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第5話 星が動くとき


 ツインダイヤモンド星座の移動報告を受けて、ララとナズナはクイーンシティへ向かうことになった。それにあわせて、ハリス隊もまたクイーンシティへ帰ることになる。


 そして、ようやく仕事が落ち着いた彼も。

「鈴丸くん、早くしないと置いてっちゃうわよお」

「待って下さいよお、こいつの調子が悪くて」

 鈴丸の後ろには、琥珀が連れてきたのより、もっと大きなカートが見える。

「重すぎて動かないんじゃないのか?」

 可笑しそうに言う琥珀に「そんなことないですよお」といいつつ、「そうなのかな?」と、後ろから押したりしている。

「手伝うぞ」

 そこへ直正が加わる。

「いーなあ鈴丸くん。ボクは仕事が忙しくて行けないから、丁央によろしく伝えてくれたまえ」

 妙に気取って言うその言葉通り、直正と綴は今回、不参加なのだ。

「よいしょ」「ヨイショ」

 かけ声とともに2人は頑張って押すが、カートはなかなか動かない。

 すると何かに気がついた琥珀が、笑いながら戻ってくる。

「この車止めって奴は、本当に優秀なんだな、な? 鈴丸」

 ブレーキ代わりにおいていた三角の車止めをヒョイとはずすと、カートは音も無く動き出した。

「あ、しまった」

「なにー? そんなことだったのかよ、鈴丸ー!」

「あはは、直正さんごめん。お詫びにお土産いっぱい持って帰りますって」

「約束だぞ!」

 と、一騒動あったのだが、彼らはそのあと、次元の扉の中へ消えていった。


「帰って来てないな?」

「そりゃそうだろう。あーあ、俺も行きたかったなー」

 確認するように扉の後ろをのぞき込む綴と、残念そうに言う直正。

「仕事をあっという間に終わらせて、休みを取って行ってこい。優秀なお前なら大丈夫だ」

 珍しく少し可笑しそうに言う綴。

「はいはーい」

 こちらも珍しく素直に返事する直正。

 2人は「あとでお茶をお入れしましょう」と言ってくれたMR.スミスの言葉を思い出して、またあの応接室へと戻っていった。




 誰かがガバッと抱きついてくる。

 これは予想通り。

「鈴丸くーん、ひっさしぶりー」

「う・・ぐぐぐ」

 そしてきっと誰かが助けてくれる。

 これも予想通り。

「また! 先輩、ダメですよ!」

「ええー? いいじゃないナオ~」


 ロボット研究所の一室に入った途端にこれだ。本当に、ジュリーさんは懲りないんだから、と、解放された彼の目に、懐かしい顔が飛び込んでくる。

「泰斗! 久しぶり」

 嬉しくて思わずハグしかけて・・・、あれ? これだとジュリーさんと同じだな、と、慌てて握手に変更する鈴丸だったが。

「ホント、やっと画像じゃなく話せたね」

 そう言うと、なんと泰斗の方からハグをしてくれたのだった。

「うん、うん」

「じゃあ早速、色々見てもらうね」

 きっとポンプロボのあれこれだろうと思ったが、鈴丸は少し気になったので聞いてみた。

「泰斗、なんかやせた?」

「えーと、楽しくって」

「?」

「ポンプロボ。考え出すとたまに止められなくなっちゃうんだよね」

「ああ」

 鈴丸はそれで合点がいく。泰斗は熱中すると、それこそ寝食を忘れてしまうのだ。

「そうなんだよ、鈴丸くん。他にもいっぱい仕事をかかえてるのに、ポンプロボが面白ーいって、俺のことも忘れちゃうんだもん」

 ふざけて泣き真似などするジュリーが補足した言葉に、納得はしたのだが。

「そうなんですか・・・」

 鈴丸は、自分が言い出したことで泰斗の仕事を増やしてしまったことを深く反省した。

「泰斗! とりあえず今日は、ちゃんと食べてちゃんと寝よう! 話は明日から」

「え? 大丈夫だよ」

 そういうわけにはいかない、と、鈴丸はなぜかR4を呼び出す。

「R4」

「あレ?、鈴丸ジャーん、なにー」

「泰斗に休養を!」

「ラジャ。研究所の外へ、出テ待て」

 鈴丸は泰斗の手を取って、研究所の外へ出た。ちょうどR4の移動部屋がグニャグニャと現れた所だった。

「ええー? ちょっと鈴丸ー」

 ちょっぴり抵抗する泰斗だったが、今はそんなこと言ってられる場合じゃない!

