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何気ない日常

部屋中に時計の音が鳴り響く。

「何だよ。もう朝か…。」

と文句を言いつつも布団から抜け出す。

意識がボーっとする中、昨日の言葉を思い出す。


『私と嘘の恋人やってよ。』


それは、河島 智一(かわしま ともかず)が今まで興味すらなかった幼馴染霧島 琴音(きりしま ことね)から言われた言葉だった。

「何を考えてるんだあいつ…。」


6月30日 (木)

顔を洗い、まだ身体はだるいが朝食の席に着く。

「あれ?兄さん今日は早いですね。」

妹の河島 玲香(かわしま れいか)は、珍しいと内心思っているような風に言ってくる。

「今日は妙な予感がしたからな。」

すると玲香は驚いた顔してこう言った。


「よく分かりましたね。起きなかったら顔面に朝食の目玉焼きを投げつけてやろうと思いましたよ。」

「おいおい、それだけは勘弁してくれよ。」

流石に熱々の目玉焼きが寝起きの顔面につくとパニックになる。

「まぁやりませんけどね。でも、これからも早く起きないとやるかもしれませんよ?」

とりあえずはい分かりましたよと返事はしておいた。


そして朝食が机に並べられてゆく。

「兄さんのお望みどおりの目玉焼きですよ。」


「望んだ覚えないぞ。逆に顔面にくらう事を望んでいるのは玲香だろ。」

玲香は、智一の目玉焼きが乗った皿を持ち上げる。

「本当に顔面にくらいたいんですね?」


「いや、ごめんなさい…何でもないです。」

智一は怖気付いて席に着いた。

「では、いただきます。」

玲香は何事も無かったかのように食事を食べ始める。

「いただきます…。」

智一達は、無言で箸を動かす。

静かな空間で、ただただ今日の朝食が美味しい事を実感させられる。

「ごちそうさま。」

智一はこの静寂に耐えられず先に食器を片付ける。



『時刻は7時を回りました。』

テレビのニュースキャスターがそれを知らせるのと同時に玄関のチャイムが鳴った。

モニターを確認すると琴音が制服姿で立っていた。

智一は、玄関の扉を開ける。

「智一、今日起きるの早いね。せっかく起こしに来たのに…。」

琴音はがっかりしたように肩を落とした。

「何か今日は早く起きれた見たいだ。でもこの習慣を続けないと顔面に目玉焼きくらうらしいよ。」

朝からこんな事を言われたら、妹とは怖いものだと再確認させられる。


「智一がどうなろうと別にいいんだけどね。」

今、悲しい事を言われたような気がした。

考えすぎだったのかもしれない。

琴音は琴音で、いつもと何も変わらない。


「それより、早く支度してよ。そんな格好じゃ学校行けないでしょ?」

智一は自分の服を確認する。

ズボンは短パンで服の方はというとシャツ一枚のみ。

今さっき起きたばかりの衣服のままだった。

「悪りぃ待っててくれ。」

急いで自分の部屋に戻り制服に着替える。

時刻が気になり時計を確認する。

現在は、7時15分といつもより凄く時間に余裕がある。

「あいつ毎回この時間に来てるのか…。何か俺が寝坊してるのが申し訳なく感じるな…。」

寝坊とは良くないものだと朝から妙に実感させられる日だと思いつつ玄関へと足取りを進める。

だがその途中にリビングへと顔を出す。

「玲香、先行くからな。鍵閉めとけよ。」


「そんくらい出来ますけど、もしかして兄さん私の事なめてません?」

玲香の発言を無視し、玄関へ向かう。

後ろから、今日は兄さんが晩御飯作ってくださいよと聞こえた。

「はいはい。分かってますよ〜。」

と適当な返事をして玄関の扉を開ける。


それからはいつも通りに琴音と学校まで自転車通学をする。

途中、葉が緑に色づいているのを見てもう夏が近づいてきているものなんだと思えた。


学校に着くとまだ教室には数名しか居なく、毎回遅刻をしている智一は、昼とは真逆の静けさで違和感がある。

琴音は朝練をしている桜木 瑞希(さくらぎ みき)を見に行った。

智一は一人何もする事が無かった為、持ち物を机に置き窓側に行く。

涼しい風が、身体中に冷えた空気が染み渡る。

「河島、今日来るの早くね?」

