序章
序章
おやおや、誰ですかな、私を起こすのは?
ゆっくり眠っていたと言うのに。
まったく、年寄りをいたわりなさい。
近頃は、いったい、どのような教育を……。
おおっと、これは失礼いたしました。
私は、今では骨董品の仲間入りしている、ギデンスの古時計と呼ばれる時計でございます。
今では、私が動かなくなると、修理出来る職人が少ないらしく、そのまま放置されることもしばしばでございます。
今、私は、王宮や皇宮と呼ばれるこの宮殿の一角に備えられております。
当時、最高の職人と呼ばれた人物に作成され、新人としてお披露目されたのもこの場所でございました。
国王や、皇帝、そしてそのご家族や重鎮と呼ばれる多くの貴族やお役人の方々を、この場所から、時には場所を変え、時を刻みながら多く見て参りました。
位の高い方々でもやはり「人」でございますから、出来の良い方、悪い方、清廉な方、腹黒い方、感情の赴くまま、欲望のままに行動される方など、様々な方がいらっしゃるわけで……。
うぉっほん!
これは、私が語っても良い話ではございませんね。
失礼いたしました。
しかし、年を取ったためでしょうか。
よく、昔のことを思い出されるのでございます。
それも、古き良き時代と言いましょうか。
一番この国が輝いていた頃のことが不意に頭の中に浮かび上がってくるのでございます。
私が良き時代と思うのは……。
そう、この国が「レイドバルク帝国」と呼ばれていた頃でございます。
どのような国でも、力を持つと権力闘争が起こると言われますが、レイドバルク帝国も例外ではございませんでした。
しかし、一時期、皇帝と皇太子、第二皇子以下皇位継承権を持つ皇子達が、権力闘争を行わず、協力して統治を行っていた期間がございました。
権力というものは、頂点に立つ皇族の方々が嫌い避けていても、周りの者達がそうとは限りませんし、実際、主君筋の方を唆し、権力を得ようとした貴族も居たようでございます。
が、少なくともこの期間は、皇族の方々は権力争いを避け、また、国内の紛争が少ない時期でございました。
国内の争いを避けたとしても、レイドバルク帝国は肥沃な土地を持つ大国でございましたので、土地を狙う諸外国も多く存在しておりました。
レイドバルク帝国は、国の内外に様々なものを抱えておりましたが、それぞれの思惑を飲み込んで、発展していったのでございます。
その奇跡とも思える時期は……。
そう、あれは、ライグーン皇帝の治世下で、皇太子ラインシスと「黒の聖剣士」と異名を取った第二皇子ライザールが統治を支えた頃でございました……。