 ほぼ強制的に移動部屋へ泰斗をつれて入り、手回しの良いR4が用意したリフレッシュカプセルに泰斗を押し込んで、やがてすやすやと天使のような寝顔を見せた泰斗に安心すると、あとのことをR4に任せて、また研究所へ帰って行く。


「ふう、一件落着」

 胸をなで下ろしていると、そこへジュリーとナオがやってきた。

「鈴丸くん、グッジョブ。どうもありがとね」

「いえいえ、当然のことをしたまでです!」

 ちょっと気負って答えた鈴丸に、ジュリーが意外な事を言って彼を驚かせた。

「でもさ、放っておいても明日あたり、どっかその辺でぶっ倒れてたと思うよ~」

「え?」

 すると、ナオが補足してくれる。

「泰斗先輩はエネルギー使い果たすと、大昔の電池内蔵ロボットみたいに、いきなりぱったり倒れて眠っちゃうんですよね。本当に所構わず」

「ええ?!」

 驚く鈴丸を尻目に、ジュリーは話を続ける。

「もう、研究所の名物だよ~。最近じゃ、予想屋まで出る始末」

「そんなの、ダメですよ! もし何かあったらどうするんです。健康第一!」

 怒ったように言う鈴丸に、今度は2人が驚く番だ。

「あ・・・」

 ハッと気づいたような顔をするナオと。

「あれれ、でもそうだよねー。ありがとうね、本当に鈴丸くんは泰斗思いのいい子だねえ」

 そんな風に言ってから、性懲りも無くガバッとバグをして、またナオに引っぱがされるジュリーだったが。

「ゼエゼエ・・・。えっとそれから、泰斗が担当してるもので、俺に出来る仕事があれば任せて下さい。ちょっとだけでも皆さんのお役に立てれば」

 などと言ってしまった鈴丸は、またまた感激したジュリーのハグ攻撃を必死でかわす羽目になった。



 さて、鈴丸がジュリーとそんな攻防を繰り広げているとき。

 湖には、帰ってきたハリス隊と丁央がいた。

「表面的には全然変わりないな。俺が見る限り、こちらを立つ前とは水の量も変わりない」

「そうか、久しぶりに見るお前が言うんだから、間違いないな」

「水の中を調べてみるか?」

 すぐに答えが返ってくると思っていたハリスは、丁央が躊躇しているのに気がついた。

「どうした?」

「うーん、そうしてもらいたいのは山々なんだけどね。ラバラさまが少し待てって言ってるんだ」

「そうか」

 少し離れたところで、ナズナと話をするラバラがいた。

「お前さんの見るところは、どうじゃ」

「そうですね」

 純粋の魔女であるナズナなら、ラバラが知らないことも見通せるかもしれない。

 彼女はあたりを注意深く見回したあと、湖に近づいて水を手にすくっている。

「この水・・・。前は気づかなかったけど、ネイバーシティとは少し違うんですね」

「ほほう」

「うーん、鏡だって言うのは出てるんだけど、天に帰るのも出てるんだけど」

 水の表面を長いことなでていたナズナだが、やがて小さく首を振って言った。

「ごめんなさい、やっぱりわからないわ」

「だが、天に帰るのは間違いないのじゃな?」

「はい」

 それを聞いたラバラは、うんうんとうなずいて嬉しそうだ。

「天に帰るのがわかっただけでも、大収穫じゃ」

 にっこりと笑ったラバラが丁央に合図すると、彼はハリスを伴ってやってきた。

「何かわかりましたか?」

「やはり湖は天に帰るそうじゃ」

「え? どうやって?」

「ごめんなさい、それがわからないの」

 驚く丁央に、ナズナはまた謝るが、

「そんな、ナズナさんのせいじゃありませんよ。とにかく天に帰る事がわかっただけで大収穫です」

 と、ラバラと同じ事を言う。

「やたらと湖に近づかないように周知できますし」

 そう言って丁央は、ハリスに向き直る。

「今聞いたとおりだ。ハリス隊には、湖の中じゃなくて、周辺の警備を頼むことになりそうだ」

「ああ、了解した」

 きちんと敬礼するハリスに敬礼を返した丁央は、ちょっと残念そうに言う。

「あ~でも、移動部屋の固定装置、スライドするヤツ。作りたかったなー」

 それは、国王としてではなく、建築屋としての感想だった。


 そしてもう一組、がっくりと肩を落とす面々がいる。

「ええ? 湖に近づけないんじゃ、ポンプロボは作っても意味ないよね」

「残念だあ」

「うう~、せっかく仕事頑張って終わらせたのにぃ」

 遊びとはいえ、本格的なポンプロボの設計図は、ほぼ出来上がっているのに。

 危険が伴うと言われるとあきらめるよりほかないのだが、だが、そんなことであきらめられないのが、彼らの彼らたるゆえんだ。

「だったら、ネイバーシティで何かに使えないか、考えてみるよ。ネイバーシティなら、どこにでも水はあるからね」

 鈴丸の言葉に、他の2人も大喜びだ。

 そして泰斗は、こんなことも言った。

「それなら、何かネイバーシティの役に立つことを考えてみて。どうせ作るならその方が皆、幸せになると思うから」

「うん!」

 ところで、あれから十分休息を取った泰斗は、顔つきも少しふっくらして、それどころか天才指数まで上昇した様子。

