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君は僕より先の道に行く

波の音が聞こえる。



潮風が吹いて暑さを和らげてくれる。



「おーい、智くん!こっちこっち」



声がする方向に振り返る。



少女がこちらに向かって手を振っている。



だがこれは夢だと一瞬で分かった。



いつか見た記憶。

うっすらとしててあまり覚えてない。



「波が当たって冷たいよー」



この日は確か最高気温が一番高かった気がする。



夕日が海に反射する。



少女は歩みを止めた。



「ねぇ、智くんって私が嫌な事されたら助けてくれる?」



「もちろん助ける」



「何をしてでも?」



「何をしてでも」



「智くんが居ると心強いね」

少女は笑みを浮かべた。




7月2日(土)


不思議な夢だった。

夢というよりは記憶というべきなのかもしれない。


何処か懐かしく感じた。


「まぁ夢は夢か」


夢とけじめをつけ、智一は起き上がる。


その瞬間、机に置いてあったスマホに着信が入る。


「誰だよ。まだ起きたばっかだぞ」

文句を言いながら、スマホを手に取る。


発信名は「雉鳩 竜司」と書いてある。


「はい?どうしたんだよ」



『どうしたもこうしたもねぇよ!!時間見ろ時間』


智一はスマホの画面に映る時計を確認する。


12:45となっていた。


『間に合うか?お前の家から駅って結構あるよな?』


「今から急いで向かう!!」


智一は、歯を磨き、ある程度の身だしなみを着こなし玄関に出る。


自転車に乗ると全速力で駅までの道のりを進む。

「はぁ…はぁ…」


駅前に着く頃には既に息が切れていた。

「おーい!智一やっと来たか」

竜司はこちらに気付かれる為に大声で呼び掛ける。

「ごめん。待たせた」

駅の時計が指しているのは1:05でギリギリセーフに入るだろう。



「じゃあ智一も揃った事だし、そろそろ行くか」


そう言うと何処に向かうかも分からないままに竜司の後をついて行く状態になった。



駅前のすぐそばにあるショッピングモールまで来た。

休日である為とても大型な駐車場がほぼ車に埋め尽くされている状態だった。


「流石に混んでるなぁ」


全員思っている事は同じであろう。

只でさえ夏の気温は暑いのに、ショッピングモールにこの大人数が密集するとなると……。

考えるだけで頭が痛い。


「いや、だからこそ俺たちは進まなければならない」

竜司はそう熱く語るが意味が分からない。

「ちょっと考え直そう!な?竜司今ならまだ引き返せる」


智一が言うのは少し遅かったらしく忠告を無視して先に進んで行く。



「じゃあ私達も行こっか」

そう琴音が言うと渋々智一はその後を追う。





中に入ると案の定、人混みで溢れていた。

家族連れの客も居れば女子高生の集団やカップルなど

様々な人とすれ違った。

色々な物を買いまくる王者も見た。


竜司は何処かに行き、瑞希と琴音は服を買いに行ってしまった。

そんな中、一人する事が無く休憩所の椅子に腰を掛ける。


しばらく時間が経った様に感じ、時計を確認するがまだ5分しか経っていなかった。


頭に浮かぶのはいつしか()という単語だけになっていた。


時間が長く感じるのはその時がときめいているからだと誰から聞いた気がしたが、実際にはときめきなんて一切感じ無い。

ただあるのはこの暇な時間を潰せるものは無いのかと探す自分自身のみ。


「暇だ……」

そんな事を考えていると頬に冷たい何かが当たる。


「冷た!」

こういうのは心臓に悪いと思う。

そんな事を考えながら頬にそれを当てた犯人の正体を確認する。


「この前の仕返し」

と言い琴音はミネラルウォーターを此方に差し出してくる。

「あんがと」

取り敢えず受け取っておく事にする。

キャップを捻ると元気よくプシュという音が聞こえる。

一口飲むと、乾燥した喉に流れ込み枯れた大地に雨が降る様なものだろう。

簡単に言うと

「生き返るー」


何かが可笑しいのか知らないが琴音はそんな智一の姿を見て笑っている。


「なぁ、何で笑ってんだよ」



「だってさ、そう言うのとかおじさんみたいだから」

おじさんっぽい確かに自分でもそんな感じはした。

分かっていたがつい使ってしまう癖みたいなものだ。

仕方ない。


「ていうかさ、琴音は服選ぶの終わったのかよ?」

さっきから疑問に思っていた事を聞く。


「私は選ぶの早いからね。瑞希もそろそろ来る筈なんだけどなぁ」


(置いてきたのかよ、お前は)

