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第1話

「は?」


 本日何度目かの意味不明さに、アタシは辟易した。

 てっきり、いくつかやらかした軽犯罪がバレて『講堂説教』でもされるのかと思ったが、アタシを捕まえた、このエルムスとかいう優男の口から語られたのは、荒唐無稽を通り越して妄言としか言いようのない言葉だ。


「アタシが聖女だって?」

「はい」

「神の言葉を聞きすぎて頭がどうかしちまったのか?」


 うっかりと飛び出した本音に、思わず口を押える。

 聖職者に対する暴言は、立派な犯罪になってしまうのがこの国の法だ。


「ありえねー……。もう帰っていいだろ?」

「お帰しするわけにはいきませんね」


 柔和な笑顔を浮かべたエルムスが、首を横に振る。


「なんでよ。聖女様ってのは信心深くて慈愛に満ちた、慎み深い人間だってきいたよ? ずいぶん前の話だけどさ」


 貧民街区(スラム)にも教会はあった。

 休息日はそこでミサが行われ、最後までお行儀良くしていれば食事と……運が良ければ、菓子にありつくことができた。

 そこで聞いた『ありがたいお話』のことをいまだに覚えているというのは、きっと刷り込みに違いないけど。


「あなたの肩にあるそれ……いつからあります?」

「このアザかい? 生まれた時からさ」

「我々マーニー教では、その痣を『光の刻印』と呼んでいます。ほら、あそこにあるのと同じでしょう?」


 エルムスが指さす先、日光に輝くカラフルなステンドガラスは、確かにアタシの肩にあるのと同じ模様に彫り込まれている。

 だからと言って、こんな偶然で拘束されたのでは溜まったもんじゃない。


「セイラ。いえ、聖女セイラ……」

「語呂悪くね?」

「話の腰を折ろうとしても無駄ですよ、聖女セイラ」


 この優男……顔を合わせた時からずっと思っていたが、どうにもやりにくい。

 怯まないし、見透かしたような目をするし、何よりしつこくて頑固だ。

 苦手なタイプ。


「魔王が復活する時、聖女が闇を切り拓くという神託が五年前にありました。いま、各地から『光の刻印』らしきものを持った者達が集められています」

「んじゃ、別にアタシじゃなくたっていいだろ」

「誰が真なる聖女なのか。それがわかるまで、あなたを手放すわけにはいきません」


 噂には聞いていた。

 魔王が復活したことも、聖職者どもが妙な動きをしているのも。

 それが聖女探しとは知らなかったが。


「んで? アタシはあんたの出世のための点数になるわけだ? エルムス」


 怒りが沸々と湧き上がってくる。

 魔王も復活したっていう不安な状況で、聖職者どもは椅子取りゲームをしてるってわけだ。


「セイラ。僕は出世など望みません。あなたが真に聖女で……あなたが望むなら、この地位を捨てたっていい」

「口でなら何とでも言えるさね。貧民街区(スラム)に行ったのは今日が初めてかい? あんた、あれを見てどう思った? あそこでずっと生きてきたんだ、アタシは」


 貧民街区(スラム)では各種危険がいつでも特売セール中だ。

 飢餓、疫病、暴力……ありとあらゆる危機が、生活の身近にあふれている。

 何かしくじれば、あっという間に何もかも失う。

 それ以上、何も失うことのできない人間が流れ着く貧民街区(スラム)で失うのは、およそ失ってはいけないものばかりだ。


「確かに。僕の失言でした」


1話と2話が同じになってるというミス発覚……('ω')

直しました……

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