世界を知るまで
プロローグ 出遭い
広島県のとある大学の資料室で、俺、羽島直樹は英語科の教員免許取得のための必修授業で出された課題、「指導案を作成する上で良い授業を行うためにどのような授業構成にすることが効果的か、またどのような教え方をすれば生徒の興味関心を引き出せるか、3,000字以上で述べよ。」というなんともめんどくさい内容のレポートを書くのに頭を悩ませていた。
「あー、全然なにも思い浮かばない…そもそも、まだ一度も教えたこともないやつにどうやってなにが効果的かとか判断しろっていうんだよ…考えたところで無意味だろこんなの。」
俺がそういうと
「まあまあ、でも考えないことには始まらないだろ、頑張れって。」
と、正面に座って別の課題をしていた友達、雨宮晃平が励ましてくる。
「そうは言うけどさー晃平、こうやってパソコンとにらめっこしてもう何時間経ってると思ってるんだよ、もう疲れたよ、眠いよ…」
「いや、お前この部屋きてまだ30分くらいしか経ってないから、まだまだこれからだから。」
そんな何気ない会話をして、緩やかに時間は過ぎていく。今日も何事もなく平和に、平凡に1日は過ぎて終わっていくのだろう、いや、そうに違いない。そんな風に思っていた。
部屋に来て1時間ほどが経った時、ドアの外でエレベーターがこの階に上がってきた音がした。先生か学生の誰かが上がってきたのだろうか、廊下を歩く足音も聞こえる。それはだんだんとこちらに近づいてきて部屋のドアの前で止まった。かと思ったらドアが資料棚に叩きつけられるほど勢いよく開かれた。ドアを開けたやつ、茶色よりは赤色に近い色の髪と瞳を持つ女は、俺をじっと見つめていた。
「やあ直樹、久しぶり。いや、ここでは初めましてと言うのが正しいかな?まあなんでもいい、とりあえずいつも通り、迎えに来てやったぞ!感謝しろ!」
「毎度毎度押し付けがましいわ!なにが迎えに来てやっただ!俺が迎えに来させてやっただけだ!」
そんな、初めて会った女といつも通りの会話を交わす。
(あぁ、この出遭いは何回目、いや、何十回目だろうか。また俺の平凡な日々は終わりを告げるのか…)
「晃平、俺はちょっと用事があるからここでさよならだ。じゃあな。」
「え、課題どうすんだよ!直樹!色々よくわからないんだけど!おい!」
俺は戸惑う晃平を尻目に部屋を後にする。
「まあこの世界もまた二人で楽しむとしよう、直樹。」
「ほんとお前にはいつも振り回されるな…まあでも仕方ない、また付き合ってやるとするよ。」
そう言いながら、俺は思い出す。こいつに初めて会った…遭った時のことを。俺がまだ死ぬ前の、まだあの世がこの世になる前の、なにも知らなかった時の思い出を…