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咲け神風のアインヘリア:皇国の防人達よ異界の声を聞け  作者: 神宅 真言
第一章:不機嫌続きのバースディ
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見えぬ刀と、狙撃銃


  *


 瑠璃子は軽く地を蹴って宙に浮かび上がると、ふわり羽ばたいて暗い空へと舞い上がる。そしてカラハの手の届かない高い場所から、馬鹿っ!、と今度は力一杯叫んだのだった。


「おーお、フられちまった」


 カラハは自分からプイと目を逸らし優雅に飛ぶ瑠璃子に肩をすくめると、今度は離れた場所から遣り取りを見守っていた鳩座に視線を向けた。彼は緊張を緩める事無く、静かに気を練りながらそこに佇んでいる。障害という意味では、こちらが恐らく──本命だ。


「お姫さんは戦意喪失ってトコらしいが──アンタはどうする?」


 軽い口調にも動じず、鳩座は静かにカラハを睨んだ。その視線を真っ正面から受け止めて、カラハが笑った、その瞬間。


 ギィン。


 カラハの喉許で、鈍銀の火花が散った。


「……あっぶねェ」


 何が起きたのか、カラハには一瞬分からなかった。攻撃を受け、それが霊気の護りにより自動的に防がれたのだと理解したのは、一拍の後。


 鳩座の姿を再度観察すると、腰に細い剣を佩いているのがチラリと見えた。抜いたところは見えなかった。しかも距離はかなり離れている、およそ刃物の届く間合いでは無い。カラハの槍ですら届かぬ程の位置。


「居合いか。しかも斬激破をこんな遠くまで正確に飛ばすってのはナカナカのモンだなァ?」


 す、とカラハの目が細まる。瞬間また、ギィン、と喉許に燐光が散る。微かに紅い軌跡が視えたものの、まだ捉えるには至らない。


 ギィン。三たび、鈍銀が散る。三度とも全く同じ音。なのにカラハには抜いた剣が視えない。カラハの顔に僅かな焦りが浮かぶ。


「寮の中に術士がいると聞いていたけれど、話が少し違うな」


 不意に鳩座が口を開いた。表情は相変わらず読めないままで、しかしカラハはその言葉に残念がるニュアンスを感じて片眉を上げた。


「違うって、どういう風にだ?」


「静かに身を潜め、多彩な符を操り、繊細な術で相手を翻弄する。──少なくとも君みたいなこれ見よがしに圧倒的力で押し切るパワータイプとは違う」


「へェ。それじゃア俺が脳筋みたいじゃねェか」


「そうは言わないが、……僕が楽しみにしていた術士と別人なのは確かだ」


 そして言葉と同時、またギィンと火花が散った。


「いつまで続けるつもりだ」


「君の護りが擦り切れて、僕の刃が届くまで」


 そしてまた鳴った鈍銀に、カラハは表情を崩さない。


「やってみろよ。俺の護りはそんな薄かねェぜ」


 同じ調子、同じ音色。同じ強さで打ち込まれ続ける刃に、カラハはただ微動だにしない。カラハはただ待っていた、その時が来るのを。


 但しそれは賭けであった。自分の護りが削りきられるのが先か、それとも──。


 鳩座は無言で紅い刃を迸らせる。十数回を数えたろうか、──その瞬間は訪れた。


 タンッ!


 軽い発砲音が暗闇に響いた。細い細い閃光が駆け、鳩座の右手から伸びた紅い剣を、正確に撃ち、弾き飛ばした。


「──ッ!?」


 鳩座の手から離れた刀が跳ね上げられくるくると宙を舞う。刹那、カラハは燐光を散らしながら強く地を蹴り高く跳躍すると、鳩座の剣を空中で受け止め、そのままの勢いで一気に鳩座に飛び付き胸倉を掴んで引き摺り下ろす。


「おりゃあァああああッ!」


「な──」


 ダンッ、とそのまま倒れ込むように地面に鳩座を押し倒し、カラハは鳩座の喉許に抜き身の刀を突き付けた。鳩座の顔が悔しげに歪み、馬乗りのカラハを睨み付ける。


「もう一人、居たなんて」


「あァ、あっちがお前が逢いたがってた奴だぜ、きっと。──おいナユタ、ご指名だ」


 途端、グラウンドを見下ろす道の上、ガードレールの向こうの影から、がさりナユタが姿を現した。パンパンと装束の汚れを払いながら立ち上がり、ライフルを担いで眼鏡の位置を直す。


「鳩座君、……久し振り」


「ああ、アラタ・ナユタ──君だったのか」


 全然気付かなかったな、と鳩座は力無く笑った。


 せっかく絶好のタイミングで姿を現したにもかかわらず、格好良く道からひらり飛び降りて──などという真似はナユタには出来ない。てくてくとぐるり道を回ってグラウンドへ降りてくる。


 少し間抜けにも見えるその姿にも、鳩座は思うところがあるのか、いささか疲れたような瞳でずっと見詰めていた。


「それにしても、俺にすら視えねェ刀を一撃で弾き飛ばしちまうたァな。てっきり手とか脚あたり撃って無力化すンのかと思ってたぜ」


「出来るだけ怪我させたくなかったからさ」


「外したら居るのバレちまうってのに、よくもまあ」


「成功したからいいじゃないか」


 鳩座は二人の喧嘩腰の遣り取りを呆然と眺め、やがて力無く笑った。


 一発であんな高難度の的に当てる方も当てる方なら、それを信じて自分の首を晒して待つ方も待つ方だ。これは、こんな二人には──敵う訳が無い。


「すまない、降参だ。もう攻撃の意思は無いから、その、一旦退いて貰ってもいいかな」


 そして鳩座は喉許に刃を突き付けられたまま、お手上げとばかりに両手の平を開き、顔の左右に並べたのであった。


  *





思ったより鳩座君は癖の在る人物のようです。

ちなみに居合道部員。目立たないけれど地道に努力を続けて、見る目のある先輩から信頼を勝ち取るタイプ。



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