声の主は窓際の一番後ろの席に座る紀村 大輝(きむら だいき)だった。

「今日は目覚めが良かったんだよ。」


「へぇ珍しいな。これからも早く来てくれよ朝は話す人が居ないからよ。」


「おう。努力はするよ。」

曖昧な返事をする。


「そういえば河島って、霧島と付き合ってんの?」

既に教室のあらゆる人に噂が広まっていた。

「まぁ、そんな感じかなぁ…。」

実際これが嘘なのだから面倒くさい事になってきてる気がしてきた。



昼になるといつもの騒がしさが戻ってきた。

「お二人さん、結局俺らが行けなくなったって送った後どこか行ったの?」

智一の親友である雉鳩 竜司(きしば りゅうじ)は昨日の放課後の事について聞いてきた。

「別に何処にも行ってないけど。」

琴音が答える。

「それよりお前は何で来れなかったんだ?」

智一が聞くと、竜司は笑って誤魔化した。

「下手な気遣いなんていらないって。」

気遣いをしている事は琴音にもバレていたらしく竜司は、すんませんと素直に謝っている。


そして昼も終わりまた授業へと戻る。

教師が黒板に文字を書いてゆく。

「はい、ここ夏休み明けのテストで出すからな。覚えとけよ。」

夏休み明けすぐのテストは生徒達が夏休みでだらけた気分を叩き直すものだと思っている。

チャイムが鳴ると、授業も終わり各々が自分達の話をしている。


「テストってなんであるんだろうな?」

竜司がそう智一に問いかける。

「知らんよ。一つの行事として考えればいいんじゃないか?」


「お前あれが行事とか…地獄の間違いだろ?」

あながち間違ってはいないと内心思ってしまった。

「地獄でもいずれはやってくるんだから、ちゃんと勉強しとけよ?お前ただでさえ今年の夏補習なんだから。」

へいへいと竜司は適当な相槌をして、その後は別の話題にすり替えて話をしてきた。

「智一自身って幼馴染は可愛いと思うのか?」

可愛いと言われてもそのような感情を持った事は一切無い。

「まぁ、見方を変えれば可愛いだろうな。」

見方を変えればの話だ。

「はは。すげぇな彼女への評価が。」



放課後になると、部活に行く者やそのまま帰宅する者などが多く教室に残るのは少ない人数だけだった。


智一達はというと、瑞希と竜司がテニス部で、智一と琴音は部活には所属をしていない。


「今年って夏休み何日から〜?」

琴音が聞いてくる。

「16日からじゃないのか?」

智一はそれを答える。

「16日か。後もうすぐだな部活張り切るぞー!」

竜司はその調子のまま教室を出て行きそれに続くように瑞希も出て行った。

「さて、俺らはこの後どうするか。」


「まだ帰るには早いからあと少しだけ残ってようよ。」

時刻は17時20分を指しており、外はまだ夕焼けが覆っている。

「そうだな。」

そう言った後しばらく辺りが静かになる。

「そういえば、もう教室に残ってるのは私達だけみたいだよ。」

智一は辺りを見回してみると確かに残って居るのは二人だけのようだ。


「ありがとね。昨日の約束守ってくれて。」

琴音と昨日約束したのは、転校の事と智一と付き合っているのは嘘だという事を誰にも話さないという事だろう。

「まぁ、約束は約束だしな。」

だが智一は一つ疑問に思っていた事があった。

それを口に出そうとした瞬間、琴音が先に言葉を発した。


「ていうか智一。休み時間に竜司と私の話をしてたよね。」


「話してたな。」

普通に受け流して返答をしたが、智一は何か嫌な予感がした。


「じゃあ何についての話してたの?」

真剣な眼差しで智一を見つめてくる。

「あれだよ。あの夏休み一緒にどこ出かけるんだって話だった。」

智一は気付いたら嘘をついていた。

「そっか、じゃあ今度一緒に決めようよ。」

智一は琴音が内容については知らなくて安心をした。


そんな話をしている中、真っ赤に燃えたような色の夕焼けはだんだんと夜という名の黒色が染め上げていた。


「そろそろ私達も帰ろっか。」

琴音に言われたので智一も帰る事にした。

学校を出ると、月光が明るく夜道を照らしてくれていた。


「今日は月がやけに明るいな。」

智一はそんな事を呟く。

「ねぇ智一。さっきの話なんだけど…」

