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第6話 湖は天に帰る


「ツインダイヤモンド星座」

 つぶやく丁央の瞳に、空と湖に輝くふたつの星座が見える。

 神話の言葉通り、湖は今、天を映す鏡のようだ。


「綺麗・・・」

 こんな時だというのに、月羽は思わずつぶやいてしまう。それは本当に美しい情景だったからだ。

「神話は本当だったのね」

 ララがそばへ来て微笑んでいる。


「さあーて、あれが今度はどうなるんだ?」

 すると、ワクワクしたような声が後ろから近づいてきた。

 トニー&時田だ。

 そしてその後ろに目を転じると、遼太郎、泰斗、鈴丸、琥珀が連れだってやってくるのが見えた。

 丁央が連絡を入れたのだ。

 そしてここの様子は、ライヴでクイーンシティとダイヤ国に流れるようにしてある。

「さすが国王だな」

「こんな歴史的瞬間、皆で分かち合わなきゃ、ね」


 そして、思わぬゲストがお目見えした。

「あら?」

 ナズナが何かを感じたらしく、いつも持っているポーチから、鏡を取り出す。

 ひゅうん

 途端にさわやかな風が舞い、そこに現れたのは。

「ロアン伯父さん! どうしたの」

「少し気になったので」

「また、おばさまの入れ知恵?」

 からかうように言うナズナに、

「いいや、私の独断だよ。と言いたい所だけど、実はそうなんだ」

 と、こちらは苦笑している。

「おう、お前さんが来てくれたなら、心強いの」

「恐縮です。ところで」

 と、ロアンはラバラに挨拶したあと、4人を集める。


 また別のあたりでは。

「あれ? お前たちどうしたの?」

 琥珀の声がしたので皆がそちらを見ると、彼を囲むように何頭かの一角獣がやってきていた。甘えるように頭を琥珀の手にすりつけている。


「役者は揃ったか、さて、あとはそのときを待つばかりじゃ」



 昔から、夜明け前が一番暗いと言われている。

 今がそのときのようだ、あたりは闇に包まれている。

 すると、遠いところから、ザァーーーーッと心地よい音が聞こえてきた。

「リトル」

 つぶやいた泰斗の言葉通り、それはクイーンシティの方からやってくる金銀と、ジャック国の方からやってくるピンクシルバーだ。

 彼らが湖のまわりを取り囲むように落ち着くと、琥珀のそばにいた一角獣たちもあちこちに散らばっていく。

 そして。

 ツインダイヤモンドの重なるあたりから、今度はシルバーブルーのリトルダイヤが湖へと降りてきた。

 驚くほどおびただしい数だ。

 いったん湖すれすれに、湖面を覆うように広がったそれは・・・。

「おお」

「なんと」

 水と融合して青く輝きながら、また星座の重なりへと戻っていく。

 散らばった一角獣が、ういーん首を持ち上げていななき、まわりのリトルペンタとリトルジャックが、輝きながらポンポンと楽しそうに弾みだした。

 それは、夢のように美しい光景だった。


「空が吸い込むって言う、お前の予想が当たったな」

「え? これが吸い込む? 違うだろ」

「?」

「天に帰って行ってんだよ」

「なるほど」

 楽しそうな時田に、トニーもまた嬉しそうだ。


 どれほどの時が過ぎたのか。

 リトルダイヤはほんの少しだけ、水を残して消えていく。

 まわりで弾んでいたペンタとジャックも、それを合図にまたザァーーーっと自分たちの縄張りへと戻っていった。


 ふう、と大きく息を吐いて「綺麗だったね」と夢見心地の泰斗が、ふと首をかしげてつぶやいた。

「でもあのリトルダイヤたち、どこへ行ったんだろう」

 泰斗の疑問を聞いた丁央が、慌ててどこかへ連絡を入れている。

「あ、綴? そっちにいきなり大量の水が現れるかもしれない。惑星全土に通達して!」

「〈え? なんだよ丁央〉」

「さっきリトルダイヤが、第1拠点の湖の水を、ツインダイヤモンド星座を通してほとんどどこかへ運んでいったんだ」

 その言葉で、これまでの経過を聞いていた綴は理解したようだ。

「〈了解。素早い対応、恩に着るよ〉」

「あとで借りは返してもらうぜ」

「〈それは直正に任せるよ〉」

 後ろで「ええーなにー?」と騒いでいる直正の声が聞こえたが、綴は容赦なく通信を切っていた。


「でもさ、全部じゃないんだね。まだ少し水が残ってる」

 鈴丸が湖をのぞき込むために淵へ行きかけると、なぜか一角獣が前に立ちはだかる。

「どうしたの?」

 そのときだった。

 ゴウン・・ゴウン・・

 と、不気味な音が湖の底から響いてきた。

 そして。

 ヴィン! ザザッ!

