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epilogue ヒミツのお話

 * *





 天蓋の内側は穏やかな時の流れる場所。ふんわり漂う甘い香りに身を委ねているとまるで本物の花畑にいるかのよう。想いひとつでいつでもあの春の夢に飛んでいける。



「おばあしゃま、おはなし!」


 半身を起こし、クッションを幾つも重ねた上にもたれていた老婦人はゆっくりと目を開けた。いつの間にベッドに上がってきたのか、脇腹に少女がぴっとりくっついていた。見上げてくる瞳はきらきらと期待に満ちている。その頭や頬を撫でてあげればくすぐったそうな笑い声が上がった。


「こら、だめだよ。おばあさまはもう、おやすみになるんだから」


 ベッド脇に少年が佇んでいた。老婦人は彼に向かって手を伸ばした。


「あなたもいらっしゃいな」

「でも、お母さんが……」

「何か言っていた?」

「おやすみのごあいさつをしたらすぐ戻りなさいって」

「まあ。わたくしは、もっとあなたたちと一緒にいたいわ。いろんなお話がしたいし、いろんなお話を聞かせてほしいのよ。久しぶりに会えたのだもの」

「でも……」


 少年はもじもじと両手指を組み合わせる。

 老婦人が返事を根気よく待っているとやがて「あのね」と、か細い声が届いた。


「ぼくたち大きくなったからね。いっしょにねたらせまいでしょ。おばあさまの身体が痛くなっちゃうって。だから」

「やだあ! おばあしゃま、いっしょにねゆ!」


 少女がしがみついた。婦人はその細い髪を優しく梳き、少年には柔らかな眼差しを向けた。


「心配しなくていいのよ。わたくしがあなたたちと一緒に寝たいの。お母さんにもそう言えば大丈夫」

「ほんとう?」

「おばあちゃんの昔話、聞きたくないの?」


 悪戯っぽく口の端を持ち上げて覗きこむ。少年ははにかむような笑顔で頷いた。


 彼の身体が隣に収まると、老婦人は両脇に並んで寝そべる兄妹を順に見下ろした。


「さあ、今夜はなんのお話がいいかしら」

「りゅうとおひめしゃま!」

「ぼく、聞いたことないお話がいい!」

「りゅうとおひめしゃま!」


 婦人を挟んで兄妹が小さく頭を上げる。睨み合うふたりを前に老婦人は思案げに首を傾げ、「それじゃあ」と口を開いた。


「お姫さまのお願い事を、竜が叶えてくれるお話はどうかしら? 森の中のお屋敷に住んでいた、小さなお姫さまのお話」

「おひめしゃま!」

「それって、初めて聞くお話?」

「そうよ。お父さんも知らないお話よ」

「えっお父さんも!?」


 少年の柔らかな髪と少女の丸い頬をそれぞれ撫でる。老婦人はふたりの手を取ると、「むかしむかし、」とお決まりのフレーズを口にした。


「森に囲まれたお屋敷に、小さなお姫さまが住んでいたの。お姫さまはどうしても叶えたいお願い事があって、精霊の力を借りることにしたのよ。窓辺にビスケットとミルクを置いておくと精霊が遊びに来るんですって。でも、やって来たのは精霊じゃなかったの」

「りゅう、きた!?」

「いいえ、来たのは小さな男の子」


 えっ、とふたりの目が丸く見開かれる。老婦人はふふと目を細め、ないしょ話をするように顔を近づけた。


「それじゃあ今夜はこのお話にしましょうね。ヒミツのお話だから、お父さんにもお母さんにもヒミツよ」


 しぃ、と口許に人差し指を当てる。兄妹もきらきら目を輝かせ、しぃーと人差し指を当てた。






挿絵(By みてみん)

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