そう思ったが口に出すのはやめておいた。


「お待たせ〜。遅くなった」

と言いながら此方に瑞希が向かって来た。

手を見ると洋服が入ってるであろう大きめな袋を持っていた。

「大丈夫か?重たそうだけど」


「うんうん。平気だよこの位」

笑顔で誤魔化しているが、やはり少し重いらしく袋の持つ手を左から右手に右手から左手に何回も変えている。


「絶対重いだろ。ほら貸してみろ」


「良いよ大丈夫だから」

大丈夫だというが確実に無理をしているので許可無しに袋を持ってやる。


「あっ!ちょっと私の許可を得ずに何で勝手に持ってんの?」

案外荷物の重量は軽く、ただ長時間持っていると肩が痛くなる様な感じだった。

「これ重いか?」


「軽いに決まってるでしょ。まるで私の力が無いみたいに言わないでよ」

智一の手から袋を奪い取り、瑞希はそれをまた持ち直した。

「おい、まじで大丈夫か?」


「この位大丈夫だよ。心配しなくていいって」

そう言うと瑞希は何処かに行こうとする。


「何処行くんだ?」

すると瑞希は此方に振り返り、向かってくる。

智一と瑞希の距離はすぐ側まで近くなっていた。


「私なんかより琴音の事構ってあげれば?彼氏がちゃんとしなくてどうするの?」

と耳元で忠告される。

琴音の方向に振り返ると、ミネラルウォーターと一緒に買ったであろう飲料水を飲んでいた。

「じゃ、私は多分竜司がゲームセンターに居ると思うから行ってくるよ」


「分かった」

と言うと瑞希は袋を持ちながら、歩き始めた。

だが何かを伝え忘れたようにまた戻ってくる。

「何で戻って来たんだよ。忘れ物か?」


「違うよ。たださ、大切にしなよ琴音の事」

そう伝えるとさっき進んだ方向に向き直す。

「じゃ、先行ってるね」


大切にしろとは、いまいち意味が分からなかった。

どういう事をすれば良いのか。

そんな事、智一が知っている筈が無かった。

「ねぇ、智一?」

いつの間にかに琴音が智一の背後に居た。

「何だよ」

琴音の居る方向に向き直すと琴音が此方に袋を差し出してくる。

この袋は先程の瑞希の物と同じだ。

「私の袋持ってくれない?」


「何だよその荷物重いのか?さっきまで普通に持ってただろ」


「重いもん。それとも女の子に持たせっぱなし?」

仕方なく琴音の手からその袋を受け取る。

それは瑞希の持っていた袋より軽く、重い物とは思えない重量だった。

「でも軽いぞ」

正直に彼女に伝える。

「いいの!ほら持って持って」

無理矢理持たされ断れない状況になってしまった。

「仕方ないな……。これは借りを作った事になるから必ず返せよ」


「えぇ〜、ケチぃ。良いじゃんそのくらい」

ブツブツ文句を言いながら後をついて来る。

とりあえずゲームセンターまで出向こうかと思い歩みを進める。

ショッピングモール内のマップによるとゲームセンターは4階にあるらしい。

「私、三階にある音楽ショップに行ってみたい」

琴音の指はその店のある場所を指していた。

「おい琴音、俺に荷物持たせてる事理解してるか?」

男子だがもっと気遣ってもらいたい。

せめて距離の近い店に行くなり、竜司達の居る場所に早く着かせてくれるとか。

考えてる間に背後からエスカレーターに向かって押される。

「そんな事言ってる暇があったら早く足を進めるの」



三階に着くと趣味を楽しむ人達の為のエリアの様だった。

マップで見た通りの道で進んで行く。

「琴音って前までは音楽なんて聴いてなかったよな」

気づいたらいつの間にかに趣味が増えていたみたいな感覚だった。

「そりゃ変わるよ。趣味だって増えるし、新しい発見だってあるし、昔と印象だって変化するよ」

琴音は何気ない口調で答える。

確かにそうかもしれない。

いつまでも過去に執着しているよりも、そうやって自然と変わっていくのは当たり前だろう。



だとしたらいつまでも過去にこだわり、今が変わる事を恐れている自分は……



―――間違(マチガ)えているのだろうか?



「どうしたの?智一。止まってないで中に入ろ!」

自問自答の答えはすぐ出る筈が無く、気がつけば音楽ショップの目の前に居た。

琴音は待ちきれなくて先に店内へと足を踏み入れる。

智一も後に続き店内へ入る。


「智一、こっちこっち!」

声のする方向に行くと、最近流行っているラヴソングのCDの売っている場所だった。

「これ流行ってる奴じゃないか?最近よくテレビで聴くやつ」

街中に行っても偶に流れているのを聴いた事がある。

「そうそう」

肯定を琴音がする。

だが驚いた事があった。

「琴音ってラヴソング聴くんだ」


「私だって年頃の女の子なんだから普通に聴くよ」

この曲の人気ぶりといったら凄いと思う。

ここまで色々な人を虜にしてゆくのだから。

「歌詞はどんな内容なんだ?」


「説明すると、その歌詞の主人公の女の子には好きな男の子がいました。けれどもその男の子は鈍感でいつも概念に囚われていました。ある事がきっかけで主人公が好きになっていくんだけど、でもその時には既に主人公は亡くなってしまって、想いを告げられないまま終わるの」

