハは煙草を携帯灰皿で丁寧に揉み消すと、パチンと蓋を閉じてポケットに仕舞った。そのままゴソゴソとポケットを探ると、出て来たミックスナッツの小袋をイズミにそっと差し出した。イズミは嬉しそうな顔で受け取ると、急いで袋を開けてポリポリと食べ始める。
ますますもってリスのようで、三人は微妙な笑みを浮かべるも、本人には一切気付く様子は無い。
「しかしなァ。こンだけ探しても無いとなると、考え方を変えねェといけねェな。……例えばだなァ、思ってるよりとても小っせェだとか」
「そうだね。ううん例えば、逆にとても大きくて気付いてないだとか?」
「地中に埋められてるだとかなァ」
カラハとナユタの遣り取りに、ライジンもポンと手を打つ。
「門だけに壁ってのもアリかもよ? それこそマジ扉っぽいし」
「ああ、それそれ、そういう感じ有り得ますよねえ」
頷いたナユタの横で、それを聞いたカラハは急に口許を押さえ黙り込んだ。
「……なァ。探索用の式神って、どれぐらいの場所を飛ぶんだ? どンぐらいの高さ飛べるんだ?」
カラハの疑問に、ナユタとライジンの二人は顔を見合わせてから、うーんと背伸びして手を空に翳した。
「低い時はこれくらい、二メートルぐらいの高さかな」
「んで、高くても五メートル程度っしょ。それくらいあれば大抵の木とか越えられるし」
二人の答えに、意外と低いな、と呟いてからカラハは声を上げる。
「いやな、相手は鳥、鳥なんだわ。鳥だけにもっと高いトコ──」
「……屋上か!」
ハッと叫んだライジンに、ナユタも息を飲んだ。カラハは深く頷いてから、ぐるり周囲を見渡した。
「多分一番高いトコに作るだろうなァ。蔵多山で一番高いトコっつったら──」
それは建物の高さだけでは無い。まさに山の一番上、一番高い場所にある建物──。
「二号館か四号館のどっちかじゃん!」
ライジンの声にカラハはニィっと笑うと、バイクにまたがってエンジンを掛けた。ナユタも慌ててそれに飛び乗る。ライジンはイズミの手を掴むと、行くよ、と強く囁いた。
「カラハ、でも間違ってたら?」
少し不安の残るナユタの言葉に、カラハは笑いながら高らかに言う。
「他に目ぼしいアイデアも無ェんだし、どうせ術が発動したら嫌でも分かるこったしなァ! 間違ってたらそン時ャそン時だろォ!?」
そして笑いながら大學の中央広場にバイクを滑り込ませた。静まり返った暗闇の中、薄らと、微かな光が二号館の屋上に立ち昇っているのが確認出来る。
「ビンゴだなァ」
愛機から下りたカラハが空を見上げると、ナユタも隣に並んだ。紅い光は闇に溶ける程に弱く、知っていなければ決して気付かないレベルだ。
小走りで追い付いてきたライジンとイズミも二人に並ぶ。ライジンは屋上から感じる光を確認すると、二人の方にイズミを押し出し、自分は一歩後ろに下がった。
「イズミちゃん先輩を頼むよ。──俺っちが見てくる」
「見てくるったって、どうやって」
ライジンの言葉にカラハが驚くが、ナユタがその疑問に何故か自慢げに答えた。
「どうやっても何も、ライジン先輩は──」
ライジンの全身が霊気の放出により金茶の光に覆われる。粒子が舞い装束を形作り、そして背中に膨大な霊力が集まってゆく。
「──鴉天狗だからね」
燐光が一気に弾けた。
粒子の残滓が舞う中で濃い金色に瞳を輝かせるライジンの背中には、大きな、とても大きな一対の翼が出現したのだった。
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少し短いですが、今話はここまで。
次から先輩達も大活躍(の予定)。
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