食堂会議と、談話室
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主要キャラ以外の名前って、どこまで出すか悩みますね。
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「──という訳で、短期体験入寮する事になった、二神のマシバ・カラハ君です」
「よろしくおねシァスー」
紹介されたカラハがぺこりと頭を下げると、周囲から拍手と声援が飛んだ。
風呂から上がって早めに夕食を摂った後、カラハとナユタは空き部屋の掃除に取り掛かった。
カラハに宛がわれた部屋は丁度ナユタの自室の隣で、余ったベッドや机を置くのに使われている少し狭い場所だった。とは言え新年度が始まる前に大掃除をしたばかりなので、一通り掃除機を掛け家具の整理をすれば、数日暮らすには不自由しない程度にはすぐに整える事が出来た。寮母から客用の布団を借りて荷物を運び込めば、それで完成だ。
そして集められた寮役員と各班の班長達の前で、一応の挨拶をすることになったという訳だ。話を持ち掛けた当の本人であるパパ寮生長は席を外していたが、上手く話を通しておいてくれたらしい。もっとも、体験入寮などという制度は今まで一切聞いた事が無く、その微妙で唐突な話に全員が首を捻る事態となったのだが。
「取り敢えず寮規に目を通しておいて、分からない事は俺らやアラタ君にでも訊いてくれればまあ、大丈夫だと思うから」
簡単な寮内の説明を終え、隣に座った副寮生長その一である二史の磐戸が、カラハの肩をポンッと叩く。
「て事で、堅い話はこれぐらいでいいとして。──あのさあのさ、訊いていい?」
磐戸の反対側に座った副寮生長その二の濱永や他の面子達も、興味津々といった感じで身を乗り出していた。夕食時間を過ぎた食堂は他に誰もおらず、彼らの居る一部分だけしか点けていない電灯が、より秘密の会議感を醸し出している。
その様子に苦笑しながら、カラハは身を引くように背もたれに身体を預け腕組みをした。
「俺に応えられる事ならまァ、構わねェよ」
寮というのは非日常的でありながらもそこに居ることそのものが生活であり日常であり、最初は物珍しくともすぐに慣れて退屈し飽きが来てしまう。つまり娯楽の少ないこの状況では、誰もが刺激に餓えているのだ。こんな面白そうな機会を彼らが見逃す筈は無かった。
「あのさ、……昼間の白鳥瑠璃子先輩に追い掛けられてたのって、マシバだって話があるんだけど、マジ? マジ?」
「それなァ。ま、俺なんだけど」
「ホンマか!」「おお!」「マジで!」「やっぱそうなんだ」
「じゃあさじゃあさ。何であんな事になったんだ? 何やらかしたのお前?」
「ええとだなァ……怒らせるような事、言っちまってな」
「何言ったんや焦らさんといてや」
「いやァつい口が滑ってな。──ニセモノ、エセ霊感、ってな」
一瞬の沈黙の後、大爆笑が響いた。
「マジで!」「言ったんだ!」「すっげー」「最高やな」
「マジでスゲー! 勇者だなお前!」
濱永がバンバンと肩を叩き、他の皆も笑いながらカラハを讃えた。どうやらナユタの言っていた通り、誰もが言いたいと思っていても言えなかった事らしい。
「歓迎会やろうぜ! 歓迎会!」「いいなそれ」「勇者の歓迎会!」「今からかよ」
「皆もこう言ってるし、急だけどいいかなマシバ君?」
「俺は特に用事も無ェし、開いてくれるってンなら拒むようなヤボはしねェよ。あ、名前、カラハでいいから」
「よっしゃ! カラハの歓迎会やるで!」
そんな流れでカラハ達は北寮三階の談話室へ移動する事となった。
何故そこを選んだのかと言うと、ズバリ『玄関から一番遠いから』である。ここならば万一抜き打ちの寮監監査などがあった場合にも時間を稼ぐ事が出来る。後ろめたい事が無くともあまり大勢が集まって騒ぎすぎるのは褒められた事では無いし、有るならば尚更だ。
「カラハってこれ、出来る?」
そう言って班長の一人が両手で何かを掴んで持ち上げるジェスチャーを見せる。カラハは破顔して誘いに食い付いた。
「おおッ、イイねェ! 最近やってないから腕鈍ってるかもだが、それでも良けりゃア是非!」
「出来るクチか! じゃあ決まりだな、今からなら消灯まで二時間近くあるからハンチャンはイケるだろ」
「うっし、負けねェぞ?」
ハンチャンは半荘と書き、一般的なルールでの一ゲームを指す。先程のジェスチャーは両手で牌を持ち上げ積み重ねる仕草だ。つまり、彼らは麻雀をやろうと言っているのである。
麻雀は寮では禁止されている。寮内では賭け事はタブーであり、麻雀はどうしても賭けに結び付くからだ。賭け無しでやれば問題無い気もするが、まあ一律にやってはいけない事になっている。
しかしながら男が四人集まれば卓を囲むのは自然の道理で、皆見付からないように工夫しながらこっそり楽しんでいるのだ。
「ありゃ、牌使わねェんだな」
「こっちの方が、何かあった時にすぐ片付けられるからね」
そんな訳で、トランプのようなカード型の麻雀セットの登場である。牌の模様が描かれた札と、点棒代わりのカード、小さいサイコロなどがセットになった代物だ。これならば牌を混ぜる音も出ないし何よりすぐに仕舞う事が出来る。牌よりどうしても大きくなる為に、広げるスペースが広めに必要な事だけが欠点と言えよう。
北寮三階談話室には話を聞き付けた野次馬も大勢集まり、なかなかの騒ぎである。カラハ以外の三人をジャンケンで決め、そして麻雀大会が始まったのであった。
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長くなりそうだったので分割しました。
明日も更新します。麻雀回。
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