唸るバイクと、鳥の群れ
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バイクに乗っての戦闘に突入です。
よろしければBGMは、この作品においてのカラハのイメージ曲の
小林太郎氏の『IGNITE』をどうぞ。
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「鳥ッつうか、──ハーピー?」
「だけじゃないね。色んなのが混じってるみたいだ」
不気味な翼の音を響かせる集団は、ただの鳥の群れではなさそうだった。人間の顔が付いたもの、腕と下半身が鳥の人型、翼の生えた人間──他にも様々なパターンの鳥系のあやかし達の集団が、鳴き声や雄叫びを上げながら近付いてくるのが見える。
「……ホントにバイク乗ったまま戦うの?」
「司令代行様がその方がイイってンだ。とにかくやってみようぜ?」
単車に乗ったままの戦闘と言うのは寮生長が決めた事であった。捜索範囲が広いこと、敵側のあやかしが鳥関係ばかりなこと、更にカラハ自身もソロ活動時にバイクを使用していたことなどを踏まえ、決定に至った。
「自信無いなあ」
「足も無しにあンだけの鳥さんに囲まれてみろ。格好の的だ、一瞬で御陀仏だぜ?」
「解ってるよ。努力してみる」
「その意気だ」
軽口を叩きながらも視線は鋭く、カラハは周囲を見渡しつつ頭にこの辺りの地形を思い描く。寮生長は暴れても構わないと言っていたが、このまま戦った場合の周辺への被害は、などと考えていると、ナユタの声が背中に響く。
「カラハ、結界の外側には何があっても影響は無いし、結界の内側も一般の建物には被害が及ばないようになってるから大丈夫だよ」
「そうか。ならこのまま行くぞ、準備しろィ」
「……わかった」
考えるのをやめたカラハが革手袋を填めた左手をすいと真横に伸ばした。燐光を放つ手の平がおもむろに空間を掴むと、その手には鈍色の光の尾を引きながら三つ叉の槍が出現する。
それを見て腹を括ったのか、ナユタは左手で蛇の鎖に掴まりながら身を起こした。靡かせていた狩衣の袖を大きく振ると、鈍い金属音が響き真鍮色の銃器が現れた。ガシャりと重そうな音が風を割る。
「リボルバー、マシンガンときて、次は何ブッ放すつもりだァ?」
「ロケットランチャー、って言ったら笑う?」
「ヒャッハァ! やっぱお前イカレてンぜ!」
カラハが嬉しそうに歓声とスピードを上げると、ナユタもまた満更でも無さそうに笑う。上手くバランスを取りながら凶器を肩に担ぐ姿に、だから大丈夫って言ったろ、とカラハはほくそ笑んだ。
その時、耳許で落ち着いた声が二人に届く。寮生長からの連絡のようだ。その声は心なしかいつもよりも興奮しているようにも聞こえる。
『こちら司令代行。敵さんは三十体ほどのようです。距離およそ五百メートル。見る限り武器などは確認出来ません』
「パパ、周辺に他の敵影は?」
『今のところ目立つ敵さんはその団体客のみですね。あっと、妖気の高まりが確認出来ます。恐らく術を使ってくるでしょうから、気を付けて下さい』
「ラジャー! ご忠告痛み入るぜッ、司令代行様よォ!」
『健闘を祈ります。では!』
通信が終わると同時、鳥たちの先頭の数羽が空中に術式を描くさまが視えた。宮元の纏っていたのに似た血色の燐光、昏い炎の線が紋様を浮かび上がらせる。
「来るぞッ! 俺が防ぐからお前は即反撃に移れッ!」
「解った!」
陣が強く輝き、紅い焔の矢がカラハたち目掛けて十数本、緩いアーチを描いて飛来する。
カラハ一人ならば運転技術だけで避けるところだが、今はナユタを乗せている。大型銃器を構え不安定な体勢のナユタを庇うべく、カラハは槍を大きく前に突き出した。
「──ッ!」
カラハは声にならぬ気炎を吐き、斜め上空に構えた槍を左手だけで強く回転させ始める。綺麗に円を描く槍は鈍銀色を散らしながら、渦のように車輪のように鈍色の輪を形作り、そして竜巻の如く空間が巨大な戦輪となる。
焔の矢が届く瞬間、カラハは槍を引き抜き、強く竜巻の戦輪を打った。
円状の嵐は焔の矢を渦に巻き込み、その呪力を飲み込みながら、勢いをもって鳥の群へと向かってゆく。このような形で反撃されるとは思ってもみなかったのか、鳥たちは慌てながら即席の防御壁を張った。
「今だッ!」
刹那、雷鳴の如き轟音が響く。
ナユタの構えた凶悪な銃器から放たれた何筋もの光が、それぞれに自由な捻じ曲がった軌道を描きながら、あやかし目掛けて翔けてゆく。その道筋は開き、閉じ、絡まり、解れ、二十余りの術式弾が生き物の如くうねりながら夜空を灼く。
「──!?」
カラハの円嵐を防いだ直後の追撃に、鳥たちは驚嘆の鳴き声を上げる。四方八方から襲い掛かる術式を載せた光弾に、彼らは悲鳴を上げるしかなす術が無い。
「──着弾、術式解放!」
ナユタの合図と共に、闇夜に光の花が咲いた。
光弾が敵に到達すると同時、それぞれに仕込まれた式が発動したのだ。燃える鉄片が撒き散らされ、浄化の閃光が瞳を潰し、数多のつぶてが身体を抉り、氷の結晶が自由を奪い、幾重もの爆発が翼を吹き飛ばし、真空の刃が皮膚を切り裂き、走る稲妻が肉を灼く。
次々と墜ち、または消滅してゆく鳥のあやかしたちの様子に、ナユタは安堵の溜息を漏らした。撃ち終わったランチャーの蓋を閉じロックを掛けると袖に放り込み、代わりに大きめのショットガンを取りだす。
「ありゃ、もうアレ撃たねェの?」
「コンテナ換えるの片手じゃ無理だから。だいぶ数は減らせたしね」
連発の花火めいた攻撃が収まると、残る敵の姿が鮮明に浮かび上がった。半分以上が消滅或いは脱落しており、未だ戦おうと距離を詰めてくる者も怪我を負った状態が殆どだ。
「後は殲滅するのみだなァ」
「出来れば情報引き出したかったけど、あれじゃ無理かな」
「期待はしねェ方が良さそうだな」
高度を落とし迫ってくる鳥たちを確認しながらカラハは身体を起こす。両手で槍を構え敵に相対する姿に、ナユタは驚き悲鳴を上げた。
「カラハ!? ハンドル、手──」
ナユタの叫びに、今更何を、と苦笑しながらカラハは槍を振る。長い穂先から生じた鈍銀の軌跡が空を裂き、鉤爪で襲い掛かる鳥の身体を袈裟斬りにする。
「何の為にカゲトラを憑依させてると思ってンだ。幾ら何でも普通のバイクじゃア、ロケランなんてブッ放したら反動で振り落とされるか車体がバランス崩すだろォが」
「あっそうだったんだ、成る程ね」
「お前なァ」
軽い遣り取りの合間にも鳥たちの攻撃は矢継ぎ早で、しかしナユタのショットガンから放たれる術式散弾は彼らの戦力を削ぎ、カラハの槍が弱ったそれらを着実に仕留めていった。
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