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断章2
断章
「こんな筈ではなかった」
男が窓の外の風景を見ながらぽつりと呟いた。
窓の外には街が見える。
だが、外には、人一人歩いていない。
鳥のさえずりや虫の鳴き声、人の声も聞こえてこない。
張りつめた空気がそこにはあった。
「こんな筈ではなかったのだ……」
また、同じ言葉を呟いた。
自分が望んだのは、こんな事ではない。こんな事ではなかったのだ。
自らの想いを告げられる者も居なく、ただ沈黙が場を支配する。
自分の望みは、ただ一つ。
ただ一つだったのに……。
沈黙が、言葉無く己を責める。
愚か者、愚か者と……。
「こんな筈ではなかったんだ」
後悔の念が押し寄せる。
時を戻せるなら、それが可能であったなら……。
自分はどんな事でもしただろう。
だが、誰であっても時を戻す事はできない。
自分にはなにも出来なかった。
ただ見ているのみ。
一度切った堰は元には戻らない。
男にはただ嘆く事しか出来なかった。