第26話
皆さん、週末ですよ、週末。
聖女読みましょう、聖女。
「大司教様がおいでになりました」
修道女の声にエルムスとの会話をいったん切り上げ、扉に向き直る。
「聖女様! よくぞ無事で!」
「おい、タヌキハゲ。気持ちわりーこと言ってんじゃないよ。寝起きで腹減ってんだ。手短に頼むよ」
タヌキハゲ呼ばわりに一瞬怯んだ大司教だったが、今にも揉み手を始めそうな様子で笑顔を作る。
商人のが向いてんじゃないか、あんた。
「聖女セイラ様。マーニー教会はあなた様を正式な聖女として認定することとなりました」
「は?」
馬鹿か、こいつは。
聖女はアンナがいるだろうが。
「アタシは聖女じゃないよ」
「いいえ、あなたこそ真の聖女でございます」
「ちげーっていってんだろ。はっ倒すぞ」
睨みつけると大司教が汗を流しながら、ぺこぺこと頭を下げる。
何がどうなってんだ。
「セイラさん、食事をお持ちしましたよ。大盛です」
「お、サンキュ。……ってことだからよ、与太話は終わりにして出てってくれ」
「しかし……」
「腹減ってるって言ってんだろ……!」
苛ついた声を浴びせると、大司教が顔を青くして下がっていく。
あの大司教がだ。一体全体どうなってんだ……。
「お食事、置いておきますね。お話が終わったら、呼んで下さいな」
食事を置いてマーガレットが部屋を出ていく。それを確認してから、アタシはエルムスに尋ねた。
「タヌキ親父の……ありゃ一体なんだ?」
「そのままの意味ですよ、セイラ。あなたは今や、マーニー教に認定された正式な聖女です」
「それが何でだよ」
スラム出身の便利屋にそんな大層な看板を背負わせるなんて、教会の連中はいよいよ信仰が過ぎて、頭をおかしくしてしまったのかね。
「んだって、あれだろ? アンナの奴が上手に点数稼ぎをしてたじゃないか。家柄よし、能力よし、器量よし。文句の付け所がないだろ?」
「貧しい出の女性が、身を危険にさらして聖女の務めを果たし、得た報酬は全て貧民街の支援に充てる……というのは、ちょっと点数が大きすぎましたね」
エルムスのため息まじりの返答に、思わずフォークを取り落とす。
「マジか。いや、待て。ありゃ、別にそう言うつもりじゃないんだ。アタシは、見知ったガキどもが餓死しねぇようにあぶく銭をばら撒いただけで……」
「盗みの報復で人死にが出ないように下町にあらかじめ金を配り、信仰心篤き善意の医師を助け、貧しい教会に施しを与える聖女……と、もっぱらの噂です」
そんな善人ぶるつもりでやったわけじゃない。
スラムのガキ共が、死なないようにってだけなんだ。
……もう、子供の人死にが出るのは、見たくないから。
仕事があれば、まっとうにやっていけるガキがいる。
盗みの報復が原因で命を落とすガキがいる。
炊き出しがあれば、屋根のある場所があれば、ちょっとした治療があれば……死ななくていいガキがいる。
スラムで生まれたからって……それだけで死ぬなんてあんまりじゃないか。
あぶく銭を得たアタシが、自己満足でばら撒いただけ。
ただ、それだけなのだ。
「だから、それはさ……アタシなりの金の使い方ってだけで、そんなつもりじゃあないんだよ」
「セイラ。あなたは評価されるべきことをした。持つ者が持たざる者を助けるというのは、まさに、聖なる行いなのですよ」