 いきなり湖のまわりの砂が崩れ始める。

「なんだ!」

「皆、退避!」

 ハリス隊と近衛隊が皆を守るように取り囲む中、丁央は急いでラバラを一角獣に乗せる。

「頼むぞ」

 いなないた一角獣は、そのまま空へ飛び上がって第1拠点へと向かう。

「他の女子も!」

 と言いかけて振り向いた丁央だが、なぜかその女子たちに一角獣に乗せられる泰斗と鈴丸がいた。

「・・・あれ」

「私たちなら大丈夫よ。自分で行けるわ」

「そうよ、魔女の血が流れているんですもの」

「あー、はい。じゃあ、月羽!」

「私は王妃よ」

「あー、はい」

 勇敢な女子の扱いに、少し困る丁央だ。



 全員が無事第1拠点にたどり着いたのを確認したあと、丁央はハリス隊と近衛隊を伴って、移動車で湖の上空へと飛んでいった。

 しばらく湖底に残った水はそのままだったが、砂が底へ吸い寄せられていくように少しずつ崩れている。

 そのあとのこと。

 形容しがたい音とともに、残っていた水が、なんといっきになくなったのだ。まるで底が抜けたように。

「国王、あれ!」

 怜が指さした。そこに真っ黒い穴が開いている。

「ブラックホール?」

「いけない! 第1拠点の皆を避難させなければ」

 焦る丁央だったが、

「待って下さい」

 と、イエルドが言う。

 見るとその穴は、残りの水を吸い込んだあとは、静かに、ゆるゆると回転しているように見えた。

 そして。

 今度は反対に回転を始める。

 すると暗い中から、大量の砂があふれ出してきたのだ。

「なんだ?」

「水がなくなって開いた穴を、元に戻してるのかなあ」

 怜がもっともらしいことを言うので、こんな時だというのに少し可笑しくなった丁央は、降りて様子を見ることにした。

 砂はどんどんあふれ出している。やはり湖のあとをふさいでしまうまで続くのか。

「律儀だな」

 ワイアットのつぶやく声が聞こえていた。


「丁央よ」

 そのとき、第1拠点のラバラから通信が入る。

「何かおかしいのよ」

「少し、面倒な事になるかもしれませんね」

 続いてナズナとロアンが言う。彼らは何かを感じているようだ。

 すると、横からR4が割り込んできた。

「泰斗、鈴丸、出番ダヨー」

「「え?」」

「砂ノ、中に、ロボットの反応、アり」

「「ええ?!」」

 全く同じような声を上げて、2人はどこかへ飛んでいく。

「戦闘タイプか?」

 丁央が聞くと、R4は珍しく「ウーン」と考えてから答える。

「たぶんネ。メチャクチヤ古い、タイプだカラ、さすがのボクモ、100%判別デキかねマス」

「それだけわかれば十分だ。ハリス隊! 近衛隊! 戦闘態勢をとれ。王宮から何隊か応援と護衛ロボを。それから、第1拠点にいる一般人は、すぐクイーンシティへ帰って下さい」

「ラジャ!」「アイアイサー」

 移動車から飛び出していくハリス隊と近衛隊。

 すると、第1拠点からのんびりした声が聞こえてくる。

「いやいや、わしらもここに残るよ」

 ラバラだ。

「ラバラさまー、危険なんですよぉ。第1拠点はロボットの襲撃を想定してないんです」

「ほほう、だったらどうするかの?」

 頭を抱える丁央に、また違うところから声がした。

「だったらこうするまでさ」

 時田だ。

 いつの間にクイーンシティへ行って、いつの間に運んで来たのか、彼の声は天文台型移動部屋から聞こえてきた。

 しかも。

 バラバラバラ・・・

 中からは、大量の護衛ロボが走り出てくるのが見えた。

「ご要望の護衛ロボを、お運びしました」

 珍しく、トニーがいたずらっぽい言い方をした。


「わあお、すごいねー」

「お前たちに未来を予想する力があったとは、驚きだ」

「いやいや、仕事は迅速丁寧に、ってね」

 何を隠そう、トニーと時田はラバラに言われて、湖の水が消えたあたりで移動部屋を取りに帰っていたのだ。

 ゆうゆうと天文台型移動部屋に乗り込んでいくラバラたちを、苦笑しながら見送るしかない丁央だった。



 どこからわいてきたのか、旧型で動きの遅い戦闘ロボが次々とこちらへやってくる。

「こーんな動きの遅いロボ、初めて見た」

「スローモーションみたいね」

 無駄口を叩く余裕も大いにあるハリス隊は、ドン、ドン! とそいつらを倒していく。

 そこへ人が乗り込むタイプのロボットが現れた。

「ちょっと失礼するね。映像を撮らせて」

 泰斗の声だ。

「お前もいつの間にそんなもん持ってきたんだ?」

「本当にロボット好きなんだからー」

「いいけど、後ろの方にいてね」

「はい! 邪魔はしません」


 だがそのうち、少し新型のロボットに混じって、目とおぼしきものが一つしかついていないロボットが現れる。

 ドン!

 銃を撃つ丁央だが、一つ目のロボットは崩れ落ちない。

「あれ? ちゃんと目を撃ったのに」

 すると、彼の後ろから銃が撃たれる。

 ドン・・・ドン!

