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咲け神風のアインヘリア:皇国の防人達よ異界の声を聞け  作者: 神宅 真言
第一章:不機嫌続きのバースディ
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嫌な予感と、大結界


本日未明に続き、二度目の更新です。


パパはまともに見えつつも実はどこかおかしい人なんだと思います。

そうでなければ素面でこんな事やってられません。




  *


 寮生長はおもむろにヘッドセットのスイッチを入れ、一つ咳払いをしてから外の二人に話し掛けた。


「……はい、こちらタカサキ司令代行。あー、あー。ナユタ君、カラハ君、聞こえますか」


『はいはい聞こえますよ』

『おう、感度良好だ』


「準備が出来たなら、とにかく鳩座君を探して下さい。勿論直接現場が見付かったなら万々歳ですが、恐らくそうすんなりとは行かないでしょう。鳩座君が何か情報持ってると思われますので、そちらに賭けた方が無難です」


『了解しました』


「では今から大規模結界を発動させます。思う存分暴れて貰って構いませんので」


 そしてパパ寮生長こと司令代行タカサキ・ワタルは、パソコンの画面に表示させたあるプログラムの『開始』ボタンをクリックし、次いで『本当によろしいですか?』の念押しに躊躇無く『はい』を選択した。


「……今なんやら、えらい不穏な言葉と文字を聞いたり観たりした気がしたんやけど」


「気のせいですよ」


「いやいやいやいや!?」


 大規模結界。正式な名前を、蔵多山広域包囲防護次元隔絶結界、と言う。


 名前が示す通り、大學の敷地で在る蔵多山を丸ごと現世から切り離し、中で何が起ころうとも被害を外へと漏らさず、或いは外からの攻撃を一切受けないという、強力にして尋常ではない規模の霊的結界なのである。


 厳密には大學敷地をぐるり一周する形で敷かれている道路を含んでいる。徒歩で巡ると一時間程の丁度良い散歩コースだ。一般道は勿論、神宮の内宮と外宮を繋ぐ『御幸道路』と呼ばれる特別な道路の一部をも含んでいるので発動には細心の注意が必要ではあるのだが、──この時間帯、車などほぼ通らないので安心して発動した次第である。


「もしもし、あ、先輩。大規模結界を発動させていますので、来る際には気を付けて下さいね。ええ、それぐらいの時間が掛かる事も織り込み済みですので。はい、お待ちしております」


 そして何食わぬ顔で、招集を掛けておいた先輩二人に一応の注意を促すコールを済ませると、司令代行こと寮生長は、ふふ、と嬉しそうに微笑んだ。


「ワイにはパパがごっつ楽しそうに見えるんやけど、気のせいやろか」


 宮元のぼやきに、寮生長は軽く肩をすくめる。


「だってわくわくしませんか。……子供の頃に観た特撮ドラマ、皆憧れていたと思うんですが、それぞれ、リーダーのレッドになりたいとかブルーがいいとかあったでしょう。私はね、ヒーローそのものよりも、彼らに命令を出す司令官に憧れていたんです」


 そして少し気持ちの悪い笑みを浮かべる寮生長を見て、宮元は何も言えなくなった。リーダーシップのあるオトナな三十六歳は、ひと皮剥いて本音を吐かせれば浪漫をこじらせた中年でしか無かった。


 見た目はシュッとしてカッコエエお人やのになあ、と宮元は残念な物を見る生温かい視線を寮生長に這わせたが、当の本人は一切気付く事無く、パソコンの液晶画面に見入っているのだった。


 *


「それじゃアどうするよ? 取り敢えず外周ぐるっと回ってみるか?」


「手掛かりも無いしまずはそれでいいかな。調査用の式神を撒いていけば、外側から内に向かって調べられるから効率もいいし」


「おっし、了解だ。じゃア出発すンぞ、しっかり掴まってろィ」


「分かった。……っ、あっひゃあっ!?」


 ナユタは車体がスタートすると同時に、とても情けない悲鳴を上げた。


 腰の部分はバイクが初めてというナユタが落ちないように、虎の尻尾と蛇の鎖でタンデムベルトよろしく固定されてはいたのだが、それが逆効果となって上半身が後ろに仰け反る体勢になってしまったようだった。


 爆笑するカラハが一旦スピードを緩めてくれた隙にカラハの腰にしっかりとしがみ付いたナユタは、くっついた事でより伝わり易くなった言葉に棘を乗せる。


「だから初心者なんだ、仕方無いだろ! 笑うなよっ」


「ははッ、悪りィ悪りィ! まあ走ってりゃアそのうち慣れるだろ。そしたら身体起こして片手使えるようにならァな」


「……慣れる気がしないけど、頑張るよ」


 口ではそう言ったものの、ナユタの口許は悔しさで左右非対称の山なりに歪んでいた。ぐぬぬ、と漏れる歯噛みを背中に感じながら、カラハはナユタに悟られないようバイザーの中でクックッと笑った。


 *


 カラハは大學の正門から御幸道路へと車体を滑り出させると、時計回りになるよう遅めの速度で流してゆく。


 ナユタの式神以外にも、自らの勘じみた気配察知能力を最大限に張り巡らせ、同時に目視でも警戒を怠る事は無い。カラハは緻密な計算や論理立てた思考は苦手なタイプだが、感覚や経験に基づいた野性的なまでの感性は他の誰よりもずば抜けたものを有していた。


「──なァんか、ヤな予感がすンだよなァ」


 バイクで風を切りハイになりながらも、頭の何処かで漠然とした不安が警鐘を鳴らしている。今日は誕生日だってのに、と言いかけてから、同時に今日が十三日の金曜日である事実をも思い出して、カラハは自然と舌打ちを漏らす。


 と、カラハの背中にくっ付いていたナユタが顔を上げる気配がした。同時に遠くを見遣るカラハの瞳も、ある一点を凝視する。


「カラハ、来たみたいだ」


「あァ。お客さんのお出ましらしいなァ」


 バイクの咆哮とは違う不気味な音が、もう耳に届き始めている。二人が認める視界の先、月さえ見えぬ暗闇の空に、何十羽の大きな鳥の群れが翼を羽ばたかせ、行く手を阻むべく二人にぐんぐんと近付いて来ていた。


  *




大規模結界は、この蔵多山に大學を建設する段階から既に埋め込まれていたものです。

他の、個々の建物に張られている防護結界なども同様に、建てる時に土台なり建物なりに式が埋め込まれています。

……という設定です。




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