「鈴丸のおかげ。今度からはきちんと休息を取るようにするね」

 と嬉しそうに言うが、彼をよく知る研究所のメンバーは、あまり本気にはしていない。


「なんだかなあ、せっかく水中で出入りが出来る移動部屋だったのにな」

「仕方がないさ、もともとこっちには、湖なんてなかったんだ。元に戻るだけだよ」

 なだめるように言うトニーに、今回ばかりはあきらめの悪い時田もなすすべがないようだ。

「元に戻る、か。そういえばあの湖は地下水があふれ出て出来たんだよな。それが天に帰るってどういう話だ? 砂漠に吸い込まれるんならまだしも」

「神話だから、天と地が逆さまにでもなるのかな?」

 冗談を言うトニーに、こちらも冗談を返す時田。

「ははは、面白いなそれ。いや、違うぜ、空が吸い込むんだぜきっと」

「アハハ、それこそまさか」

 2人は笑い合ったが、後日、この時の冗談を思い返すことになるとは、夢にも思わなかっただろう。




 そして数日後。

 日が沈む頃にその異変は明らかになった。

「国王、またツインダイヤモンド星座が」

「どうした? 動いたのか?」

 ちょうど王宮にいた丁央に、通信が入る。

「いえ、今度は消えてしまったんです」

「なんだって?」


 丁央は月羽を伴って、湖へ急行する。

 到着した第一拠点には、ラバラ、ステラ、ララ、ナズナの姿もあった。

「ラバラさま、星座が消えたって?」

「どうなってしまったの?」

 焦るように言う月羽の背に、ララが優しく手を当てて言う。

「月羽、落ち着いて。私たちはよく言うでしょう、目に見えるものだけがすべてじゃないって。その意味をよく考えてみて」

 その言葉に、少し落ち着きを取り戻す月羽。

 しばらく考えていたが、一つうなずくと、エネルギー担当に連絡を入れる。

「月羽です。ツインダイヤモンド星座は宇宙エネルギーの中継地点。エネルギーの供給は、どう? 止まっていますか?」

 少しの間が開き、通信から声がする。

「いいえ、エネルギー供給は止まっていません。今まで星座があった場所から流れ込んでいます」

「そう、良かった・・・。では、そのままエネルギーの計測は止めずに行って下さい。もし何か変化があれば、すぐに連絡を下さい」

「了解しました」

 通信を着ると、月羽はニッコリ微笑むララに、「ありがとう」と感謝を伝える。

「さすが、ララ」

 丁央もその様子を見て一安心したようだ。


 ただ、今後の動きが読めないので、主だった者は第一拠点にとどまることにし、近衛隊の1隊もこちらへ来ることになった。

 彼らはハリス隊と交代で湖の見張りを担当する。

 そしてなんと、近衛隊が到着したところで。

「では、わしら女子は何かあるまで休ませてもらおう。寝不足はお肌の大敵じゃからな」

 ラバラはそんなことを言って、ハリス隊、近衛隊の女性隊員までつれて行こうとする。

「あのお、ラバラさま。私たちって結構鍛えてるから、少しくらいの寝不足は平気よぉ」

 さすがに花音が苦笑いでラバラに説明した。

「そうなのか?」

「はい、ご心配には及びませんことよ」

 パールもそう言うので、仕方なく? あきらめると、その他の女子は強制的に仮眠室へ連れて行かれたのだった。


 何事もないまま、静かに夜は更けていった。


 真夜中、ふっと目が覚める。

「ステラよ」

「はい、おばあさま」

「なにか来ますね」とララ。

「行きましょう」ナズナも言う。

 4人は、何かを感じたのだろう、身支度を調えはじめる。

 月羽も彼女たちの気配に、すぐに目を覚まして起きてきた。

「さすがは王妃さまね」

 褒めてくれるステラに、少し恥ずかしそうに微笑む月羽。


「どうしたのですか?」

 仮眠室からぞろぞろとやってきた女子一行に、見張りに当たっていたイエルドが、目を丸くする。

「イエルドもそんな顔するのね」

 月羽が可笑しそうに言うので、彼は「申し訳ありません」となぜか恐縮している。

「そろそろ皆を起こしてくれ」

 ラバラの言葉に、イエルドはすぐさま男どもの仮眠室へ通信を入れた。

 真っ先に飛び出して来たのは、丁央。

「なにかあったのか、イエルド!」

「おう、さすがは国王じゃ」

 にんまり笑うラバラに、丁央はいぶかしげに聞く。

「訓練、ですか?」

「そんなわけないじゃろう。何か感じるのじゃ」

「え? それじゃあ」

「そろそろ始まるぞ」

 その言葉を待っていたように、エネルギー担当から通信が入る。

「こちらエネルギー室です。今、いきなりエネルギー供給の位置が変わりました」

「なんだって? どこに?」

 丁央の問いに、なぜか月羽が空を指さして答える。

「・・・湖の真上だわ」


 ハッと見上げた丁央の目に、湖のほぼ中央の上空で、大きく美しく輝くツインダイヤモンド星座が映り込んでいた。



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