「目とおぼしきものが一つしかなくても、必ず2度撃ち込むこと」

 振り向くと、なんとそこに鈴丸が立っていた。

「ええ?! 鈴丸、お前銃なんて撃てるの?」

 驚いてポカンとした丁央に、戦闘ロボが攻撃を仕掛けて来た。

「危ない!」

 パリン・・・

 叫ぶ鈴丸の声にかぶって、弾がはじかれる音がした。

「うわっ危なかった。ロアン、サンキュー」

 見るとロアンが丁央の前に出て結界を張っていたのだ。

「いいえ。でも、必ず2度撃ち込むこと、よくご存じですね」

 ロアンは鈴丸に言う。

「はい、オルコット家では、昔から銃の扱いをを覚えるとき、そう習います」

「オルコット?」

 いぶかしげに言ったロアンの前に出て、襲いかかってくるもう一体に、

 ドン・・・ドン!

 と、決して早撃ちの連射ではないが、確実に目を撃ち抜く鈴丸がいた。正確な銃さばきは、彼にある人物を思い出させる。

「・・・ブライアン」

 つぶやいたロアンの声を聞いて、鈴丸は嬉しそうに言う。

「あ、ロアンさんもご存じなんですね。うちのすごいご先祖さまのこと」

「もちろん、彼とはバリヤの第1チームでご一緒していましたから」

「へえー、って、ええー?!」

 鈴丸は、ロアンが異界から来た事をすっかり忘れていたのだ。

「あとでお話を聞かせて下さい!」


 また嬉しそうに言う鈴丸を見送ったロアンは、彼が倒したロボットをちらりと見る。

 彼の撃った弾は、ほとんどずれもなく、同じ所を貫通している。

「あなたの子孫はとても優秀ですよ、ブライアン」

 ロアンは楽しそうにつぶやいていた。



 ズズズズ

 砂が増えるたびに、新しいタイプの戦闘ロボが飛び出してくる。

 ドン!ドン!

「おっと、こいつは見たことのあるヤツだ」

「そのうち飛ぶのが出てきたらどーしよー」

 数はそれほど多くないので、まだ十分対処は出来ている。

「そっちにいったわよ!」

 けれど敵は意外な方角にいるものだ。

 ドォン・・カァン

 死角から狙った弾は、護衛ロボの羽に阻まれて跳ね返る。

「ありがとう、護衛ロボちゃん」



 そうこうするうち、そろそろ砂が湖を覆い尽くそうとする頃。

 ラバラが静かに立ち上がった。

「さてと、行くとするか。ステラ、ララ、ナズナ、手伝ってくれ」

「はい、おばあさま」

「了解よ」

「ようやく出番ね」

 きょとんとするトニー&時田に、ラバラが言う。

「あの湖の真上、真ん中あたりにこいつを移動してくれんかの」


 ヴィンヴィン・・・


 あたりの空間がグニャグニャと歪み始める。

 しばらくすると、天文台型の移動部屋が、湖のど真ん中上空に現れた。

「あれは」

 隊員たちが見上げると、なんと天文台のドームが静かに開き始めたのだ。

 ガシャン、とそれが止まる音がして。

「◎☆★●~♪~♪~」

 中から心地よい声音が聞こえてきたかと思うと、空に魔方陣が出来上がっていく。

 それが完全な形になったところでドームが閉じていき、また静かに移動部屋は上空から消えていった。

 と同時に、魔方陣がすうー、と降りていき、キラキラ輝きながら砂の中へ吸い込まれていく。

 そのあとしばらくして、急に砂とそしてロボットの出現が止まった。

「あれ、もう終わり?」

「ラバラさまたちが、何かしてくれたみたい」

 最後の戦闘ロボットを倒したところで、カレブが「おーい」と、声をあげた。

「ラバラさま~何したのさ~」

「なーに、釜に底をつけたんじゃよ」

 ラバラはそう言うと、通信の向こうでカラカラと笑うのだった。



 やはり今回も、ルエラが絡んでいたようだ。

 珍しく、表には出てこなかったが。

 湖に異変がおこりそうだとナズナが連絡を入れてきたあと、ルエラとロアンはさりげなくクイーンシティに心を向けていた。

 底に穴が開いた大釜からあふれ出す砂、そこに混じる黒いシルエットの予感を受け取ったルエラが、ロアンに釜の底をつける呪文を託したのだった。

「どこかで止めないと、際限ないみたいだったのよぉ。あの次元って、すごいのよね~、なんでもつきることがないの。エネルギーもそうでしょ? 地下水もそうよね」

 異界に帰ったロアンがルエラに報告に行くと、そんなふうに説明してくれる。

「まあ、愛する気持ちと一緒よ、愛ってつきることがないでしょ~。けど、砂とか黒い影とかは、ありすぎるとちょーっと困るものね」

 綺麗にウィンクするルエラに、ロアンは微笑んで皆からのお礼を伝えたのだった。




「夜明けだ」

 ようやく静けさが戻った砂漠の彼方から、日が昇り始める。彼らはしばし疲れも忘れて、その美しい輝きに目を奪われていた。

 こうして第1拠点は、また一面の砂漠が広がる世界になった。



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