表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

僕たちの始まり


あの夏も終わりに近づいた日、河島 智一(かわしま ともかず)は初めて幼馴染(あいつ)に恋をした。


6月29日 (水)


今日はいつも以上に目覚めが良好だった。

それは鳥のさえずりに起こされたように思えた。

だが、何故だ。

朝から疑問に思う事がある。

それは何かというと、隣の家に住んでいる筈の幼馴染が智一のベットの横で寝ている事だ。

「おい、琴音。お前なんでこんな所にいるんだ?」


驚いた為に少し大声になってしまった。

だが彼女は起きずに、気持ちよさそうに眠っていた。

現在時刻は午前7時20分、智一と幼馴染である霧島 琴音(きりしま ことね)は学生であるので学校に行かなければならない。


この状況は喜ぶべきなのか?

「むにゃ〜。もう駄目だよ〜。智くんは強引なんだから〜」

寝言のようだが、一体何の内容の夢を見ているんだ。

「んじゃ俺は先に起きようかな〜っと」

あれ?おかしい。起き上がれない。

隣を見る、琴音は智一の袖を掴むような形で寝ている。


「ちょっと琴音さん?起き上がれないんですが…」

「えへへ〜、離さないよぉ〜」

寝ぼけてるのだろう。

智一は正直この状況のままでも良いと思っていた。

だがその思いも一瞬で壊される事になる。

「朝からうるさいですよ。兄さ…。は?」

そう扉の先には妹の河島 玲香(かわしま れいか)がこちらを怪しむように覗いている。



「いや違うんだ…。これには深い訳が…」

深い訳といっても今の智一にはこの状況が理解不能である。

場の空気はどんどん悪化していく。


「兄さん朝からケダモノですね。まさか朝から幼馴染に手を出す変態だとは思ってませんでしたよ…」

何か誤解を招いているような気がする。

「まぁいいですよ。朝食は出来ているので勝手に食べて下さい」

玲香は呆れたのか、すぐに出て行ってしまった。


「はぁ、てか何で朝からこんな事になるんだよ」

琴音の方に視線をやると、既に起きていた。

「あれ?私なんで智一の部屋に居るんだろ…」


「それはこっちのセリフだよ!何でここに居るんだ?

色々と玲香に勘違いされてるんだからな」

この勘違いはどうにもならない事を智一は察した。


「玲香ちゃんにはなんて言われたの?」

「朝から幼馴染に手を出す変態ケダモノ野郎って。」

すると琴音は笑い出した。

「あはは!それ傑作だわ。でも…」

「でも?」

「智一になら手を出されても…いや!何でもないから今の話終わり!私あんたが遅いから迎えに来たんだから」

一つの疑問が智一の中に湧く。

「あのなぁ、迎えに来たんだったら何でお前寝てるんだ?」

隣でぐっすり寝ていたせいで、余計遅れたのではと思う。

「そ、それは…」

琴音は、次の言葉が思いつかない。

「どうだっていいでしょ!先に外で待ってるから」

さっさと外に出て行ってしまった。


07:30

あれから玲香に散々問いただされ、まともに朝食を取れるような状況ではなかった。

食事は、目玉焼きに味噌汁、ご飯に漬物とどの家庭にも用意されるであろう一般的な食事であった。

「聞いてますか?兄さん。幼馴染さんとはどういう関係で?」

その質問は既に5回は聞いている。

「あのなぁ、俺とあいつは幼馴染。それ以外の関係なんて無いだろ?それに俺はあいつの事を女として見れない」

玲香は溜息を吐いた。

「あのですね、仮に兄さんがそう思っていたとしても、その事を本人の前で言わないでくださいよ」


「そんな事分かってるよ」


実際、琴音と智一は、幼稚園から今の今まで一緒に同じ時を過ごしてきて、今更になって女として琴音の事を見れなくなっていた。

「んじゃ行ってきます」

扉を開けるとそこには不機嫌そうな顔をした琴音がいた。

「遅い!正直置いてこうかと思ってた所だったんだけど」

玲香との話が長引いてしてしまっていた間、ずっと外で待っていたので相当ご立腹だ。

「ごめん」


「別に大丈夫だけど…。ほら、早く行くよ」

そして自転車を準備して発進させる。

こうして二人で登校するのは小学校の頃から変わらない。

「琴音、今年何歳だっけ?」


「17だよ。ってあんたと同い年なんだから質問の意味無くない?」


「あっそうだった」

智一は忘れてたように笑い飛ばす。

今年で高2になった智一だが内心焦っていた。

周りが皆、彼女と出掛ける中というものの智一は未だに彼女など作った事も無いし、恋などという一定の期間だけ盛り上がる馬鹿げた祭りなど興味はないと思っていたからである。去年までは。


「でもね。私思うんだ」


「何をだ?」


その後琴音から思いがけない言葉が放たれる。

「この日々がいつまでも続いて欲しいなって。私がいて、友達がいて、お母さんとお父さんがいて、智一がいる日々」


「でもねそんな日々は永遠には続かないと思うの。

いつかは皆、バラバラに離れてしまう」

智一はこの意味深な言葉の真の意味を理解出来ない。

それは本当に今当たり前にある気付いてはいない至福の世界の終焉の合図を意味していた。


「私さ、二学期にはもう此処に居ないんだ…」


「は?」

嘘だと思ってしまう。今まで子供の頃から四季を何年も共にしてきた。だがいまいち実感が湧かない。

どうせ嘘だろうと思ってしまう自分がいる。


「父さんの転勤で私も一緒に行かないといけなくなって…」


「なぁ、冗談だよ…な?」


「冗談なんかじゃないの」

そうそれは、冗談や嘘なんかではない。全て現実であり事実なのだ。


「だからね…、今年の夏休みの終わりの日まではまだこっちにいるから。その日までは今まで通りと変わらないから」


琴音は何か寂しげな部分を隠しているようにも見えた。多分こっちでまだ出来ていない事でもあるのだろう。


「分かった。琴音がまだ此処にいる2カ月間、お前のやりたい事は、幼馴染としてきちんとやってやる」


「その態度変わらないね。智一は…」


こうして歩み出した幼馴染(あいつ)智一(おれ)の夏の終わりまでの2カ月間。


もう戻る事など許されない時の歯車は確かに動き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