琴音は何かを言いかける。

「さっきの話がどうした?」


「いや、なんでもない。」

何故聞いたのか疑問に思いつつも気にしない事にした。

しばらくすると智一の家が見えてきた。

「じゃまた明日。」


「うん、じゃあね。」


家に入ると最初に目に入ったのが、玲香のものと思われる字で『母さんと晩ご飯を食べに行きます。』と書いてある手紙が置いてあった。

河島家は、両親が共働きで今日は偶然母親の帰りが早かったらしい。

「玲香のやつ、外食かよ。くっそ晩飯どうしよう。」


外食で美味いものを食べているであろう玲香を恨みつつも智一は、作るのが面倒になったのでコンビニに行く事にした。

入店をするとコンビニ特有の電子音が鳴る。

すぐさま弁当のあるエリアに行くとあまり食べ物が棚に並べられてない状況だった。


残っていた物の中で冷やし中華に目がいった。

それを手に取ろうとすると同時に誰かの手が当たる。

「あ、すいません。」

智一が謝る。

「別に大丈夫です。」

じゃあと言って智一はその場から立ち去ろうとする。

「ちょっと待って!その制服はもしかしてうちの高校のやつじゃない?」

呼び止めた相手を見る。

肩くらいまで掛かる髪に、智一と同じ制服。

顔は美人と言っても良いだろう。

「君何年生?」


「二年ですが…。」

何を納得したのかは知らないがその女子は頷いている。


「じゃあ後輩くんかぁ。」

どうやら智一より先輩だったらしい。

「そうだねー。先輩として此処は後輩くんに冷やし中華を譲って差し上げよう。」

後輩だと知った瞬間に態度が急に上から目線になる。

「ありがとうございます.…。」

智一はレジに並んで会計を済ます。

コンビニを出る時にもまた電子音が鳴る。

「明日、学校で会えるといいね。」

背後からそんな事を言われる。


家に帰宅すると、冷やし中華の入ったレジ袋をダイニングの机の上に置く。

手を洗いに洗面所に行く。

そしてそれが終わると念願の夜食に辿り着ける。


「いただきます。」

蓋を開封して具材の乗った皿を麺の入った容器に入れ麺つゆをかける。

「うめぇ。」

一人でそんな事を言ってると悲しくなってくる。

「琴音に言いそびれたけど、そもそも嘘の恋人をやる事であいつらからいじられるの回避する的な事言ってたけど…。」

智一はコップに注いだ麦茶を飲む。

「全然いじられるの収まらないんだよなぁ。逆に火種になるって事を分からないのかな…。」

そんな事を考えつつも既に冷やし中華の入っていた皿は空だった。

「ごちそうさまでした。」

智一は立ち上がり今まで食べていた空の容器をゴミ袋に入れる。


「ただいま〜。」

と玄関の方で玲香と母の声がする。

「おかえり、今日二人だけで外食とはずるいな。」

玲香は不敵な笑みを浮かべて、語りかける。

「兄さんはいいんじゃない?どうせ彼女と話してて遅れたんだろうし。」


「え?智一彼女居たの?」

母は驚いた顔をしている。

「それもね〜……」

玲香は母親の耳元で何かを言っている。

「やっぱり智一好きだったんだ。確かに琴音ちゃんは可愛いもんねー。」

やはり玲香はろくな事を言わなかった。

「俺は別にあいつとは…。」

思えば智一はあの時の返答をしていないのだ。

「先部屋行くから。」

とだけ伝え自分の部屋に入る。


変だと思ったのだ。常に襲う違和感の正体のようにも思えた。

琴音はまるで返答を聞いたように振る舞っている。

そんな中考える。答えはどうするべきなのか。


このままこの嘘を続けるのか、それとも琴音が居なくなるまで前とは変わらない立ち位置に戻るのか。

それくらいしか解答は選べない。


ただ言える事はそれがどちらも正解とは限らない。

「まぁ答えは明日にでも考えれば良いか。」

と言ってベッドにうつ伏せになる。

いつの間にかに智一は深い眠りへと誘われていた。




しばらく更新が遅れてしまい申し訳ございませんでした。


早めに更新が出来るよう努力はします。



執筆をしていたら気付くとクリスマスが終わっていました。

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