話を聞いた所、良い終わり方ではない事が分かった。

「それって悲恋みたいな終わり方じゃないか?」



「もし私が主人公だったらこんな終わり方にはしないと思うな。ちゃんと想いを伝えなきゃダメだよね」



「そうか。という事は結果が良い方向に行っても悪い方向に行ってもか?」


琴音はそのCDを手に取りながら答える。


「まぁ言わないより、言った方が良いみたいな事だよね。確かに断られたら断られたで悲しいけど……」


先程持っていたCDをレジまで持って行く。

隣では会計を待っている琴音が続ける。


「良いじゃん!その場合はさ、心に一区切りがついたっていう風に思えば、それでも忘れられなかったら友達として付き合えば」


琴音は、二年前と比べて強くなったと思った。

それがいつこんなになったのかは分からないが、既に智一より精神的な面でも強くなっている。


「俺だったら怖いな。そんな風にさ普段通り友達からやり直すなんて出来ないし、陰で何か言われたりとかさ、周りから馬鹿にされるとか自分に自信無くなるから怖い」


プライドは決して高い訳ではない。

そして皆から、頑張ったねとか褒められたくはない。

ただ愛を認められない。

否定される。

そんなのは嫌なだけだ。


店を出て気をとりなおしてゲームセンターまで向かう事にする。

通路を歩いて行きエスカレーターに乗る。

「智一って二年前の事引きずってるの?」

琴音から言われる。

二年前というと多分イジメの事だろうか?


「琴音の件のアレか?」


「違うよ。智一の事だよ」


「何だよそれ?」


「そっか……。うんうん気にしないでもう忘れてるよね。あんな事があったら」

まるで身に覚えがない。

何を言っているかも分からないが多分今となってはどうでも良い物だろう。


「あっ!ゲームセンター見えてきたよ」

咄嗟に琴音は別の話題に変える。

確かにゲームセンターは見えてきた。

多分そこに竜司と瑞希がいるであろう。

「おっ、本当だ。此処のゲーセン結構でかいな」

と言いながら各々の曲や電子音が四方八方から聞こえる店内に入って行く。

「ねぇねぇあの人形取ってよ〜」

琴音はクレーンゲームの台の前まで行き、その中にあるユルい顔をした亀の人形を見ながら智一を急かす。

「はいはい」

と手に取った三百円を入れるとピロリンという合図と共に台は起動をし、何かの音楽が流れ始めた。

とりあえずその人形がある場所まで移動しようとするが時間制限があり、その時間を見ながら動かすと焦ってしまい違う所にアームを落としてしまう。

「智一、頑張って!!」

琴音の応援がプレッシャーになり、緊張を煽る。

何度も何度もこのミスを続けていくうちに、残りの残高も少なくなってしまった。

「無理言ってごめん……。もうやめて瑞希達の所に行こ?」


「いやまだだ……。あとこの残りの600円で」

そしてまた投入をしてしまう。

しかし人形は落ちなかった。

「諦めようよ……」

既に琴音は諦めかけている。

またもや智一は無言で三百円を投入した。

「もう無理だって」

―――――ボトッ

何かの落ちる音がした。

それが終わると同時に開放感が自分を包む。

「や、やったぞ!ほらお前の欲しかった奴」


景品を取り出し、琴音に見せ付ける。

「智一どうして私なんかの為に」


「いやさ、此処は男としてさカッコいい所を見せたくてさ」

ただし残金は残っていない。


「・・・ありがとう。大事にするよ!」

琴音は罪悪感を纏っていた顔が和らぎ安心した顔をしている。


「じゃあそろそろ行くか」


「うん!」

少し寄り道しすぎた気もするが、ただ琴音はずっと亀の人形を大事そうに持っている。

取ったこちらの身としては喜んでくれるのは嬉しい事だ。

「―――だから智一のそういう所が」

琴音が何か呟いたがゲームセンターの騒音が邪魔をして聞こえない。

「何か言ったか?もしかしてまだクレーンゲームやりたいとか言うなよ」


「そんな事言わないよ!別に何でもないから気にしないで」


「そんな事よりさ、向こうに瑞希達が見えるよ?」

二人は音楽ゲームに熱中しているようだ。

「まだ時間あるしもうちょっと回らない?」


「あ?うん。そうしよう」

そのまま連れられて行く。何処に行くのかも分からず。

でも琴音は楽しそうに智一を連れ出す。

本当に何もかも変わってしまったみたいだった。

成長するとはこういう事なのかもしれない。

そんな中でも智一はあの時を忘れた事は無い。









更新頻度遅すぎました。

すいません…。

次回は過去の話になると思われ……。

皆さんこれからもよろしくお願いします!!

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