とある言語の結束主義
私達は出口へと駆け出す。
すると、私の前に包丁を持った板前が立ちはだかった。ぎこちない仕草で手に握った物を振り下ろそうとするが、私はその前に彼の顔面を左手で鷲掴みにし、張り倒すようにして彼の後頭部を床に落とす。それから私が男の失神を確かめていると、
「在都君!」
私の頭上に大きな甕が迫っていた。それを持った操り人形が手を放す前に私は彼女の腹部に打撃を加え、彼女の意識を奪う。これによって自由落下を始めた甕を静止させ、私はこれを床板の上に置く。その直後、私の後部カメラに不審な影が映った。
キィン――乾いた金属音が私の前髪を揺らす。
ロリカ様とダンテ様は瞬間凍結でもしたかの如き様だ。
お二人を庇った私の背中には薄刃が接触しており、それを高血圧っぽそうな調理師が両手で握っている。
皮膚が損傷しています。医療機関で治癒を受けて下さい。
と、私の視界の端に表示されている。
「……う、ああ」
調理師は涎を垂らしながら私の体を貫通されない薄刃を眺めている。彼の口から零れた彼の唾液が薄刃に付着し、薄刃は銀色の光を反射している。だがしかし、その光は私の後部カメラには映じなかった。
私は上半身を反転させると同時に、赤ちゃん返りを果たした調理師の顔面を全力で殴り落とした。
「無事なのか? 在都君」
ダンテ様は血色を悪くしていらっしゃる。
「もちろんです。サイボーグですから。申し訳ありません。お二人への接近を許すとは」
「出口はもうすぐだ。急ごう」
そうして、私達は蒸し暑い料亭の中を逃走することによって、出口に辿り着いた。だが、この時の私達には、既に出口なんてものはなかったのだ。
「何だ……? これは……」