ロングコートと、マシンガン
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遅くなって申し訳ありません。どうにも体調崩しがちです。
そして今回から変身とか戦闘シーンとかとか。
こういうバトルの時とかに主題歌流れるとテンションだだ上がりするタイプなのですが、同様の方がもしいらっしゃれば、
よろしければBGMに、
小林太郎氏の『Frontier』などどうでしょう。
こちら個人的にこの作品でのナユタのテーマ曲、及び作品主題歌的な曲となっております。
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丑三つ時に差し掛かろうかという静寂の中、ナユタとカラハは二人して、誠道寮の硝子張りの玄関から外の暗闇を見遣っていた。
「鳥だなァ」
「鳥がいっぱいだね」
そこには、大量の鳥が居た。小鳥から大型の猛禽類まで、多種多様な鳥の群れ、ざっと数百羽はいるであろうか。
「普通の鳥は夜目が利かねェ筈だろ? かと言って全部が全部霊体とか作りモンて訳でも無さそうだし。何なんだコイツらは」
「半分ぐらいは普通の生身の鳥っぽいね、式神みたく操られてると考えるべきかな。可哀想だけど、どうにかしないと」
それら鳥の大群が男子寮の玄関を囲むようにして集まっていた。暗闇に浮かぶ無数の目は血の色に光り、闇が紅く染まる程に周囲の空間をぐるり埋め尽くしている。
「これ突破すンのか……?」
「躊躇する気持ちには同意だけど、外に出ない事にはどうしようも無いっていうね」
この誠道寮の建物自体には常から厄災を防ぐ防護結界が張られている。その効力は強力とは言えないものの、さりとて十把一絡げの式神や数頼りの使役霊などが突破出来る程弱くはなかった。ゆえに集められた鳥の大群は手を出せず、取り囲み睨みを利かせている現状がある訳だが、いつまでもこうして籠城している訳にはいかない事情が二人にはあった。
「……しゃアねェな、やるか。おいナユタ、準備しようぜ」
「戦闘装束に着替えるの? ここで?」
「誰も見ちゃアいねェよ、敵さんの監視以外はなァ」
「それもそうか」
玄関には念の為、再び人払いの術が掛けられていた。納得したナユタは袖から一枚の符を取り出すと、頭上へ放り投げて柏手を打つ。パン、と澄んだ音がホールに響く。
ふわり、符が淡い水色の光の粒に変わり、さらさらとナユタの全身を包んでゆく。ひらり燐光が舞い、大きな袖を、袴を、装束を形作ってゆく。
時間にしてほんの十秒。ゆらり光の中に現れたのは、白地に白銀の紋様が散らされた狩衣、高い烏帽子、白衣に白袴を纏った、浄衣と呼ばれる装束姿のナユタだった。
「へえ、サマになってんじゃねェか、いっちょ前に」
「言うね。君も早くしろって」
陰陽師然とした装束に眼鏡姿のアンバランスなナユタを鼻で笑うと、カラハは自身も戦闘用の装束に着替えるべく意識を集中させる。
カラハは瞳を伏せたまま右手を顔の前で祈るように立て、印を結ぶような不思議な手の動きをしながら短く何事かを唱えた。最初に「オン」らしき音が聞こえたので、恐らく真言なのだろうとナユタは推察する。
突然昏い炎がカラハの足許から噴き上がり、舐めるように全身を覆い尽くす。炎に熱は無く、ただ焼き滅ぼす実態の無い闇色めいた火焔。鈍く光る牌がカラハの周囲を彩り、そして閉ざされていた眼を開いた刹那、──その姿は一瞬で変わる。
風が吹いたが如く漆黒の髪が、長い裾が踊る。先程の炎を凝り固めたが如き暗鈍色のロングコート姿のカラハがそこには居た。光の角度で銀にも光るメタリックじみた生地は羊革のようなしなやかさを帯び、くるぶしまでの長い裾には腰程まで深くサイドスリットとベンツが入っている。頭には同じ素材で作られたツバの広いハットを斜めに被り、膝をも越える丈のロングブーツが足許で革特有の音を鳴らした。
「……袈裟とかじゃないんだ」
「俺ァ坊主じゃねェからな」
意外そうな声を上げたナユタにニヤリとカラハは笑うと、空中に一本長い線を描く。鈍銀の光の軌跡は祭式教室で見たあの三つ叉の槍に姿を変じ、現れた瞬間に重さを取り戻す。カラハは落ちてきた槍をガシリ右手で掴むと片手でくるり回し、カーン、と石突きで床を叩いた。
追ってナユタも大きく広がった装束の袖を振り、がしゃり、と真鍮色の凶器を出現させる。それは銃身にびっしりと文字と紋様が刻まれたマシンガンだ。
