第6話
聞けば何でも答えてくれるマーガレットは、アタシの失礼な質問にも丁寧に答えてくれた。
身の上についても。大聖堂に居るわけについても。体の傷についても。
「信用されるためには、まずは信用しないと。その為に隠し事はいたしませんよ。何でも聞いてください」
そう言うマーガレットを信じられず、それを確かめるために、アタシはかなり彼女に不躾な質問をしてしまった。
今では少し後悔している。あんなこと聞かなきゃよかった。
信用するのは難しい。だが、信用するために試して傷つけるなど人間としてやってはいけないことだった。
「今日は昼まで裏の庭に居るよ」
「わかりました。では、こちらをどうぞ」
差し出された小さなバスケットを反射的に受け取る。
「クッキーと冷やしたお茶が入っています。小腹がすいたら召し上がってください」
「……ありがとよ」
我ながら情けない、消え入りそうな礼を述べて扉を出る。
他の煌びやかな聖女候補に絡まれるのも面倒なので、早足に勝手口へ向かい……それを出ると、大聖堂の裏に回った。
そこには、小さな東屋がぽつんとある。
日の当たりこそ悪いが、自室以外で一人で居られる場所というのは貴重だった。
何せ、どこに行っても神殿騎士やら坊主やら聖女候補やらがいる。
しかも、そのほとんどが胡乱なものでも見るような目でこちらを見るのだ。
居心地が悪いったらありゃしない。
一つきりしかない東屋の椅子に腰かけて、こっそり持ち込んだ煙草をふかす。
別にバレたって気にしやしないが、何かと口うるさい大聖堂の連中にネチネチと言われるのは面倒が過ぎる。
特に大司教? とかいうちょび髭の親父はアタシを目の敵にしているのか、事あるごとにネチネチと責めるので時々ぶん殴りそうになるのだ。
「おや、先客とは珍しいこともあるもんじゃの」
まったりとしながら三本目の煙草に火をつけた時、そんな声が聞こえた。
見ると、杖をついた老婆がゆっくりとこちらに歩いてきている。
教会の服を着ていないので、巡礼者だろうか?
近づく老婆に、椅子を譲って立つ。
「あらあら、気にしなくていいのよ」
「年寄りが余計な気ぃ回すんじゃないよ。アタシはもう行くところだったからさ」
「そんなこと言って。それ、火をつけたばかりじゃない?」
コロコロと上品に笑う老婆が、咥えたままの煙草を指さす。
「修道女さん、一本お恵み下さらないかしら」
「こんな成りしてるけど、アタシは修道女じゃないよ」
ぼやきながらも煙草を一本、差し出す。
スラムの一角でひっそりと販売されている、質の悪い葉を刻んで作る味の悪い煙草。
あたしの差し出したマッチを擦って、それに火をつけた老婆は、ゆっくりと煙を燻らせた。