安全装置と封印の符を外した銃を抱えるギャップはなはだしいナユタの姿にカラハは、お前そりゃイカレてるぜ、と牙を見せて笑う。
「さァて、準備も出来たこったし!」
「作戦開始、といきますか!」
二人は同時に、不敵な笑みを浮かべたのだった。
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玄関の硝子戸から飛び出した二人は、一斉に襲い掛かる鳥の大群に、惜しみなく術と武器を奮った。ナユタは霊的な力でコーティングされた弾丸を容赦無く撃ちまくり、カラハは鈍色の燐光を撒き散らしながら槍で空を薙ぎ払う。
一瞬にして数十羽単位で弾け飛び散り消える鳥たちの姿に、ナユタは唇を噛み、カラハは愉悦の叫びを漏らしながら、隔日にその数を削ってゆく。
しかしながら、数の力は暴力的ですらあった。随分と散らしたであろう群れの数は少しは減ったようにも思えるものの、半分には遠く及ばない。このままではいずれ押し切られてしまう事を予見しカラハの顔に焦りの色が浮かび始めた頃、ナユタがマシンガンを乱射しながら口を開いた。
「埓が明かないな、これじゃ」
「何か手は無ェのか?」
「そうだね。──いっそこっちの方がいいかな、あまり気は進まないんだけど」
ナユタは素早く数枚の符を取り出すと、それらを空に投げ上げて柏手を一つ打つ。パン、と綺麗な掌の音に呼応し、符は瞬時に形を変えた。
力ある言葉をしたためられた紙は一瞬で燃え上がり、蒼白い炎となって二人を護るよう周囲を尾を引き飛び回る。
「火の結界か。獣関係には効果覿面だなァ」
「しかもただの火じゃないよ。魔を祓う神器を鍛える為の炎だ、操られている程度の物なら熱気に触れただけで正気に戻る筈さ」
浄化の炎にあてられて、襲い来る鳥は次々とその身を焦がし、墜ち、畏れ逃げ出し、或いは解き放たれて消えてゆく。まるで飛んで火に入る夏の虫、そのものだ。後は炎が取り零したものだけを手動で倒せばいい。
「──鍜治の神か、ナユタの力は」
そしてあらかた鳥の群れが霧散し脅威と呼べなくなったのを見計らい、ようやく動けるとばかりに走り出しながらのカラハの問いに、ナユタは笑う。
「そう、正解。だけどどの神なのかは後でのお楽しみ」
「勿体付けるなァ」
「カラハこそまだ教えてくれてないし」
「ン、まァな」
そして二人は小道を駆け、林道を抜け、学食の脇にある二輪車用の駐車スペースに辿り着いた。その頃には鳥は殆ど居なくなっており、炎の護りも役目を終えたとばかりに次々と燃え尽きていった。
「カラハのバイク、朝は向こうの駐車場にあるって言ってなかったっけ?」
「瑠璃子先輩の家に行く前に移動させといたんだ。あっちだと遠回りだからなァ」
「っていうかこれが君の? ……くっそデカくない? デカいよね? っていうかデカいな!?」
「あァ、コイツが俺の愛車だ。カッケェだろォ!?」
ナユタはそのバイクをまじまじと見詰めた。外灯に照らされたカラハの愛車だというハーレーダビットソンはとにかく大きくて、黒と銀に彩られて、よく磨かれて光沢を放っていた。外国の映画に出て来るヤツだ、とバイクに詳しくないナユタは思う。
「よし、じゃア準備すっか」
「準備? 普通に乗るんじゃないの?」
「まあ見てろって。──おーいッ、カゲトラァ!」
誰それ、とナユタが声に出す前にそれは現れた。カラハの呼び掛けに応え、闇に紛れて足音も立てず走ってくる小さな影が一つ。耳を澄ますと微かに、しゃらん、と涼やかな金属音が届いた。
「なおーん!」
そして影は大きく地面を蹴るとカラハの胸に飛び込んだ。見覚えのある、黒地に金の縞模様。闇に目映い金の瞳。
「それ、あの黒虎の猫……!?」
ナユタの驚愕の声に重なり、なおーん、と鳴く猫の首許で、しゃら、と二重に巻かれた鎖がさやかな音を立てた。
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黒森冬炎様主催の劇伴企画、大盛況での期間終了とあいなりましたが、こちらの作品では終わった事など気にも留めずにBGM提案続けていきますよ。
今後ともよろしくなのです。
そして今回、ナユタは浄衣にマシンガン。
以前何かでシスターがマシンガン持ってるの見て超スゲエって思った事があるんですが、それ以上のギャップを皆様にお届け出来ればと。
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